2. ⼭⼝医師―「次世代の災害医療」への想い
「⼀⼈でも多くの命を救うのが、医者の使命」。そう強く信じるのが、本シンポジウムの企画者であり、救急災害医療対策員会委員⻑の⼭⼝芳裕医師である。
⼭⼝医師は、東海村臨界事故(1999 年)や福島第⼀原発事故(2011 年)など、⼀刻⼀秒を争う救命の最前線で闘ってきた。北⾥⼤学病院での学⽣研修を⽪切りに、⽶国ハーバード⼤学などで世界的権威から救急救命や災害医学を学び、世界各国で治療・指導を⾏ってきた災害・救急医学のエキスパートである。
そんな⼭⼝医師が、事前取材で、救急の現場で医療の無⼒さを感じる場⾯に数多く遭遇してきた経験を語った。
「阪神・淡路⼤震災では85.7%、東⽇本⼤震災では82.3%が直接死(即死)でした。医療チームが頑張って72時間以内に現場に駆け付けて救命できる割合は、実は10%未満です。私は、数々の戦争や紛争で起きたケガの治療に当たってきましたが、最も医療の無⼒さを感じたのは、東海村臨界事故です。致命的に被爆した作業者の治療に当たるべく、世界各国から権威を招いて最先端の医療を導⼊しましたが、全くなす術がありませんでした。⽬の前で命が朽ちていくというか、溶けていく様を⾒て、⾃らの無⼒さに呆然としました」。
未来の災害医療の姿を模索していた⼭⼝医師は、2022年、横河電機「未来共創イニシアチブ」のリーダー⽟⽊伸之⽒(本シンポジウム総括アドバイザー)を講演会に招いた。それがきっかけとなり、50年、100年という未来からバックキャストをして「これからの救急災害医療にどう取り組むべきか」という未来志向を持つ必要性を強く感じた。
災害時の救急医療として、JMAT(⽇本医師会災害医療チーム)やDMAT(災害派遣医療チーム)の存在が重要なのは⾔うまでもない。しかし災害後の対策よりも、事前対策として、死傷者数を最⼩限にとどめる家づくり・まちづくり・社会づくりを平時から⼼掛ける⽅が、圧倒的に救命率が⾼くなる。⼭⼝医師は災害現場の救命事情を熟知する医療者として、その経験・知⾒を伝え、他分野の専⾨家と連携し、次世代の災害医療の可能性を⾒出す決意をした。
⽇本医師会常任理事の細川秀⼀医師もこれに呼応した。「⼤きな被害をもたらす豪⾬災害の気象情報を予知する技術は進んでいます。医師会が積極的に関わりを持って情報を共有・活⽤することで、地域医療機関の負担も軽減できるはずなのです」。
シンポジウムは、観測史上最⼤級の豪⾬に⾒舞われた、総合⻘⼭病院の事例紹介から始まった。