令和6年度の診療報酬改定に関する答申が取りまとめられたことを受けて、2月14日に、日本医師会・四病院団体連絡協議会合同記者会見が開かれ、日本医師会から松本吉郎会長が、日本病院会から島弘志副会長が、全日本病院協会から猪口雄二会長が、日本医療法人協会から太田圭洋副会長が、日本精神科病院協会から平川淳一副会長がそれぞれ出席した。
松本会長は、同日に中医協で行われた令和6年度診療報酬改定の答申を受け、(1)医療従事者の賃上げ対応、(2)医療DXの更なる推進、(3)入院料の見直し、(4)薬価制度等の見直し、(5)医療技術の適正評価、(6)改定の後ろ倒し―について見解を述べた。
(1)では、賃上げを行うための原資として、プラス0.61%の改定財源が確保され、どのような医療機関においても算定可能な形で、外来・在宅ベースアップ評価料(I)が新設されたことについて、「計画書や報告書などの届出が必要になるが、初・再診時に加算できるものになっており、診療所の看護職員を始め、医療関係職種の賃上げに充ててもらえるものだ」として、これを評価。また、透析や内視鏡を中心に診療を行っている医療機関に関しては、同評価料(I)だけでは不十分な場合もあることから、同評価料(II)が設定されるなど、不足分を補てんする設計になっているとした。
その上で、「中医協における診療側の主張が実った形である」と強調するとともに、着実に賃上げした実績を示すことで、次回改定においても、持続的な賃上げを可能とするための十分な原資が確保できるよう働きかけたいとするとともに、その詳細については厚労省と共催する「賃上げ等に関する診療報酬改定&マイナ保険証の利用促進に関するオンラインセミナー」(ページ下部URL参照)なども活用して欲しいと呼び掛けた。
(2)では、今回、「医療DX推進体制整備加算」が新設されたことや、前回改定で新設された医療情報・システム基盤整備体制加算が「医療情報取得加算」として継続され、再診時においても算定できるようになったことを紹介した上で、2つの加算を組み合わせ、医療DXを推進していくことで、負担が一定程度カバーされることに期待感を示した。
(3)では、急性期一般入院料1において、重症度、医療・看護必要度及び平均在院日数の基準が公益裁定となったことに言及。「特に今回は、多くの項目の組み合わせで、どれを選ぶかといった議論に収れんしてしまったことは非常に残念であり、これまで以上に、医療現場はその対応に迫られ、混乱・疲弊することが予想される」とし、改定内容が現場に与える影響に懸念を表明。今後、改定の施行を見据え、経過措置期間も含め、状況を注視していきたいととした。
(4)では、今回、改めてビジネスモデルの転換が打ち出されたとの見方を示し、国内での創薬推進及び先発・後発共に医薬品が適切に供給されるといった方向性などが達成されるよう、注視していく必要があるとした。
また、新たな取組として、長期収載品に係る選定療養の仕組が導入されることに関しては、「医薬品の安定供給体制に不安が残る中、患者の自己負担のあり方にとどまらず、多方面に大きな影響を与える制度変更だ」と指摘。中医協の議論においても、現場の混乱や過度な窓口業務の負担が生じないよう、厚労省に十分な対策を要請しており、施行後も必要な見直しを検討・提案していく方針を示した。
(5)では、各学会等からの提案を基に、医療技術評価分科会で検討の上、新規技術の評価に加え、既存技術の再評価が行われ、医師の基礎的な技術が適切に評価されたものだとの見方を示した。
(6)では、「その目的はあくまでも医療機関の負担軽減である」と強調。直接的な恩恵を受けるベンダが、保守費用やリース料を大幅に引き下げるなどの対応が必須とした上で、「これは、当然、医療機関のメリットとなると理解しており、これまでも繰り返し主張してきた通り、行政含め、関係者においては、その動向をしっかり注視して欲しい」と呼び掛けた。
松本会長は最後に、「今後は、今回改定に係る医療現場の影響を適切なタイミングで検証しつつ、その目的がしっかりと達成されているかを見極め、ひいては国民に医療が提供できているかを確認することが重要」と述べるとともに、今後も各団体と共に、医療界が一体・一丸となって、国民の生命と健康を守っていく決意を示した。
島弘志日本病院会副会長は、まず、「今回の診療報酬改定による賃金引き上げによって、処遇改善がなされ、職員の労働意欲が高まることは大いに歓迎すべきことだ」と評価する一方で、患者数がコロナ禍前の水準に戻っていない医療機関もあることから、診療報酬からの収入で賃上げの財源を確保できない可能性に懸念を示した。
また、労働生産人口の減少により、近い将来、働き手の確保が困難になることを踏まえれば、今回改定は、医療DXの推進によって作業の効率化を図ることになるという意味でも新たな方向性を示したものだとした。
更に、新設された地域包括医療病棟について、「高齢者救急の受け皿としてしっかりと機能していくためには、トリアージを行う医療機関との連携が極めて重要。下り搬送の件数も含めて各地域で機能しているか検証する必要がある」とした。
猪口雄二全日本病院協会長は、プラス改定の要素の多くが人件費に関することであったため、既に病院ではどの程度職員の賃上げができるかのシミュレーションを始めているところもあるとして、その推移を見守っていく姿勢を示した。
また、入院時の食費については、「約30年ぶりに上がったことはとても大きい」と評価。一方、人件費も含め、プラス改定の部分の大半が支出に回る見込みのため、今後の病院経営に関しては懸念があるとした。
更に、地域包括医療病棟については、概念には一定の理解を示したものの、要件が厳しくされた急性期一般入院料との兼ね合いで、今後の医療提供が変わっていくことになるのではないかとの考えを示した。
太田圭洋日本医療法人協会副会長も、医療従事者の処遇改善のための財源が確保されたことを高く評価した上で、トリプル改定による影響は大きく、地域の医療提供体制等が大きく変化する可能性があると指摘。
また、重症度、医療・看護必要度の要件変更によって、急性期の病院で診ることのできる患者が少なくなるとの見方を示すとともに、急性期機能の高い医療機関に厚く財源が配分されているため、中小の民間病院にはかなり厳しい改定内容だとその受け止めを説明した。
平川淳一日本精神病院協会副会長は、診療報酬上の賃上げに向けた対応に一定の評価をした上で、協会としても賃上げの実施に積極的に取り組んでいく姿勢を示した。
今回の改定については、精神医療分野では、精神科地域包括ケア病棟入院料の新設が大きな目標であり、約10年に及ぶ議論の末に新設に至ったとするとともに、人口減少、労働生産人口の減少等が進む中で、「精神病棟の未来の希望となるような病棟にしていきたい」と強調した。
問い合わせ先
日本医師会医療保険課 TEL:03-3946-2121(代)