日本医師会の取り組み
勤務医の声を届け医療政策に反映する
日本医師会の「勤務医代表」として勤務医の待遇を改善し安心して働ける環境を作る
橋本省日本医師会常任理事に、勤務医関連施策への思いと今後の方針について話を聞きました。
勤務医の立場の代弁者として
――橋本先生は、勤務医として長年キャリアを積んだ後、昨年6月に日本医師会の常任理事に就任しました。
橋本(以下、橋):はい。私は長く東北大学で基礎研究、臨床研究および学生教育に従事し、高度医療や先進医療に関わってきました。さらに仙台医療センターでは、臨床とともに、医療安全などの医療の質改善、研修医教育、そして院長として病院経営にも携わってきました。
日本医師会の役員としてこのような経歴を有する者は少ないと思われ、その経験を、会務、そして政府の審議会などで活かしていきたいと考えています。
特に力を入れたいのは、勤務医関連の施策です。長年勤務医として働いてきましたので、今大変苦労している勤務医の状況を、役員の中で一番良く知っているのは自分であると自負しています。勤務医担当として、勤務医の労働環境や待遇の改善に努めていく所存です。また、日本医師会は開業医だけのための団体ではなく、勤務医を含めたすべての医師の代表なのだということを、広く国民に周知する活動もしていこうと考えています。
――勤務医としてなぜ医師会活動を始められたのですか?
橋:医師になった当初は、耳鼻咽喉科医として基礎研究に取り組み、その後は臨床と手術にのめり込みました。当時は働き方や自分の待遇にはあまり関心がありませんでした。
しかし中堅になる頃、医師の処遇というものがだんだん気になってきました。例えば、大学の勤務医は給料が非常に安く、その安い分は外勤で補うというのが暗黙のルールとなっていました。また、大学院生は当然のように無給で勤務していました。そうした境遇でも、医師たちは皆崇高な理念を持って働いているのですが、それを逆手に取って、社会が医師をいいように使っているのではないかという思いが湧き上がってきたのです。
アメリカに留学した時にも、医師の待遇の差を痛感しました。アメリカの医師、特にスペシャリストのステータスは非常に高く、例えば眼科や耳鼻科を専門とする医師も大変に尊敬されていました。もちろん待遇も良いため、外勤をする必要もなく、研究時間を十分確保できるようなシステムになっていました。日本においてもこのような状況を作っていけば、日本の医学が発展し、また、より良い医療の実現につながると考えました。
実は、私の父が地元の医師会の理事をやっていたことで、医師会の存在は昔から知っていました。医師になってから入会はしていましたが、当時は開業医のための団体といった認識で、活動内容はあまり理解していませんでした。何かの折に、医師会の会員の半数が勤務医だということを知り、驚くと同時に、勤務医の声を集めれば、その地位や待遇の向上につながるのではないかと考えるようになりました。
――そこから日本医師会の常任理事になるまでの経緯をお聞かせください。
橋:勤務先の病院の副院長が院長になるにあたり、それまで務めていた宮城県医師会の理事職を辞めることとなり、次の理事に私が推薦されたのです。そうして県医師会で活動するなかで、日本医師会がどのような活動をしているのかが徐々に見えてきました。
日本医師会の活動方針は、基本的には常勤の役員が決定します。ところが、その役員の中には勤務医がいないのです。勤務医向けの施策をもっと充実させるためには、勤務医自身が役員になることが重要だと考えました。いつかは自分が、日本医師会で勤務医関連の施策をやっていきたいという思いを抱いていましたので、今回、常任理事に就任したことは非常に嬉しく思っています。
勤務医が安心して働ける環境を
――具体的には、今後どのような施策を行っていきたいとお考えですか?
橋:勤務医として、また大規模病院の院長として、自分の使命だと思ってきたのは、若い人が安心して仕事に打ち込める環境を作ることです。
例えば、働き方改革の議論においては、労働時間にばかり焦点が当てられがちです。もちろん時間制限は必要なことですが、大学での研究や教育のどこからどこまでが勤務時間と一律に決めるのは難しいでしょう。すべてを労働時間に含めてしまうと、「臨床もやりたいし、論文も書きたい、教育も…」という人が存分に思いを果たせなくなってしまいます。自分の好きでやっていることだから、どんなに長時間でも苦にならない、むしろもっと働きたい、という人も多いでしょう。一方で、子育てや介護といった家庭の事情で、働きたくても長時間働けない人たちもいるため、こうした人たちの負担は減らしていかなければなりません。
このような勤務医たちの様々な声を集めて、働き方をどのように改革していくかを考えるのは、やはり開業医だけでなく勤務医が関与すべき仕事です。今後、勤務医の置かれる環境はますます厳しくなっていくことが予想されますから、彼らの声が、まず日本医師会にしっかり届くように、体制も強化したいと思っています。
まずは医師会に入ろう
――医学生や若手医師の中にも、勤務医の待遇や今の医療のあり方に疑問を抱き、変えていきたいと思っている人たちがいると思います。そうした若手へのメッセージをお願いします。
橋:まず若い皆さんには、勤務医や医療の状況を左右するのは第一に政府の施策であるということを知っておいてほしいです。勤務医の待遇を改善していくためには、勤務医の声を政府に届けていかなければなりません。しかし、勤務医個々人の力では、意見を政策に反映していくことは難しいでしょう。そこで、日本医師会という医師を代表する団体を通じて、国に意見を届けていくことが重要なのです。
日本医師会は、日頃から厚生労働省等と綿密に打ち合わせをしており、厚生労働省が打ち出す施策のほとんどに、日本医師会の意見が入っています。私も入会してみて初めて知ったのですが、日本医師会は常に日本の医療のことを考えており、国の政策に意見をしっかり反映させているのです。
国や自治体の選挙では、若い人たちの投票率を上げていくことが、結果的に若者の声を反映させることにつながります。若手医師が医師会に入会するのも同じことです。若手医師の入会数が多くなればなるほど、「医師会とは医師全体の代表」という社会の理解も得られるでしょう。皆さんも、ぜひ医師会に入会して、声を聞かせてほしいと思います。
橋本 省
日本医師会常任理事
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