未来志向で命を守る 災害医療の新たな挑戦~医師から起業家まで、オールジャパンで「知」を結集~

8. 医療の安全を包含した未来のまちづくり

加藤孝明教授(東京⼤学)は、都市計画の専⾨家であり、防災まちづくりの第⼀⼈者である。都市災害シミュレーションの研究や、各⾃治体と共に防災を主軸とした地域づくりに取り組んでいる。

講演の冒頭で、加藤教授は「⾸都直下地震や南海トラフ巨⼤地震を含め、これからの⽇本は“災害の時代”に⼊っていく」と危惧を⽰した。

さらに加藤教授は、病院の4割が洪⽔浸⽔想定区域内に建てられており、豪⾬で被災するリスクが⾼いことも指摘。都市計画上、病院には広い敷地が必要であり、危険な場所を完全に避けることは難しい。そこで対策として、約20年前から産官学連携で検討を続けている「浸⽔対応型市街地構想」を紹介した。

シンポジウム1

加藤教授は語る。「浸⽔対応型街区・浸⽔対応型建築物を、計画的に街の中につくっていく事を考えています。この街では、避難空間や、⾃⽴型のライフライン機能を有しています。もし周辺地域で災害に遭った⼈たちも、この街に来ることができれば、⽔や、エネルギー、情報がもらえる。命を守ることができる。また、もし危険地域に病院が⽴地する場合は、そのリスクを理解した上で、災害に対応可能な建て⽅が必要です」。

さらに、地域マイクログリッド(災害時に広域停電が起こった際、⼩規模な地域単位で電気の⾃給⾃⾜ができるエネルギーシステム)が、千葉県いすみ市で2023 年にスタートした事例を説明し、ライフライン(電⼒)が技術的に⾃⽴可能になったと説明した。その他、圏域外のリソースに頼らなくても災害を乗り越えられるまちづくりを⽬指す「災害時⾃⽴⽣活圏」も紹介した。

最後に加藤教授は、東京都における救急⾞の搬送能⼒や、医療機関のキャパシティー不⾜を説明し、この現実を⽇本社会が直視すべきだと警鐘を鳴らした。「万が⼀、⾸都直下地震が起きた場合、負傷者の想定は9万⼈、そのうち重傷者は1万⼈と予測されています。災害の発⽣から12時間以内で救急⾞に乗れるのは、わずか2,100 ⼈。これは現状のキャパシティーを完全に超えており、社会システムの構造を抜本的に変えていく必要があります」。

シンポジウム2
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