松本吉郎会長は4月17日の記者会見で、4月16日の財政制度等審議会財政制度分科会で「こども・高齢化」について審議が行われたことを受け、「社会保障総論」と「医療」について日本医師会の考えを説明した。 |
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「歳出に目安を設けること」はデフレ下の遺物
会見の冒頭、松本会長は、財政制度等審議会(以下、財政審)の「2025年度以降の予算編成に当たり、社会保障関係費の歳出の目安を継続すべき」という主張について、「社会保障費の伸びを高齢化の範囲内に抑えるという対応は、デフレ下の遺物だ」と強調。インフレ下では税収も保険料も増加することから、賃上げ・物価高騰のインフレ下で、高齢化の伸びというシーリングに制約されるべきではないとするとともに、「失われた30年の過ちを繰り返してはならない」と述べた。
また、歳出の目安を示すことは、人件費に上限を設けるようなものであり、「政府が重要政策として位置付ける賃上げを阻むものであると言っても過言ではない」と主張。財政審の「少子化」パートの資料で、賃上げの流れが波及していく必要性が示されていることとの矛盾を指摘した上で、賃上げの流れは医療・介護分野の従事者にも波及させていく必要があるとした。
次に、現役世代が負担する社会保険料について、財政審が、医療・介護に係る保険料率の上昇を抑制する取り組みの継続を求めていることに対し、政府が掲げる「コストカット型経済からの完全脱却」では、現役世代の手取りも増やしながら、それに伴って現在の料率のまま保険料収入も増え、社会保障はその中で十分行うことができていると説明。また、2018年の国の推計では、協会けんぽの保険料率が上昇するとされていたが、実際はコロナ禍があった中でも協会けんぽの保険料率は据え置きもしくは下落しているとした。
また、医療費の伸びと経済成長率について、財政審が、「名目GDP実額や雇用者報酬、消費者物価指数など、各種経済指標と比べて、国民医療費は安定的に増加し続けている」と作為的な主張をしていることを指摘した上で、「国民医療費は高齢化の伸びよりも抑えることができており、過去の推計値を大きく下回っている。こうした推計値は過大予測になっており、デフレ下のコストカット型経済を踏襲し、国民に過度な不安を煽(あお)るべきではない」と反論した。
地域別単価の導入は極めて筋の悪い提案
診療所の偏在是正のための地域別単価の導入については、財政審が、診療所不足地域と診療所過剰地域で異なる1点当たり単価として、主に都市部の単価引き下げを主張していることに対し、「わが国では、国民皆保険である公的医療保険制度の下、誰もが、どこでも、一定の自己負担で適切な診療を受けられることを基本的な理念とし、診療報酬について、被保険者間の公平を期す観点から、全国一律の点数が公定価格として設定されている」と解説。この制度を今後も維持していく必要性を指摘するとともに、医療機関の分布は、各地域の人口に応じて現在の形に落ち着いたものであることから、「診療所の過不足の状況に応じて診療報酬を調整する仕組みは、わが国の人口分布の偏りに起因するものを、あたかも医療で調整させるような極めて筋の悪い提案だ」と一蹴。断じて受け入れられないとの考えを示した。
財政審の医薬品に関する主張に対しては、まず費用対効果評価について、「医学的に安全性・有効性が確認されたものについては保険収載を行う」というのが国民皆保険制度の原則であり、保険収載の可否に用いるのは適切ではなく、あくまで保険収載された医薬品の価格調整を行うものであるとした。
また、OTC医薬品については、「そもそも診療では、医師が日常生活を含めた患者の全体の状態をよく見て医学管理を行うことが必要であり、特に生活習慣病の薬剤の処方は、その一部に過ぎない」と指摘。薬だけを取り出して論じるのではなく、幅広い視点を持って議論を行うことを求めた。
長期収載品に対する選定療養の仕組みが導入されることに対しては、医薬品の供給が不安定な状況が長く続く中、10月の制度導入時には混乱が生じることが予測される他、後発医薬品の供給状況が更に悪化する可能性にも懸念を示し、導入以降の動向をしっかりと踏まえた対応が必要であるとした。
かかりつけ医機能については、財政審の主張に対し、厚生労働省の「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」で、制度整備の方向性として、(1)一人の医師や一つの医療機関ではなく、複数の医師や複数の医療機関が地域を面として支える、(2)人口や医療従事者が減少していく中で、地域の医療資源をうまく活用・開発して地域に必要な機能を実現するため、多くの医療機関が積極的に参加できる、(3)医師を始めとする医療従事者や医療機関がそれぞれの役目に応じてできることを拡大していく努力をしっかり行う―ことを日本医師会として主張していることを説明し、それに尽きるとした。
また、金融所得・金融資産を勘案した公平な負担や、後期高齢者医療制度における「現役並み所得」の判定基準の見直しなど、年齢ではなく能力に応じた負担等を求める主張には、「全ての世代にとって安心できる社会保障制度を構築する観点から、今後ともしっかりと議論を尽くしていく必要がある」と述べた。
医師養成数については、2026年度の医学部定員数を、2024年度の総定員数9403人を上限とする方針が決まったことを紹介し、今後の医師養成数も、これからの日本の人口動態等を踏まえながら議論を深めていく必要があるとした。
子ども・子育ては社会全体で支えるべき
更に、少子化対策にも触れ、財源について検討することは必要とした上で、「医療を始めとする社会保障費を削って捻出するのではなく、両者に対して、それぞれ必要な財源をしっかりと確保することが重要」と指摘し、「子ども・子育ては社会全体で支えるべきものであり、病に苦しむ方々のための財源を切り崩すことは、決してあってはならない」と強調した。
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