地域医療ルポ
地元を愛し、ひとに愛されて
佐賀県伊万里市 水上医院 水上 忠弘先生
佐賀県の西部、長崎県との県境に位置する港町。人口は約55,000人。伊万里港は、江戸時代には陶磁器、明治から昭和にかけては石炭の積出港として栄える。陶磁器生産のほか、温暖な気候を活かし、農業(巨峰・伊万里梨など)、畜産業(伊万里牛)も盛んに行われている。
佐賀と長崎の県境にほど近い古くからの港町、伊万里。今は陶磁器や牛肉が有名だが、以前は造船と炭鉱で栄えた町だった。しかし若者の多くは町を離れ、水上医院のある地域の高齢化率は4割を超える。
人が集まる店も施設も少ないこの地域では、医院とその傍にあるデイサービス施設が地域の高齢者の憩いの場だ。外来の待合室で近所の人と語らい、医院の病床に入院している友人をお見舞いし、隣のデイサービス施設でリハビリをするという流れが、この地域で暮らす高齢者の生活の一部になっている。
「35年前に医院を継いで、ここで必要とされていることは何かということを考え続けてきました。生活の質を上げるためにリハビリ室を作り、地域を離れたくないという方を看取れるよう療養病床を整え、小規模多機能の介護施設も作りました。施設を作る時は、非常時に避難の難しい方を受け入れることも念頭に入れました。健康に不安のある高齢者は、たとえ避難指示が出ても普通の避難所で過ごすのは難しいですから。」
少し俯瞰して見れば、医院を中心とした小規模できめ細かい地域包括ケアシステムができているとも言える。
「地域包括ケアシステムを構築しよう、と気負わなくても、地域と人をちゃんと見て、必要とされることを一つひとつやっていけば、結果として包括的な仕組みができるんです。」
現在の水上先生がいるのは、周囲の期待や応援があってのことだという。高校でバレーボールに出会い、熱い指導者のもとで練習に明け暮れ、佐賀市以外の高校では初めて県大会を制し九州大会に出場。卒業後は医学部を志すも、当初はなかなか勉強に身が入らなかった。
「バレーで仲間や先生と出会い、共にした経験はかけがえのないもので、その後の人生の基礎になりました。浪人時代も様々な人に出会い、本当によくしてもらいました。応援してくれる人の中には、親元で勉強している自分よりもずっと苦労している人もいて、これは頑張らなきゃならん! と思いました。その頃も今も、必要としてくれる人がいるから、努力して結果を出そうと思えるのでしょう。」
取材中、何度も「伊万里はいい所だろう」と繰り返す。校医を務める地元の小学校には毎年多くの本を寄贈し、子どもたちから届いたお礼の手紙に目を細める。職場や地域で出会う人たちからは、親しみのこもった挨拶をされる。地元を心から愛し、仲間やひとに愛されるからこそ、この「地域医療」の形があるのだろう。
(写真中央)水上医院の外観。
(写真右)訪問診療に赴く水上先生。
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