松本吉郎会長は6月18日の定例記者会見で、13日に「経済財政運営と改革の基本方針2025(いわゆる「骨太の方針2025」)」等が閣議決定されたことを受けて、日本医師会の見解を述べた。
まず、松本会長は「骨太の方針2025」について、6月6日の経済財政諮問会議に示された原案が、自民党政調全体会議や公明党など与党内で、医療機関の経営危機や物価高騰・賃金上昇対応について、日本医師会の要望を踏まえた議論が行われた結果、社会保障関係費に関する記載が修正されたことに言及。歳出改革の中での「引き算」ではなく、物価・賃金対応分を「加算する」という「足し算」の論理となり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなったとした。その上で医療機関の経営状況、医療・介護界の賃金上昇や物価高騰等への対応に関する、日本医師会並びに医療・介護界の主張に理解を示してくれた政府・与党の国会議員に対して感謝の意を示した。
また、「日本経済全体で1%程度の実質賃金上昇を定着させ、国民の所得と経済全体の生産性を向上させる。」との記載や、石破茂内閣総理大臣が「2040年に国民の平均所得を現在の1.5倍以上に引き上げること」を夏の参議院選挙の公約の柱の一つとするよう指示したことに触れ、「わが国の平均所得の引き上げと、医療・介護界が他産業の賃上げに追い付くためにも、公定価格である診療報酬で手当てすることが基本になるので、しっかりとした対応を求めたい」と述べた。
一方で、インフレや賃金の上昇を社会保障に反映させる方針について、社会保険料の負担が増え、家計にしわ寄せが及ぶといった国民の過度な不安をあおるような報道も一部に見受けられることに対しては、「現役世代の収入は増えており、協会けんぽなどの保険料収入も税収同様上振れしていることから共助の財源は増加してきている」として、現行の保険料水準でも現役世代に新たな負担を求めることなく対応は可能と強調した。
また、松本会長は、骨太の方針取りまとめに向けて、日本医師会として4本の柱を示して政府・与党に全力で求めてきた結果、「骨太の方針2025」の社会保障関係費の部分において、「税収等を含めた財政の状況を踏まえ」と明記されたことは、日本医師会が「経済成長の果実の活用」として求めていた税収の上振れ分の活用の視点が盛り込まれたものと評価。その上で「これまで国民は消費税収増による恩恵を実感できていなかったが、税収や保険料等の経済成長の果実をしっかりと社会保障の充実に使うことが必要であり、その結果、国民がその恩恵を実感することにもつながり、税への不安も払拭される」とした。
次に、「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する。」とされたことに対しては、「日本医師会が求めてきた賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映が明記されたものであり、高齢化分とは別枠で物価・賃金対応分を加算するという意味だと理解している」との認識を示すとともに、6月6日に示された原案から劇的な前進となったと説明。
加えて、注釈に2025年春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%等の数字が明記されたことに対しても、「この数字は次期診療報酬改定において念頭に置かれるものと認識しており、大きな進歩である」と述べた。
また、「自由民主党・公明党・日本維新の会 合意」(3党合意)を受けて、OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しや、新たな地域医療構想に向けた病床削減、医療DX等について、社会保障改革に関する議論の状況も踏まえ、2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行うことが記載されたことにも言及。
特に、OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しについては、日本医師会としてさまざまな懸念をもっていると説明。3党合意においては「医療機関における必要な受診を確保し、こどもや慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮しつつ」などとされていることを踏まえた慎重な検討が必要と強調した。
また、アレルギー疾患に関する7つの患者団体が福岡資麿厚生労働大臣に対し、患者から適切な医療を受ける機会を奪いかねない懸念等を示すなど、国民の不安も大きく高まっていることにも触れた。
その上で、松本会長は、「OTC類似薬を保険適用から除外した場合、例えば院内での処置等に用いる薬剤、薬剤の処方、在宅医療における薬剤使用に影響することが懸念されるが、これは絶対に避けなければならない」と強調。更に、医療機関にアクセスでき、医療提供が可能な地域でも、地方やへき地等で市販薬に容易にアクセスできない地域も多くあるため、十分な留意が必要であり、医療費負担だけでなく、患者や家族が購入する負担も非常に重くなると指摘し、日本医師会として、わが国の世界に冠たる国民皆保険制度を歪めることがないよう引き続き注視していく姿勢を示した。
最後に松本会長は、今回の骨太の方針の内容を確実に実施するためには、夏の参議院選挙、秋の令和7年度補正予算編成、更には年末に向けた令和8年度診療報酬改定が極めて重要だとして、「高齢化、高度化に加え、物価高騰・賃金上昇にしっかりと対応できるよう、あらゆる機会を通じて、引き続き政府与党に働き掛けていく」とした。
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