医学科高学年
同世代のリアリティー
コロナ禍の先輩医学生 編(前編)
今回のテーマは「コロナ禍の先輩医学生」
今回は、新型コロナウイルス感染症の流行下で臨床実習や病院見学に取り組む高学年の医学生に集まってもらいました。大学生活や実習内容の変化、後輩に対する思いなどを自由に話してもらいました。
コロナ禍での臨床実習
岡田(以下、岡):まずお聞きしたいのですが、皆さんの大学では5年生の臨床実習は通常通りできていますか? それとも、オンラインなどで対応しているのでしょうか?
私の通う東北医科薬科大学では、昨年の4月中旬から6月頃までの中断期間を除き、ずっと臨床実習を行っています。ただし登校に際しては厳しい規定があり、検温をして37℃以上ある、もしくは風邪の症状が一つでもあれば1週間自宅待機を指示されます。
後藤(以下、後):島根大学は昨年3~6月はオンライン実習を行い、その後一度は対面も可能になったものの、年末年始に再びオンライン実習になりました。オンライン実習は、チュートリアル形式で模擬患者の先生に質問したり、カンファレンスに参加したりするという形でした。オンラインでしか回れなかった科は6年生になれば優先的に回ることができる予定ですが、すべての科に行くことができるわけではないので不安があります。
宮脇(以下、宮):京都大学では最初の緊急事態宣言解除後に授業が再開したのですが、先輩から伺った話では、5年生は当初、ほとんどオンライン形式だったそうです。9月以降になると病棟に出る機会が増えてきて、重篤な患者さん以外とは触れ合うことができたと聞いています。
林:聖マリアンナ医科大学では、現在ではおおむね通常通りに実習が行われていますが、教育棟の前に自動で検温できる機械が設置されたほか、学生に消毒用アルコールが配られ、特に一部の病院実習の際は持ち歩くよう指示を受けており、学内でも試験会場の机を拭くのに使ったりしています。また、検温表や提出物など、この機会にかなりデジタル化が進んだと感じています。
なかなか難しい病院見学
岡:東北医科薬科大は、週平均の感染者数によっては病院見学が禁止される地域があるほか、見学後は自宅待機を命じられるなど大学の対応が厳しく、病院見学に行きにくくなっています。私は県内外で一つずつしか病院見学に行くことができておらず、不安を感じています。
後:島根大は、申請をすれば病院見学自体は基本的に可能です。見学から戻った後に抗原定量検査を受け、陰性であればその後は病院実習も可能です。ですが、万が一のことを考えて遠方への見学を躊躇する人も多いです。
宮:京都大は、例年では5年生の夏に病院見学に行くことになっていますが、昨年のその時期は病院見学が完全に禁止になり、どこにも行けなかったようです。今年の夏にも再び流行があるかもしれないので、4年生は前倒しで病院見学に行くことも勧められているのですが、臨床実習後に行きたいと考える人がほとんどなので、現時点で行く気のある人は少ない印象です。
林:僕もまだ病院見学のことは考え始めたばかりですが、見学に行かないことが就職では不利になるのではないかという不安を抱えています。友人の中には研修病院情報サイトなどを使って順調に見学を重ねる人もいる一方、上手くいっていない人もおり、個人差が大きいようです。
医学科高学年
同世代のリアリティー
コロナ禍の先輩医学生 編(後編)
オンラインも活用課外活動の変化
後:私はバスケットボール部に所属していますが、対面でせざるをえない部活動には厳しい制限がかかり、大会もなくなりました。実習が続くので気分転換に運動したいのですがなかなかできず、ストレスがたまっています。
A:私も運動部に入っています。医学部の部活動が全面停止になったので、これまで週に何度か顔を合わせていたメンバーと会えなくなってしまったのが残念です。また、毎年恒例の医師国家試験のお見送り会や卒業おめでとう会もできず、寂しさがあります。
岡:お見送り会は、私の大学も代表者2名しか行けなくなってしまいました。
林:卒業式で、普段は胴上げなどをするのですが、保護者さえ参加できなかったと聞き、現在の状況の深刻さを実感しました。
それから、僕は奇術部に所属していて、年に2回、小児病棟でマジックを披露するイベントを開催しているのですが、それもできなくなってしまいました。
A:私も毎年、ぬいぐるみを使って子どもと診察体験をする「ぬいぐるみ病院」というイベントに関わっていたのですが、今年はできませんでした。子どもたちに会えるイベントが開催できないのは寂しいですね。
岡:コロナ禍では、学外の活動も変わったと思います。私が代表を務める学生団体では、従来のような形でイベントを開催する代わりにZoomでウェビナーを開きました。月に一度のペースで行ったところ、普段は来ることのできない地域の人も参加してくれたので、オンラインにもメリットがあると感じました。
A:私が所属している学生団体では、例年の恒例だった海外渡航の機会が中断されています。ですが、学生団体に限らず、ウェビナーの機会が増えたように感じます。興味関心のある話を気軽に聞くことができるようになったのは良いですね。
後:地方在住の私にとっては、コロナ禍で様々なコンテンツがオンラインに移行したことで、むしろアクセスしやすくなったように感じています。
宮:活動の機会がなくなったことは困りますが、オンラインを使うことで「現地に行かなくても大丈夫」という機会や環境がますます増えると良いですね。そのためにも自分から広くアンテナを張り、様々なイベントに参加したいです。
林:僕は様々なオンライン勉強会に出るうちに自由な時間が足りなくなり、自分の時間の使い方を見直す機会にもなりました。
後輩との関わりはどう?
岡:大人数での会食などが禁止されている今、後輩との関わりがだいぶ希薄になったように感じています。先日話を聞く機会があったのですが、新入生は特に周囲の状況が何もわからず、同級生ともあまり話ができていないようでした。
A:私も後輩に会う機会は減りました。以前は部活の際や、学内でたまたま出会ったときに会話をすることも多かったのですが、今は実習が合同になったときに4年生と少し話すくらいです。
後:島根大では病棟実習に行く上級生が下級生と接触する機会を減らす方針で、5年生以上と1~4年生は構内でエリア分けされています。一時期部活を再開していた時も、5~6年生は禁止のままでした。
林:僕の大学でも、下級生と上級生の接触を避けるための様々なゾーニングがされています。こんな状況なので、新歓はどうしようかと部活の仲間と話し合っているところです。
宮:私たちはオンラインで新歓を行いました。ただ、これまでの新歓では、今まで関心のなかった部活の先輩に偶然声をかけられ、そこから興味を持つという新入生もいたと思いますが、オンラインではもともと興味のある部活しか見に行かないので、出会いが減ってしまったのではないかと危惧しています。
A:いちご狩りやボーリング大会のような、大学生活を知る機会になる部活の新歓行事がないことも悲しく思います。それでも部活に新入生が入ってくれたので、うれしいです。
人との触れ合いが減った今後輩に伝えたいこと
宮:授業などがオンライン形式になった結果、集団で話し合うよりも、誰か一人の話を聞くインプットの機会が増えたように感じています。それにより、自分の考えを話すアウトプットの機会が足りなくなってきているのではないでしょうか。これまでは、友達との何気ない会話がそれを担っていた部分もあったのではないかと思うのですが、今はなかなか難しくなっていますよね。特に新入生の皆さんは、人と知り合う機会も減っているので心配です。自分の気持ちや考えを、誰かに気軽に話せる機会を作ってほしいと思います。
岡:確かに、人と気軽に話す機会は減りましたね。僕はもともとアウトドア派なので、当初は家にこもっていることが苦痛でしたが、木工のものづくりも好きなので、棚を作ったりしています。家にいるからこそできることもあるので、後輩の皆さんも悲観しないでほしいです。
A:私は、以前あまりしていなかった自炊の回数が増えました。また、県外に出ることはなかなかできませんが、人が少ない近場での山登りをしたり、近所での散歩をしたりするようになりました。この機会に、新しい楽しみを見つけることもできると思います。
後:私も人が少ない場所に出かけて自然と触れ合ったり、自分を見つめたりする機会が以前より増えました。
林:コロナ禍で自分と向き合う時間が増えたことは、普段あまり深く考えることのない、自分の夢や情熱に改めて向き合う機会にもなったのではないかと思います。自由に使える時間が増えた今、自分が本当に好きなこと、やりたいことについて改めて考えてみて欲しいです。再び学校に行けるようになったとき、友達と話し合う糧になるのではないかと思います。
※この内容は、今回参加した学生のお話に基づくものです。
※取材は2021年2月上旬実施しました。医学生の学年は取材当時のものです。
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