2021年2月10日
第4回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
一般の部【入選】
「小さな棺」
木森 香織(47歳)福井県
私が、看護師になって2年目の頃。希望だった、産婦人科で夜勤をしていた時の事。
夜勤の仕事は、夜間のお産や、婦人科の手術後の経過観察、新生児のお世話など、夜勤とはいえ、忙しいものだった。その夜も、電話が鳴った。電話に出るのも看護師である私の役目だった。
昼間、妊婦健診に来ていた妊婦さんのSさんからの電話だった。昼間、受診した時は、胎児の心拍音もあり、胎動もあったとの
緊急で入院していただき、胎児を確認すると心拍音は確認できなかった。死産だった。陣痛促進剤を使い、亡くなった赤ちゃんをSさんは産んだ。静かで悲しい
医師によると、400例に1例くらいの割合で、原因不明の死産があるとのことだった。それまで、何の
助産師さんが、赤ちゃんを他の子と同じように、体を拭き、
Sさんは、小さな羊のぬいぐるみを赤ちゃんの枕元に置いた。愛おしそうに、頭を、手を、体をなでている。涙があふれてくる。
「頑張ったね。」「小さいね。」「かわいいね。」「ごめんね...。」と言って、泣き崩れた。
どんなに悲しかっただろう...。苦しかっただろう...。私も涙が止まらなかった。
不思議と、赤ちゃんは幸せそうに見えた。本当に生きているように見えたし、さっきまでSさんのお
「命」という言葉を聞くと、私はこの赤ちゃんの姿が浮かぶ。命そのもの。
私は、現在は精神科の仕事をしている。精神科では、自ら命を絶つ人や、「どうして死んじゃいけないの?」「死にたい。」と言われることも多い。その人それぞれに、生きる事に困難さを感じ、生きる意味を見失ってしまうほどの絶望も理解できないわけではない。でも、生きている事、生まれてきた事を、ただ受け止め、意味は持たずとも、生きていく、ただそれだけでいいのではないかと、その命を持ち続けることでいいのではないかと思ったりする。うまく言葉にはしがたいが、あの時の赤ちゃんの小ささ、形が、いつも胸の奥にあって、小さく呼吸をしている気がする。私に、命を教えてくれている。この感覚を、心を病んでしまった人や、死を考えている人たちにも、伝えたいと思う。現実はそんなに甘くないかもしれない。環境や、考えや、思う事は違っても、生きていることを、ただ伝えたい。長くこの仕事をしていても、上手に伝えるのは簡単ではないが、「命」を感じて、「命」を守りたい。その思いがいつも心の奥にある気がする。
第4回 受賞作品
一般の部: 【 厚生労働大臣賞 】
【 日本医師会賞 】
【 読売新聞社賞 】
【 審査員特別賞 】
【 入選 】
【 入選 】
【 入選 】
【 入選 】
【 入選 】
中高生の部:【 文部科学大臣賞 】
【 優秀賞 】
【 優秀賞 】
【 優秀賞 】
小学生の部:【 文部科学大臣賞 】
【 優秀賞 】
【 優秀賞 】
【 優秀賞 】