「食べる」×「健康」

「食べる」×「健康」を考える②(前編)

「食べる」・「噛む」を支えるため私たちには何ができるか

首都圏の大学に通う、医科・歯科・薬科・看護分野の学生が、食べることに関する座談会を行いました。

食べる機能や噛む機能は、人のQOLに大きく関わります。今回は医科・歯科・薬科・看護分野の学生が集まり、食べるとはどういうことか、その機能を支えるために何が必要なのかを考えました。

「食べること」の様々な側面

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編集部:皆さんは「食べること」についてどのような関心を持っていますか?

山村(医):僕は将来精神科領域に進みたいと考えていて、拒食・過食などの摂食障害に関心があります。

遠藤(看):私は看護学部を卒業して、現在保健師を目指して大学院に通っています。生活習慣病などに関心があり、食事は人の生活にとって、非常に重要な要素だと思っています。

柳田(歯):歯科補綴学や摂食嚥下機能に関することなど、高齢者の歯科医療に興味があります。

池田(薬):「地域医療・在宅医療研究会」というサークルに所属していて、在宅療養中の方のお話を聞くなかで、嚥下能力の維持が大切だと感じるようになりました。

植田(薬):病気によっては、薬だけでなく、食事の面からのアプローチが功を奏することもあります。授業では薬学以外の分野はなかなか扱われませんが、「食べること」についてもっと学びたいと思って参加しました。

編集部:皆さんの専門分野では、「食べる」に関連する内容は、どのように学習しますか?

植田(薬):授業で食に関連する内容が出てきたのは、主に管理栄養学の分野ですね。経管栄養や中心静脈栄養など、食べられなくなった人が、いかに栄養を摂取するかについて学びました。

山村(医):覚えている範囲だと、代謝学の授業では、ビタミンの働きなどに触れましたね。

柳田(歯):栄養に関する基礎的な内容は、2年生の生化学、3年生の衛生学、4年生の口腔内科学の授業でしっかり学びました。診療科ごとの授業が始まってからも、勉強する機会はあります。

遠藤(看):「食」に関わる内容はどの学年でも出てきました。4年間を通して、少しずつ学んできたと思います。

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食べる」×「健康」

「食べる」×「健康」を考える②(後編)

もし食べられなくなったら?

編集部:口から食べられなくなった人や、食べる機能が弱まってしまった人はどんな生活になっていくのか、実習などで事例を見たことはありますか?

遠藤(看):私が印象に残っているのは、肺炎を繰り返していた患者さんの事例です。ある日、すごく暗い顔で「もう生きていたくない」とおっしゃっていて、看護師さんがお話を伺ったんです。すると、朝だけで20錠以上の薬を服用していて、薬だけでお腹がいっぱいになってしまうそうなんですね。これではごはんを食べられなくて、生きていく楽しみがない、ということだったんです。そこで、薬はなるべく経管にして、食事を口から摂れるように工夫したところ、すごく元気になられていました。

柳田(歯):大学病院の摂食嚥下リハビリテーション科のカンファレンスで学んだことがいくつかあります。摂食嚥下機能は残っていても、入れ歯が合わないと食事がしにくく、食べることへのモチベーションが下がってしまうこと。歯に問題がなくても、筋力の低下などにより、嚥下ができない場合があること。患者さんの生活背景まで理解して、食べるときの姿勢を改善したり、刻み食やとろみ食など、食形態にも介入することが大事なのだと思います。

「食べる」ことの意味

編集部:食べるためには様々な機能や条件が必要なんですね。一方で、食べることができないというのは、ときには「生きていたくない」と思うほどのストレスだとわかりました。普段意識しませんが、「食べる」ことには、私たちにとってどういった意味があるのでしょうか?

植田(薬):食事によって、人と人がつながれるという側面があると思います。誰かと一緒にごはんを作って食べると、一人で食べたときよりおいしく感じますよね。食べるというのは栄養を摂るためだけの行為ではなくて、精神面にも影響を与えるのではないでしょうか。

池田(薬):例えばクローン病の患者さんが、みんなと食事ができないからという理由で、友人からの食事の誘いを断らないといけなかったり、旅行に行けなかったりすることもあると聞きます。食べられないことそれ自体もつらいですが、食べられないことによって、「人と一緒にごはんを食べる」という機会が奪われてしまうことも、つらいことだと思います。

山村(医):身体的な機能については、例えば手が動かせない人は、誰かにごはんを食べさせてもらうのが一般的ですよね。そのことによって、自分が食べたい時に食べたいものを食べられなくて、食事に対して後ろ向きな気持ちになってしまう人もいると聞きます。「食べたい時に食べたいものを食べられる」という自律性も、大切なことだと思います。

私たちができること

編集部:摂食・嚥下機能が低下してしまった人に対して、皆さんはどんなことができると思いますか?

植田(薬):薬剤師は栄養バランスの観点から、「こういう食品がありますよ」といったアドバイスができるのではないかと思います。

池田(薬):薬をお渡ししたり食品をご案内するだけでなく、きちんと食べられているかなど、生活状況にも関与できたらいいなと思います。

遠藤(看):地域によっては、看護師が健康相談に乗ってくれる「まちの保健室」のような施設を設けている所もあります。「食べる」ことに関して、気軽に話をできる窓口が増えていくと、相談しやすくなるのではないでしょうか。

山村(医):「食べる」を支える専門職種が誰なのか、ということは一概には言えなくて、どの職種も自分のできる部分で関わっていくことが大事なんだと思います。でも、患者さんとしては、誰に相談したらいいのかわからないのは困る。食べることに関して何か困った人や悩みがある人が、「ここに行けば話を聞いてもらえる」と思える場所があることが重要なのかもしれませんね。

*括弧内は、参加した学生が現在教育を受けている分野を表すものです。

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No.24