医師のみなさまへ

医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師とその他の医療関係者】F-3.地域包括ケアシステムの中での医師の役割

羽鳥 裕(日本医師会常任理事)


印刷用PDF

 地域包括ケアシステムとは、地域の実情に応じて、高齢者をはじめとする継続的なケアを必要とする者が、なるべく住み慣れた地域で自立した日常生活を営むことができるよう、医療や介護、予防、住まい及び生活支援を包括的に提供することである。その地域単位は中学校区、市町村や郡市区医師会等であり、これからの時代におけるまちづくりの基盤ともなる。多職種連携、水平連携、在宅医療や介護等がキーワードとなるが、「ときどき入院、ほぼ在宅」と表現されるように入院医療も大切な要素である。在宅の場所は患者や家族の自宅に限らず、介護施設等も含まれる。

 地域包括ケアの中心を担うのは「かかりつけ医」であり、かかりつけ医機能を推進する地域医師会である。また、医療機能の分化が進むこれからの時代では、拠点病院等の勤務医に対しても、地域連携や地域包括ケアシステムに深く関わっていくことが重要となる。

1.これまでの経緯

 地域包括ケアシステムは、1974年から「寝たきりゼロ作戦」に取り組んできた山口昇医師(広島県、公立みつぎ総合病院)により提唱された。その後、国の関係会議や研究会等を経て、まずは介護保険制度に位置付けられ、2014年6月に成立した医療介護総合確保推進法により、地域包括ケアシステムの構築を財政的に支援する地域医療介護総合確保基金の創設、在宅医療を含む医療計画と介護保険事業(支援)計画との整合、地域支援事業の見直しが図られた。また、診療報酬においても、地域包括ケアシステムやかかりつけ医機能への評価がなされてきた。

 2018年は、医療と介護の両計画の同時スタート、診療報酬・介護報酬・障害サービス報酬の同時改定により、地域包括ケアシステムが本格的に推進される年である。

2.人口のパラダイムシフト

 国が地域包括ケアシステムを推進する背景には、わが国が直面している人口の大変動がある。2025年には団塊世代のすべての者が75歳以上となり、さまざまな疾病や障害を併せもち、医療や介護を必要とする高齢者の増加や、大都市圏の急速な高齢化と地方の過疎化が起こる。さらに2040年以降、団塊ジュニア世代も全員65歳以上となり、わが国の高齢者数はピークを迎える。75歳以上人口はその後も増加し続けるが、他方、少子化による人口減少のため、生産年齢人口を中心とした社会の担い手は実数・割合ともに減っていく。

 地域包括ケアの対象は高齢者だけではない。例えば医学の発展により超未熟児等の救命率が高まった結果、「医療的ケア児」が増加して保育や教育も加えた体制の構築が進められている。もちろん、小児難病、若年の障害者や心不全患者なども対象となりうる。

 こうしたことを踏まえ、地域包括ケアシステムは、年齢や障害の有無などにかかわりなく安心して暮らせる「共生社会」に向けたシステムとして、医療・介護に限らず、消防、住宅、交通など広い分野で国や地方の政策課題となっている。

3.かかりつけ医機能と地域包括ケアシステム

 各地の地域包括ケアの中心は、住民に寄り添い信頼される「かかりつけ医」が担うことになる。そしてかかりつけ医にはより適切な研鑽が求められるが、日本医師会においても、2016年度より「日医かかりつけ医機能研修制度」を開始している。時には、学校医や産業医活動との連携も必要となってくるし、地域包括ケアシステムには所属も異なる多様な職種が関わるため、それらの人を統括する医師によるメディカルコントロールが重要である。さらに「多死社会」の到来や死生観の変化の下、将来の医療・ケアについて患者の意思決定を支援するAdvance Care Planning(ACP)など人生の最終段階に関わることも、かかりつけ医の役割である。

 しかし、個々の医師や医療機関の努力のみに依存すべきではなく、地域全体でかかりつけ医機能を精進しなければならない。地域包括ケアシステムの従事者研修、在宅患者の急変時の対応、専門医療機関との役割分担と連携、住民や患者教育、これからについてのICT・AI・IoT活用、救急や民生等を含む関係者会議等の活動も大切で、地域医師会が行政と「車の両輪」のように連携して行うこととなる。

 災害対策でも地域包括ケアシステムの視点が大切である。患者、要介護者や障害者は災害時要配慮者であり、防災計画、福祉計画や避難所にも配慮が必要である。地域医師会も、災害への備えとともに、発災時には全国の医師会との協働や多職種連携による支援活動を担えるように日常より対策を考えておくことが必要である。

おわりに

 わが国は「人生100年時代」を迎えつつある。少子化も同時に進むなか、多くの方々が健康で長生きをして地域を支え、医療や介護が必要となった時に助け合える社会を築いていかなければならない。

 地域包括ケアシステムの構築・充実は、病気の予防・健康増進等による健康寿命の延伸や生涯現役社会の実現策と相まって重要な施策である。多くの医師には、特に医師会活動を通して、それぞれの立場や専門分野に応じた積極的な関与が求められる。

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

医の倫理の基礎知識トップへ