令和7年(2025年)10月5日(日) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース
「令和7年 診療所の緊急経営調査」結果を公表―全診療科で減収減益となっていることが明らかに―
松本吉郎会長、城守国斗常任理事
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日本医師会定例記者会見 9月10・17日
次期改定での大幅な引き上げ、補助金・期中改定による緊急措置を求める考え示す―松本会長
松本吉郎会長、城守国斗常任理事は、「令和7年 診療所の緊急経営調査」の結果を公表した。
調査では診療所の経営状況について、令和5年度から令和6年度に掛けて利益率は大幅に悪化し、赤字割合も約4割になっていることなどが明らかになった。
調査結果を踏まえ、松本会長は、次期診療報酬改定の大幅な引き上げや、補助金・期中改定による緊急措置を国に対して今後も強く求めていく姿勢を強調した。
調査は、令和5年度と令和6年度の診療所の経営実態を早急に把握し、今後の診療報酬改定の議論に備える目的で日医総研が実施。調査対象は「日医A1会員の診療所管理者(院長)」で、令和7年6月2日から7月14日に掛けて調査した。1万3535施設から回答があり、収支部分が有効な回答は1万1103施設(医療法人6761施設、個人立4180施設)だった。
松本会長は、調査結果から、近いうちに廃業を考える診療所が約14%もあったことなどにも触れた上で、「このままでは診療所が事業を断念し、継承もできず、病院と共に担っている地域の患者への医療提供が継続できなくなる」と危機感を示した。
調査の概要を説明した城守常任理事は、調査期間が短かったにもかかわらず、多くの施設が調査に協力してくれたことに謝意を示した上で、令和6年度の診療所の経営について、前年度から大幅に悪化したことに言及。有床診療所についても、元々低い利益率が更に悪化しているとした他、令和6年度における医療法人全体の赤字割合は、医業利益は45%、経常利益は39%だったとした。
また、医療法人の利益率の平均値、中央値、最頻値についても取り上げた。全体の医業利益率の中央値は4・8%から1・1%、経常利益率の中央値は6・2%から2・1%に悪化している上(図)、いずれも平均値より約2ポイント低い状況だったことを説明。最頻値の階級は0~2%と更に低い状況にあり、「平均値で見るよりも、実際の経営状況ははるかに悪いことが分かる」と述べた。
また、コロナ補助金・診療報酬上の特例措置が無くなったことも大きく影響しているとした。
医療法人の経常利益率の分布に関しては、経常利益率が0%未満の赤字施設の割合は39・2%であるとし、「診療所も赤字割合が高く、経営悪化が進んでおり、このままでは事業継続が困難になる」と危機感を示した。
個人立の利益率が大きく低下していることにも触れ、経常利益の金額で見ると、対前年比で19・5%減少しているとした他、①個人立の診療所は、医療法人の診療所と収支構造が違うため、利益の意味が異なる②個人立では、事業者所得(開設者の報酬)が損益計算書の費用に含まれず、利益に含まれるため、医療法人に比べて利益率は高くなる③個人立の利益の中から税金や社会保険料の支払いが行われる―といった点にも留意する必要性に言及した。
医業収益と医業利益の増減率について、医療法人の医業収益は全体で2・3%減少するとともに、医業費用は1・4%増加したとし、無床診療所と有床診療所も同様の傾向であったと説明。物価高騰や人件費の上昇によって、医業費用が増加したことにも触れた上で、「個人立も同様に令和6年度の減収が激しい」とし、医業収益が全体で3・7%減少した一方で、医業費用は2・4%増加しているとした。
更に同常任理事は、医療法人と個人立における医業収益と医業費用の増減率の分布も提示。①約7割の施設で医業収益が対前年で減少した②約6割の施設で医業費用が増加した③収益が大幅に減少した施設や、費用が大幅に増加した施設も多く見られる―といった状況を解説した。
医療法人と個人立における医業費用の項目別増減率については、人件費上昇と物価高騰の影響で、医療法人と個人立の両方で、給与費や医薬品費・材料費が対前年比で増加しているとした上で、「特に医薬品費・材料費が相当に増加している」と述べた。
医療法人の診療科別の利益率については、「ほぼ全ての診療科で利益率が悪化した」と説明。①発熱外来など感染症対策を行ってきた内科と小児科、耳鼻咽喉科では、コロナ関連補助金・診療報酬上の特例措置の廃止や診療報酬改定の影響が大きい②小児科では呼吸器感染症の変動も大きく影響した―点も指摘。個人立の診療科別の状況にも触れ、全ての診療科で医業利益率、経常利益率が低下した点を取り上げ、「医療法人と同様に、補助金や特例措置の廃止の影響を受けている」と説明した。
医療法人の決算月が法人によって異なる観点から、今回の調査では、決算月ごとに利益率を調べたことも紹介。令和7年1~3月に令和6年度の決算を迎えた診療所では医業利益率が2・8%、経常利益率が3・2%で、決算期が直近に近付くほど利益率が低下している状況にあるとした他、地域別の利益率にも目を向け、「医業利益率と経常利益率が大都市から町村まで、いずれの地域においても低下した」と説明した。
調査では、経営課題について聞き取った点も紹介。①「物価高騰・人件費上昇」「患者単価の減少」「患者減少・受診率低下」を課題に挙げる施設が全体の半数以上を占めた②「施設設備の老朽化」が41・3%、「近い将来、廃業」が13・8%を占めた―といった結果にも触れ、「医療機器を含む施設設備の更新ができなければ、患者への診療の質を確保することが困難になる」と訴えた。
これらの調査結果を踏まえ、同常任理事は「診療所の厳しい経営状況が今後も続けば、多くの診療所が地域から撤退し、病院と共に担っている地域の患者への医療提供の継続が困難になる」と指摘。次期診療報酬改定の大幅な引き上げや、補助金・期中改定による緊急かつ強力な支援の必要性を強調した。
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