左から岩月日薬会長、松本会長、高橋日歯会長、高橋日看協会長(当時)
左から岩月日薬会長、松本会長、高橋日歯会長、高橋日看協会長(当時)
第19回国民医療推進協議会(以下、国医協)総会が6月4日、日本医師会館小講堂とWEB会議のハイブリッド形式開催され、「骨太の方針2025」の取りまとめに向け、43の参加団体の総意として、4項目(①経済成長の果実の活用②「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の見直し③診療報酬、介護報酬等について、賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映④小児・周産期体制の強力な方策の検討)の対応を求める決議(下掲)を採択した。 |
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総会は城守国斗日本医師会常任理事の司会で開会。冒頭、新たに協議会の参加団体として加わった全国老人福祉施設協議会の紹介があった後、あいさつを行った松本吉郎国医協会長/日本医師会長は、医療機関の経営状況は著しく逼迫(ひっぱく)しており、地域医療支援病院の診療休止など、医療機関の閉院が現実に起きていることを指摘。このような状況の改善のためには、「まずは補助金により早期かつ適切で機動的な対応をするとともに、診療報酬での安定的な財源の確保が必要だ」として、補助金と診療報酬の両面からの対応を強く求めた。
引き続き、参加団体からあいさつが行われた。高橋英登国医協副会長/日本歯科医師会長は、「このままでは国民のための医療が提供できなくなることは間違いない」と危機感を示し、医療を守ることは国民を守ることでもあると強調。国に対して一致団結して医療界の窮状を訴えていく必要性を唱えた。
岩月進国医協副会長/日本薬剤師会長は、昨今の急激な物価高騰に、公定価格で運営されている医療機関等は対応できていないと指摘。このままでは地域医療に深刻な影響が出るとして、国に対して早急な対応を求めていくべきとの認識を示した。
高橋弘枝国医協副会長/日本看護協会長(当時)は、訪問看護ステーションも厳しい経営状態に置かれていることを説明。「持続可能な医療の実現のためには財源の確保が不可欠である」と述べた。
猪口雄二全日本病院協会長は、現在の状況は医療機関にとってコロナ禍に匹敵する危機的状況であるとした上で、骨太の方針に記載されてきた「社会保障予算を高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という目安対応の撤廃とともに、インフレや医療技術の革新に対応できる診療報酬等の設定が必要であるとした。
その後、議事に移り、「医療・介護における賃金上昇、物価高騰、高齢化、技術革新への対応」について、茂松茂人日本医師会副会長が資料に基づき、(1)医療機関の経営状況、(2)賃上げ・物価高騰の状況、(3)令和8年度診療報酬改定に向けて―の3点について説明した。
(1)では、令和5年度と6年度における病院・診療所の経常利益率を比較し、「平均値」「中央値」「最頻値」のいずれも下落していると指摘。更に、日本病院会等6病院団体が実施した緊急調査によると、令和6年度の診療報酬改定後、病床利用率は上昇傾向にある一方、医業利益率・経常利益率は悪化、医業利益の赤字病院割合は69%、経常利益の赤字病院割合は61%まで増加していることが明らかとなったとし、その要因としては、医業収益の伸び以上に医業費用が伸びていること等が考えられるとした。
また、大学病院の経営状況については、コロナ禍を経ても外来患者数、入院患者数共に落ち込んだままであり、診療単価が上がっても医業収入は減少する状況が続いていること等を報告した。
(2)では、医療・福祉分野の賃金の伸びは他産業に追い付いておらず、特に医療・福祉就業者の割合が高い地方ではその影響が大きくなっていることを説明。更に、平成24年から令和6年までの全産業と医療業の賃金の伸びを比較して医療業が全産業の伸びに追い付いていないことを示し、賃金上昇を踏まえた別次元の対応の必要性を訴えた。
(3)では、経済成長に伴う消費税、所得税、法人税等の増収分を安定的財源として活用するとともに、高齢化に合わせた社会保障予算の目安対応を見直すことが必要であると指摘。更に、インフレに伴う物価上昇を公定価格にも適切に反映させることや、出生数の減少により厳しい状況にある小児医療・周産期医療体制の確保に向けた強力な方策の必要性を主張した。
この後、角田徹日本医師会副会長が参加団体の総意として、4項目の対応を求める決議を取りまとめることを提案し、決議案を朗読。同案は賛成多数で採択された。今後は、今回の決議をもって各方面に上申していくこととなる。
なお、次回の国医協総会を10月14日に、11月20日には「国民医療を守るための総決起大会」を開催予定としている。
決 議
医科歯科医療機関、薬局や介護事業所は、著しく経営状況が逼迫(ひっぱく)しており、閉院や倒産が相次いでいる。こうした状況を改善するには、まずは補助金による早期の適切な機動的対応が必要であり、さらに、診療報酬で安定的に財源を確保しなければならない。令和7年度におけるさらなる補正や、令和8年度診療報酬改定前に期中改定も求められている状況であり、補助金と診療報酬の両面から対応が必要である。 高齢化の伸びに加え、賃金上昇と物価高騰、さらには技術革新等への対応には、十分な原資が必要であり、国民医療推進協議会の総意として、「骨太の方針2025」の取りまとめに向けて、以下の対応を求める。 1.経済成長の果実の活用 近年大きく増加する消費税、所得税、法人税等の増収分を新たに安定的な財源として活用する新たな仕組みを構築する。 2.「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の見直し 賃金上昇や物価高騰の下での逼迫した経営状況、さらには技術革新等に対応し得るように目安対応を抜本的に改めた文言とする。 3.診療報酬、介護報酬等について、賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映 人手不足により、適切な医療・介護を提供できなくなることから、医療・介護業界でも他産業並みの賃上げができるよう、公定価格等へ適切な反映を行う。 4.小児・周産期体制の強力な方策の検討 小児・周産期体制については、単に集約すればいいということではなく、全国津々浦々で対応するための強力な方策を構築する。 以上、決議する。
令和7年6月4日
国民医療推進協議会
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