医学生×臨床心理士
同世代のリアリティー
臨床心理士 編(前編)
今回のテーマは「臨床心理士」
大学の学生相談室や病院に勤務する臨床心理士がどんな仕事をする人たちか知っていますか?今回は、臨床心理士2名に、医学生がお話を伺いました。
臨床心理士を目指したきっかけ
社A:私は臨床心理士になって4年目で、現在は総合病院に勤めています。
社B:同じく4年目で、クリニックと学校の学生相談室を掛け持ちしています。
村石(以下、村):臨床心理士というと、他にはどんな職場があるのですか?
社B:代表的な職場は病院や教育現場ですが、企業などの産業領域にも広がってきています。児童相談所などの福祉施設、少年鑑別所や家庭裁判所などの司法関係の施設で働いている方もいます。
岩住(以下、岩):臨床心理士は、大学の学部卒業後に大学院で専門のコースを修了して資格を取得すると聞きました。
社B:はい。臨床心理士になるには、原則、臨床心理士指定大学院を修了し、臨床心理士資格試験を受ける必要があります。心理系の学部出身者以外にも大学院の門戸は開かれているので、幅広い学部の出身者がいるんですよ。医師は例外で、2年の心理臨床の経験があれば受験資格を得られます。
岩:お二人はどうして臨床心理士になろうと思ったのですか?
社A:高校の頃の倫理の授業でフロイトの夢判断などのことを知って、こういうことが活かせる仕事って面白いなと思ったのが、最初のきっかけですね。学部では教員免許も取得したのですが、やはり心理のスペシャリストとして人に寄り添いたいと思って、臨床心理士の道を選びました。
社B:私は子どもの発達に興味があって、学部時代は主に発達心理学の勉強をしていました。私も幼稚園の教員免許を取得したのですが、自分が現場で先生として働くよりも、働いている人たちを支援する仕事がしたいと思うようになって、臨床心理士を志しました。
社会的な側面から患者さんをみる
横島(以下、横):臨床心理士は、患者さんに対してどういうアプローチをするのですか?
社B:精神科では、生物学に基づく医療的措置をしていますよね。対して、臨床心理士は薬の処方等はできません。臨床心理学の知見に基づいて、認知行動療法や精神分析療法など、医師とは異なる介入を行います。
社A:介入方法を検討する際には、患者さん本人のことだけでなく、ご家族や入院前の生活、これまでどんな人生を歩んで今があるのか、といった社会的な側面も考慮します。
村:病院の場合は、どのように臨床心理士に依頼が来るのでしょうか?
社A:私の勤務する病院の場合、最初の依頼は精神科に来ます。医師と一緒に患者さんの所に行って、医師が継続的に診た方がいいのか、臨床心理士も介入した方がいいのかを振り分けたりします。例えば、「夜中に激しく暴れてしまう患者さんがいて、術後せん妄のようなので一度精神科で診てください」というような依頼が来ますね。がんや慢性疾患からのうつ病や、病棟を徘徊している患者さんについての依頼などもあります。
社B:臨床心理士が患者さんのパーソナリティや知的能力などをアセスメントし、その結果をもとに医師が診断を検討することもあります。例えば、患者さんが就寝する際の行動などが一見不思議に思われて、医療者からしてみると「せん妄かもしれない」と疑うような場合でも、よくお話を伺うと、実際にはその患者さんの家での習慣だったり、無意識にやっているルーティンだったり、ということがありました。
起こっている事象だけでなく、患者さんの生活背景等も踏まえて考えないと、適切な介入ができなかったり、ときには患者さんの尊厳を奪ってしまうことになります。私たちが関わり、ご本人やご家族からお話を伺うことで、患者さんをより多面的にとらえることにつながれば、と思っています。
医学生×臨床心理士
同世代のリアリティー
臨床心理士 編(後編)
臨床心理士の強み共感と感情移入は違う?
村:私は感情移入しやすいタイプで、病院見学などで患者さんが痛がっていたり、つらそうな顔をしていると、自分までつらい気持ちになってしまうことがあります。お二人は、患者さんの話を聞いていて、自分までつらくなってしまうようなことはありませんか?
社A:カウンセリングにおいては共感が大事なのですが、心理学でいう「共感」とは、いわゆる「感情移入」とは異なるものです。患者さんの感情に巻き込まれるのではなく、できる限りその感情に近付いて、適切なフィードバックを返しながら患者さんの話を聴く。そうやって共感しながら話を聴くことによって、患者さんが自分自身を見つめ直せるような時間になっていなくてはいけません。
横:僕も、「共感はしても同情はするな」と言われたことがあります。どうしたらそういうふうに話を聴けるようになるんですか?
社B:まさにそれが修士課程で学ぶことですね。修士課程では、患者さんの話を共感しながら聴く技法を学び、実習で実践を積み重ねていきます。
社A:実習では、大学院の施設で実際の患者さんのカウンセリングを担当しました。そこでの患者さんとの会話を一字一句全て書き起こし、その内容を先生や同級生と一緒に検討するんです。自分はどんな感情のもとでどう動いたか、どのような考えでその言葉を発したのかといったことを一つひとつ、細かく見ていきます。初めの頃はカウンセリングに慣れていないので、自分の感情を強く揺さぶられたり、患者さんに苦手意識を感じてしまったりすることがどうしてもあります。そのような場合も、なぜ自分はその人に対してそういう感情や印象を抱いたのかということを深く追究していくのです。このような訓練を積み重ねて、自分の感情がどのように動いているのかを、話しながら考えられるようにしていきます。
社B:就職しても、この振り返りはずっと続いていきます。一人では難しいので、上司に患者さんとのやりとりをチェックしてもらったりしています。また、臨床心理士は5年ごとに資格更新があります。研修や学会に出席し、自分のスキルを高めていくため、常に訓練し続けています。臨床心理士は一生修業の身なんです。
もっと気軽にカウンセリングを
横:海外の映画やドラマを見ていると、カップルでカウンセリングを受けたりするシーンがあったりしますよね。日本ではあまりそういう話って聞いたことがなくて、精神科を受診することにネガティブな印象を持っている人は、まだ結構いるのかなと思います。
岩:このストレス社会の中で、悩みを抱えている人は増えているように感じますし、カウンセリングのニーズはありますよね。周囲にもちょっとしんどそうだな、と思う医学生もいるので、もっと気軽に学校の学生相談室などにも行けるようになればいいのにと思っています。
社B:カウンセリングを必要としている人にどうやって来てもらうかというのは、難しい問題ですね。チラシを配ったり、授業に顔を出したり、入学時のガイダンスで話して、私たちのことを知ってもらうのは大事だなと思います。
他の職種との関係作りで心がけていること
村:臨床心理士として、他の医療従事者に求めることはありますか?
社B:忙しいけれど、1分でもいいからお互いに顔を合わせて話せる時間があったら理想的だと思います。カルテ上だけのやりとりでは、どうしても伝えられる情報に限界があるので。
社A:様々な職種が働く総合病院の中で、臨床心理士は精神科・心療内科にしかいないため、私たちの存在を知らない人もいるんですよね。だからまずは、院内に臨床心理士がいるんだということを、他の職種の人たちに知ってもらいたいなと思っています。なので私は、時間があいたときには病棟に顔を出したり、職場の飲み会などにも積極的に参加するようにしています。やはり仕事の現場以外で話す機会があると、仕事場でのコミュニケーションも円滑になるんですよね。チーム医療という言葉も徐々に普及してきていますし、多職種間でのコミュニケーションはよくなってきていると思います。
岩:今日お話をしていても、やはりお二人が臨床心理士だからなのか、しっかり話を聞いてくれている感じがして…すごく話しやすいなと思いました。
社A:臨床心理士とはいえ、プライベートでも話を聞くとは限りませんよ。私は家では家族の話を聞いてないとよく言われますし(笑)。
村:私はこれまで臨床心理士の仕事をよく知らなかったので、今回は臨床心理士ってどんな方たちなんだろうと思いながら参加しました。自分が将来医師になったときに一緒に働くイメージが具体的に描けて、新しい学びを得ることができました。
横:僕も、臨床心理士の専門性を知ることができてよかったです。
社B:医師を目指す皆さんが、他の職種と積極的に関わろうとしてくれるのはとてもありがたいですね。
※医学生の学年は取材当時のものです。
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