2019年5月1日
第2回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
今回のコンテストには、フォト部門2259点、エッセー部門1432編にもおよぶ作品が寄せられました。たくさんのご応募ありがとうございました。下記に受賞作品をご紹介いたします。
第2回 生命を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
フォト部門
※受賞作品名をクリックして頂くと別ウィンドウで開きます。
審査員からのひとこと
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■熊切圭介(写真家/日本写真家協会会長)
「厚生労働大臣賞」 について、農家の軒先で、家族がそろっている、そこにたまたま猫が横切っていくというその一瞬を捉えているのが、タイミングがよく面白い。一瞬のものだけれども、最良の瞬間を捉えており、設定された舞台のように撮れています。写真そのものが、格調高く感じました。
「日本医師会賞」 について、他の選考された写真は1対1という設定ですが、この写真の場合は、周囲に人がいる状況の中で自然な一瞬の面白さを捉えた写真です。鹿が寄ってきたときの子どもが怖がって手を縮めている、その心理状態・子どもの心がよく表現されています。
「読売新聞社賞」 について、画面構成がシンプルだけれども、オシドリの夫婦の温かい感情の流れが伝わってきます。周りの雰囲気もうまく活かして、おしどり夫婦の魅力的な姿を効果的に表しています。
「審査員特別賞」 について、おばあちゃんと孫の気持ちがよく表れている写真です。おかゆでしょうか、おばあちゃんに一生懸命こぼさないようにあげている子どもの真剣な表情、おばあちゃんといっしょに口を開けて同じような格好をしている、おばあちゃんと孫の気持ちが通い合っているのがよく感じられます。
全体として生命の大切さ、生命をつなぐ親と子、孫と娘、そういう感情がとてもよく表現されている。テーマに沿ったふさわしい作品が選ばれました。 -
■岩合光昭(動物写真家) Iwago Photographic Office
「厚生労働大臣賞」 について、タイトルでもある「古里の味」のリンゴを家族で食べようとしたところに、ふと現れた三毛猫が通っていく...という一瞬の出来事を逃さず捉えています。みんなが三毛猫に気を取られて笑顔になっている様子から、ほのぼのとした空気感と、動物の持っている癒やしの力がよく伝わってきます。「あら、猫ちゃん」なんていう声が聞こえてきそうです。
「日本医師会賞」 について、まず、11歳の男の子が撮った作品というのに驚きました。将来はきっと写真家になれます。女の子が鹿の群れに慌てた一瞬を逃さず捉えています。11歳の素直な感性で「いいな」と感じた瞬間を収めているのが良いですね。ハッ、と心が動いた瞬間にシャッターを切るというのは写真の基本ですが、それがよく表れていると思います。
「読売新聞社賞」 、『おしどり夫婦』という言葉がありますが、これはまさにそれを表すような一枚です。「春が来た」というタイトル通りに、雪解けの季節、オシドリが恋をして求愛する様子を捉えています。季節的な「春」が来たこと、恋を表す「春」が来たこと...その二つが、1月枚の写真からよく伝わってきます。
私は、作りこまない素直な作品が好きです。「審査員特別賞」 についてですが、この2人は、カメラを向けられてはいますが意識はせずに、お互いのことを見ています。カメラがその場にあると人はどうしてもそれを意識してしまいがちですが、この二人は気にしていません。自然にお互いを愛おしむ様子が表れていて、とてもいいなと思いました。
全体的な統括として、今回は見ていて思わず笑顔になれるようなほのぼのとした作品が多かったように思います。入賞した4作品に共通しているのは、いずれも「自然な一瞬」を捉えているということです。写真を撮るために作りこんだ情景ではなく、猫が通る、鹿が女の子を囲む、オシドリが求愛する...そんな自然な一瞬を逃さず捉えています。生命を見つめ、愛おしいと感じた瞬間を写したのだな、というのが伝わってきます。 -
■松下奈緒(女優/音楽家)
「厚生労働大臣賞」 「古里の味」は、おばあちゃんとお母さん、お孫さん、三世代なのでしょうか。三人共がみんな足下の猫ちゃんに注目しているのにもかかわらず、お構いなしに歩く猫。その対比にグッと来ました。
「日本医師会賞」 「えさはないか?」は、私も子どもの頃にこういう経験したなぁと思い出しました。鹿に囲まれて怖いけど、ちょっと触ってみたい。この女の子の表情が完全には見えないところが、また想像をかき立てられます。
「読売新聞社賞」 「春が来た」は、まるで鳥じゃなくて人間のよう!彼女の方が凄くかわいい表情をしていて、2羽だけの世界に夢中で、こちらから撮られていることにも気づかない。そんな時間が流れているような気もします。
「審査員特別賞」 「おおばあちゃんと孫」は「おばあちゃん、あーん」と声が聞こえてきそうです。もしかしたら何年か前は、おばあちゃんがお孫さんにご飯を食べさせていたかもしれないと思うと、お孫さんの成長も感じつつ、ほのぼのとした1枚に感じられました。
全体を通して、人物であっても、動物であっても、写真1枚1枚から日常の風景を切り取り、そこにはストーリーがあり、撮影者の方の思いがとても伝わってきて心があったかくなりました。
エッセー部門
一般の部
- 厚生労働大臣賞
- 「恩返しと恩送りの決意」
- 門脇 利枝(広島県)
- 日本医師会賞
- 「人生の終い方」
- 鶴田 智子(福岡県)
- 読売新聞社賞
- 「奇跡の子」
- 中江 サチ(東京都)
- 審査員特別賞
- 「希望のバトン」
- 栗山 桂樹(長野県)
- 入選
- 「温かな赤ちゃん」
- 宮原 玲子(鳥取県)
- 入選
- 「身体拘束のベッドで叫んだ『便所』」
- 水落 宣尋(群馬県)
- 入選
- 「いのちは無条件」
- 山之内 勉(鹿児島県)
- 入選
- 「酒肆のおかみさんは学習支援員」
- 山田 美與子(東京都)
- 入選
- 「アルツちゃんの母と」
- 青木 容子(栃木県)
中高生の部
- 最優秀賞
- 「ボランティア」
- 鈴木 涼太(静岡県)
- 優秀賞
- 「二人の絆が生む奇跡」
- 古泉 修行(新潟県)
- 優秀賞
- 「母の生命が遺したもの」
- 石戸 佑妃(秋田県)
- 優秀賞
- 「雅美へ」
- 梅本 花音(東京都)
小学生の部
- 最優秀賞
- 「将棋の師しょうは命の恩人」
- 前田 海音(北海道)
- 優秀賞
- 「オオカマキリと過ごした百三日間」
- 薛 知明(愛知県)
- 優秀賞
- 「おじいさんの足」
- 横山 紗来(兵庫県)
- 優秀賞
- 「ぼくのおじいちゃん」
- 久松 煌世(神奈川県)
審査員からのひとこと
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■養老孟司(東京大学名誉教授/解剖学者)
実際の体験談は興味深いものである。それを素直に他人に伝えればいい。そう言うのは簡単だが、むろん問題はその先である。そこから先は、審査員の意見も分かれるところであろう。私自身はどちらかと言えば、読んで明るい気分になるものを好ましいと思う。でもそれだと、主題より表現の方が軽くなってしまうことがある。そのあたりの釣り合いが微妙で、そこを上手にこなすのが芸である。
今回の作品も、いずれも題材は良いものだった。でもその先にいくつか問題が感じられた。なにより表現である。言葉の順序、文章のリズム、それをまず検討するだけでもいいと思う。それが自分でも心地よく感じられる、あるいは抵抗がなくなる、そこに至るまで何度も書き直してみたらどうだろうか。さらにより適切な表現が見つかるかもしれない。 -
■玄侑宗久(作家/福聚寺住職)
今回も誕生から終末期まで、病院や介護施設や自宅を舞台にしたさまざまな体験が揃った。どれも力作揃いで審査はとても難しかった。
医療全体はシステム化されつつあるが、どうしてもそれを支えるのは医師や看護師さん個人であることが作品を読むうちに痛感されてくる。魅力的な医療関係者たちの言葉や振舞いを数多く読めるだけで審査員冥利である。日本もまだ大丈夫かもしれない、そう思えてくるのだが、どうなのだろう?
いずれにせよ、医療が人の人生を大きく左右するのは間違いない。人生を大きく変えた医療についての話を、今後も期待したい。あ、人間じゃなくて虫のお医者さんを目指す薛さんの作品(「小学生の部」優秀賞)も、とてもよかったことを申し添えておこう。 -
■水野真紀(女優)
今年も 心揺さぶられる作品ばかりで、選考会では皆が大いに悩まされました。
自身の思いや経験を言葉に紡ぐ作業は、時に辛く苦い記憶を蘇らせたことでしょう。それでもなお心血を注ぎ筆を走らせることで、曖昧模糊とした思いを整理し「今の自分」と向き合えた方が多かったのではないでしょうか。
書くことは自身をさらけ出す勇気ある行為です。でも、そこには「共感」が生まれます。「共感」のみならず、時代が求める「共生社会」の礎となるものが応募作品には多くありました。作品を拝読し、益々このコンクールの意義を強く感じた次第です。
次回も皆様のご応募をお待ちしております。