2022年12月7日から3日間、イスラエルのテルアビブにおいて、イスラエル医師会が主催した「The Future Health Matrix」(https://alumni.huji.ac.il/event/the_future_health_matrix_conference)に出席したので、その内容を報告する。
このカンファランスのテーマは「医療とテクノロジーが緊密に結びつき未来の医療が生まれる」というものであった。
従来の医療の進歩は、新薬、バイオ、医療機器などが担ってきた。今後はそれらにデジタル技術、ビッグデータ解析が加わり、更なる進化をしていくとの将来予測がなされていたが、会全体を通して「新しい技術はスタートアップ企業がつくり、それを支える投資資金が必要である」ことが強調されていた。
また「新しい技術の構築には若い医師への研修と教育が重要であり、医療の研修だけではなく、新規技術を現実化するためのビジネスの研修も必要である」とのイスラエル医師会の会長の発言には大きな驚きを覚えた。
同医師会は数年前に2団体を設立した。NPOであるInstitute of Medical Innovation(IMI)、と株式会社であるFuture of Medicine and Innovation(FOMI)である。IMIは主に広報や研修を行い、医師に大企業の管理職になる研修や起業研修を実施する他、医師の起業支援も行っている。FOMIは投資会社であり、医師主導のスタートアップ企業に投資を行うことを目的としている。
資金は大手企業からの出資と、1万ドル程度を医師がFOMIに預け、有望なスタートアップ企業に投資するColleague Fundingがある。当面の目標としては100億円以上の投資を行うとのことであった。
政府も医療新技術への投資はリターンが高いことを理解しており、政府からの資金も順調に集まっている。政府からの資金調達には、新規技術に対する国民と政治家の理解が必要であり、医師会は国民、政治家に新規技術と投資資金の必要性について理解を得る活動をすべきとの発言もあった。
Colleague Fundingが投資をした企業は医師会が認めたというお墨付きを得るため、一般の資金も集めやすくなる。その結果、成功確率も高まり、最初に投資をした医師(医師会)のリターンは更に大きくなる。
本会議には世界15カ国から医師が集い、我々外国人医師は手厚くもてなされた。これもイスラエル(ユダヤ人)にシンパシーを持ってもらう戦略なのではないかとも思われた。
会の最後にはイスラエル医師会事務局長より、「今までも臨床医学は医師がつくってきた。今後のデジタル技術を利用した医療も医師の手でつくっていくべきである。医師会はその手助けをしていきたい」と締めくくられた。教育と投資、人材育成と組織化、多国間の連携。これらがイスラエル(ユダヤ人)の神髄なのであろうと感じた。
今までのICT化において、Apple社などGAFAに既存の携帯電話、音楽、メディア産業が生態系を奪われてきた。
ヘルスケア産業においても既にアップルウォッチが主要なデバイスとなっている。しかし、ヘルスケアはテクノロジー企業ではなく、医療者によって主導、デザインされていくべきであろう。
我々にもThe Future Health Matrixで見られた思考と行動の変容が求められる。
(日医総研副所長 原祐一)