9. 異業種との連携が可能にする「命を守る社会」へ
最後に、災害医療が分野横断し、技術、産業、インフラ、サービスといった異業種と協働していく「命を守る社会の仕組み・デザイン」の可能性を探るため、⽇本政策投資銀⾏の蛭間芳樹⽒が登壇した。蛭間⽒は、都市災害軽減⼯学やソーシャル・イノベーションを修了し、防災・BCP・危機管理・気候変動対策と⾦融技術等に関する内外専⾨委員会に参画してきた。世界経済フォーラム ヤング・グローバルリーダー2015にも選出された⼈物である。
蛭間⽒は、災害⼤国の⽇本を、アドバンテージにする価値を語った。「⽇本は、さまざまな国難・災害を乗り越えてきました。『危機』という漢字が表すように、『Dangerous(危険)』を上⼿くマネジメントすれば、『Opportunity(機会)』にもなり得るのです」 「平常・災害時にハードを整え、リスクを予⾒し、予知情報・早期警告を出し、モードを切り替える。新しいシステムを作る。このように、⽇本はあらゆる危機に対してのフレームワークをつくってきました。これ⾃体が先⼈たちが積み上げてきた知恵なのです」。
蛭間⽒は、「平時・有事の防ぎ得た死は、社会全体の課題であり、決して医療だけの問題ではない」と強調する。「課題解決として、孤⽴しがちな個⼈・家族・地域・社会の関係の脆弱性を改善することが、命を守る社会づくりに⽋かせません。分断された領域の中で個別最適を⽬指すのではなく、今後ますます医療と異業種のスペシャリストたちが密接に連携していく必要があると考えます」。
以下に、この⽇登壇したベンチャー企業で、災害医療と協働できる可能性を秘めた⾰新的な技術・サービスを紹介しよう。
物流ドローン・空⾶ぶクルマ/株式会社SkyDrive
SkyDrive は、物流ドローンや空⾶ぶクルマの実⽤化を進めている。同社の物流ドローンは、2024年1⽉、能登半島地震における被災地⽀援の⼀環として、陸上⾃衛隊の要請を受け、孤⽴集落の被害状況を把握するための調査⾶⾏および荷物の運搬を担った。
⼩規模分散型⽔循環システム/WOTA 株式会社
WOTAは、⽔問題の構造的解決に挑む、東京⼤学発のベンチャーである。災害対策事業の原点は2018年に発⽣した⻄⽇本豪⾬だ。多くの被災者が真夏⽇の2週間に⼊浴できなかったところへ、試作の⽔循環システムを持ち込んだ。
⼩規模分散型⽔循環システムは、⽣活排⽔を98%以上、再⽣・循環利⽤できる仕組みである。これまで何度も、災害時にシャワーや⼿洗い場を提供した実績を持つ。
今年元⽇に発⽣した能登半島地震においても、⽔循環型シャワー「WOTABOX」約100台、⽔循環型⼿洗いスタンド「WOSH」約200台を、⻑期断⽔避難所の84%、68箇所の病院・介護施設等に展開し、⼊浴・⼿洗い⽀援を⾏った。
遠隔医療/株式会社CROSS SYNC
CROSS SYNC は、横浜市⽴⼤学発の認定ベンチャーである。同社は、⽣体看視アプリケーション「iBSEN DX」を⽤いて複数の患者の潜在リスクを把握し、医療現場での異常症状を早期発⾒できる仕組みを構築中だ。
重症系の病床で起きている医療事故の61%は、患者観察のミスや、情報共有の不⾜によって発⽣している。当アプリを使⽤すれば、医療専⾨家による遠隔での患者観察が可能となり、災害医療現場においても期待ができる。
空き情報可視化/株式会社バカン(VACAN)
混雑や利⽤可能な状況を可視化できるITプラットフォームを構築しているのがVACANだ。平時には学校や公⺠館、ショッピングモールなどの施設で利⽤されるアプリとして使⽤されている。災害時には、避難場などの空き情報をスムーズに届けることで、「待つ」をなくすことが期待できる。