中川俊男会長は10月6日の定例記者会見で、(1)新型コロナウイルス感染症の感染状況、(2)今後の医療提供体制と全国知事会との意見交換、(3)治療薬の創薬および供給―について説明を行った。
(1)では、10月1日にすべての緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除され、全国の新規感染者数が激減している要因として、1.国民全体の6割、うち65歳以上の高齢者の9割が2回のワクチン接種を済ませた、2.天候不良による外出控え、3.感染者数の急増や若年層の重症化、死亡事例の報道による行動変容―などを挙げるとともに、「弱毒化などウイルス自体の変化は現時点で確認されていないが、多角的な分析と検証をお願いしたい」と述べた。
更に、現在、重症化や死亡の割合も減少傾向にあるが、感染者数が再び増加すれば、重症者や死亡者数も高い水準になるとして、国に対して、第6波に備えて、第5波の拡大・縮小要因の分析や、より具体的な対策を講じることを要求。加えて、ワクチン・検査パッケージを活用した行動制限緩和については、基本的な感染防止の徹底が必要であり、ワクチン接種後のブレークスルー感染や偽陰性といった問題があり、それぞれの効果と限界を正しく知り、慎重かつ丁寧な検討をし、公平で具体的な運用の基準を、国民に分かりやすく示すことを要請した。
また、インフルエンザの流行シーズンを迎えるに当たって、昨年インフルエンザが流行しなかったため、免疫を持たない人が増加し、インフルエンザが流行する恐れもあるとし、新型コロナとインフルエンザの同時流行を防ぐために、感染対策の徹底とワクチン接種が重要であると強調。インフルエンザワクチンは新型コロナウイルスワクチンを接種してから2週間経過しないと接種することができないため、計画を立てて接種するよう呼び掛けた。
(2)では、厚生労働省から10月1日に発出された、今後の医療提供体制の整備の事務連絡について、季節性インフルエンザと新型コロナの同時流行や、新型コロナに対応する施設の確保・整備に一定の期間を要することを踏まえ、各都道府県に「保健・医療提供体制確保計画」を求めていると報告。その際、都道府県等には地域の医療関係者等と事前に十分な協議を行うことが要請されており、日本医師会では都道府県医師会に対して、関係団体との連携を更に深め、行政との協議及び連携をこれまで以上に緊密に行うようお願いしていると述べた。
また、10月5には日本医師会と全国知事会との意見交換会を開催し、1.感染拡大防止対策の徹底及び出口戦略、2.検査・医療体制及び水際対策の強化、3.ワクチン接種の円滑な実施―について意見を交わしたことを報告。意見交換会では知事会内に設けられた「国民運動本部」について、「日本医師会としても新型コロナウイルス感染症対策はもちろん、わが国の医療提供体制の充実に努めていく」と述べたことを紹介し、日本医師会と全国知事会は基本的に同じ方向を向いているとの認識を示すとともに、平井伸治全国知事会長を始めとする各知事からも、日本医師会や都道府県医師会と連携していきたいとの意向が示されたことを明らかとした。
(3)では、国内で承認されている新型コロナの治療薬について紹介。現在、軽症者が使用できるのは点滴の抗体薬のみとなっているが、感染初期から使用できる内服薬が開発されれば、コロナ対応が画期的に変化することが期待されると評価した。
そのうち、米国メルク社が開発中である内服薬「モルヌピラビル」の第3相臨床試験には日本も参加しており、その結果が良好であったことに言及。この薬が承認されれば、発熱外来の診療所で陽性と判明した時点で処方することができるため、製造・供給体制や臨床試験の結果を踏まえ、今後日本でも速やかに承認申請がされるよう、厚生労働省に対して、企業への適切な指導・助言を求めた。
一方、国民と医師が期待する内服薬は、承認直後の供給が潤沢でないことが想定されるとし、複数の製薬企業、特に国内製造できる企業からの供給が不可欠であるため、創薬や供給体制を国が十分に支援し、適切な評価、速やかな承認に繋がることを要望した。
最後に中川会長は、継続的に治療薬を医療現場へ供給する体制の整備は、国の安全保障の一つであり、感染治療薬に関しては、患者がいなくても一定数量の備蓄が必要であると強調し、「日本医師会は、できうる限り安定的な医薬品供給によって国民の命と健康を守ることを、引き続き政府に訴えていく」と述べた。
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