特定行為研修を修了した看護師(前編)
特定行為研修を受講して
――お二人の受講した特定行為研修について教えてください。
辻:私たちは、他施設が行っている特定行為研修を受講しました。
佐藤(以下、佐):特定行為研修は、ラーニングと集合演習、臨地実習で成り立っています。私たちは業務を離れて約半年間の研修を受けました。
辻:当院でも2020年度から特定行為研修が始まりました。仕事をしながら学習でき、研修期間は1年間です。研修が始まったことで、仲間が増えるのを期待しています。
――特定行為研修を受けようと思ったきっかけは何でしたか?
辻:もともと救急看護認定看護師として活動していたのですが、現場の特性として瞬時に看護実践をする場面が多々あり、なぜその看護実践に至ったかという思考過程を言語化する時間が取れずにいました。多くの看護師が見様見真似という現状に、思考過程を言語化できるスタッフを育成する必要性を感じ、まずは自分自身の思考力を鍛えるために特定行為研修を受けようと思ったのです。
佐:私は、所属する院内ICUの上司の勧めが一番大きかったです。ICUには、術後や病態が不安定になった患者さんが入るため、様々な診療科が関わります。集中治療を担当する医師は常駐していますが、主治医とはすぐに連絡を取れない場面も多いので、患者さんの状態から必要な介入を総合的に考えていく必要があります。特定行為研修を受講することで、そうした専門的な知識と技術に磨きをかけたいと思いました。
――特定行為を現場で実践することで得られた効果についてお聞かせください。
辻:医師の思考が以前よりも理解できるようになったため、救急外来の問診の際、緊急の患者さんをより発見しやすくなり、救急外来の待ち時間も短縮されました。
また、臨床推論のために必要な思考力・判断力が身についたことで、患者さんの急変をいち早く察知できるようになりました。それをスタッフに伝え、共通認識を持って看られるようになったことで、チーム力が活性化したように思います。これによって、救命救急センターでは人工呼吸器装着期間の短縮や早期離床につながり、看護の質が高まったと感じています。
佐:ICUでは、重篤な患者さんが治療を継続していくなかでの快適性を重視していますので、快適性を高めるためにタイムリーに介入できることが増えたのは大きいですね。研修前は医師の指示を待ってからの介入でしたから、タイムラグがあり、ジレンマを感じていたのです。
治療は先生方にお任せしますが、日々患者さんを看ているのは私たち看護師です。患者さんにとってベストな状態で治療が継続でき、かつ苦痛をできるだけ軽減することが特定行為で実践できるようになり、やりがいを感じています。
――その他、研修を受けて良かった点をお聞かせください。
佐:実践の中で、自分がやっていることの根拠を言語化して相手に伝えていくことが増えました。アセスメントの一連の思考過程を説明することができるため、スタッフにとってもイメージしやすい教育スタイルになったと思います。
辻:臨床推論を学ぶことによって、これまでの私たちの看護実践のなかで暗黙知的に行っていたことを、より言語化しやすくなりました。また、研修で多分野の認定看護師と共に学び、様々な話が聴けたことで、視点がより磨かれました。
情報の共有と連携
――医師との関わりで気をつけていることは何でしょうか?
佐:特定行為ができるようになっても、特定行為手順書を出すに至った医師の考えをしっかり聴くべきだと思います。看護師として自分たちが把握すべきところはしっかり確認し、そのうえで医師とコミュニケーションを取るようにしています。
辻:医師の治療方針、長期目標と短期目標を共有し、それを現場のスタッフに伝え、みんなで取り組むことを大事にしています。
また先生方も、こちらの話をよく聴いてくださいます。患者さんをより良くするために看護師と協働しようという医師がたくさんいることが改めてわかり、良い看護を目指そうという思いがさらに強くなりました。
――他の看護師との関わりについてはいかがですか?
辻:私は認定看護師であり、特定行為もできるため、スタッフから親近感を持たれるような関係づくりを心掛けています。一人でできることは限られており、皆の協力が不可欠です。研修を受けたからといって、スタッフの意見に耳を傾けないでいると知識先行型になってしまいますから、自分の気付かないところを指摘してもらえるよう、フラットな関係でいることを大事にしたいと思っています。
佐:私が大切にしているのは情報の共有です。自分が見たもの、感じたもの、実践した結果に関して、必ず共有するようにしています。「こうしたらこうなった」という、実践の中での経験を伝えたいのです。また、自分一人に業務が集中しないよう、皆を巻き込み一緒に看護を展開できるよう心がけています。
特定行為研修を修了した看護師(後編)
より良い看護のために
――チーム医療などの観点から、他の職種との関わりで以前と変わったことはありますか?
辻:薬物動態学を学んだことから、薬剤師さんとの関わりが増えました。他にも様々な職種との関わりが増えたように感じています。
佐:特定行為ができるスタッフとしてのキャリアは浅いため、自分の部署を離れて自由に活動することはまだ難しい状況ですが、多職種のチームに所属することで、一般病棟の患者さんにも関わりやすくなりました。
――最後に医学生へのメッセージをお願いします。
辻:医師の考えもたくさん知りたいので、看護師と多くコミュニケーションのとれる医師になってほしいです。コミュニケーションを図ることで、看護の質がより高まると思うのです。
佐:私も同じです。キュアのプロである医師とケアのプロである看護師の話し合いによって、より良い医療にしていけたらと思います。特定行為研修により、キュアの部分も理解しているつもりですから、医師の考え方を把握したうえで、私たちからも提案や要望を伝えたいのです。
辻:キュアを理解するスタッフも増えていますから、多職種との対話を皆さんの目標の一つにしていただけたら嬉しいですね。
辻 俊行さん
岐阜大学医学部附属病院
特定行為研修修了者・救急看護認定看護師
佐藤 尚徳さん
岐阜大学医学部附属病院
特定行為研修修了者・集中ケア認定看護師
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