都道府県医師会介護保険担当理事連絡協議会が3月4日、日医会館小講堂で開催された。
当日は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、聴衆なしのテレビ会議システムでの配信形式に変更され、介護保険制度改正に関して厚生労働省と日医から講演が行われた。
協議会は、江澤和彦常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつに立った横倉義武会長は、開催方法の変更への協力に謝意を示した上で、「万が一の事態に備えた国内の医療提供体制をしっかりと整えていくことが重要と考え、日医は『新型コロナウイルス感染症対策本部』を設置し、日々対応に当たっているが、介護保険サービスを利用する高齢の方々は、感染症の重症化リスクが高く、より徹底した感染症対策が必要不可欠である」と強調した。
介護保険については、公的保険制度となってから20年が経過したことを回顧するとともに、医療と介護、かかりつけ医と介護サービス施設・事業所などの連携体制や地域包括ケアシステムの構築が、大規模災害も含めた緊急時の対応にも資するとの考えを示し、令和3年度に行われる介護保険制度改正においても、医療・介護連携の推進と地域包括ケアシステムの構築に向け、かかりつけ医や医師会のリーダーシップが発揮されるよう期待を寄せた。
講演「介護保険制度改正について」
眞鍋馨厚労省老健局老人保健課長は、社会保障を設計する前提である日本の将来人口推計について触れ、団塊の世代が後期高齢者となる2022年以降の3年間は一時的に「75歳以上人口」の増加が高まるものの、高齢化のピークについては地域で時期が異なることから、医療需要のピークも地域により異なるとし、「人口動態に沿って医療・介護資源を整備していかなくてはならない」と強調。保険者別の介護サービス利用者の推計では、ピークを過ぎ減少に転じた保険者がある一方、都市部を中心に2040年まで増え続ける保険者が多いとした。
2040年を展望すると、高齢者人口の伸びは落ち着くが、現役世代の急減に伴い、総就業者数を増やすとともに、より少ない人手でもケアの質を落とさずに回る医療・福祉のシステムをつくる必要があると指摘。
次回の介護保険制度改正の全体像については、(1)介護予防・地域づくりの推進、(2)地域包括ケアシステムの推進、(3)介護現場の革新―が大きな柱になるとし、「その土台として、市町村がその取り組みを後押しできるような保険者機能の強化、市町村や事業所がデータに基づいた提言・計画を立案できるようなデータ利活用のためのICT基盤整備に加え、制度の持続可能性の確保のための見直しとして、若干自己負担を増やすことも盛り込んでいる」と説明した。
この他、新型コロナウイルス感染症防止の対応に関する一連の通知を紹介し、社会福祉施設等の利用者などに感染者が発生した場合は、2月28日付の事務連絡を参照して対応することを要請した。
講演「介護保険制度改正と医師会・かかりつけ医への期待」
江澤常任理事は、介護保険サービスを使うことの多い「85歳以上人口」が2040年にかけて右肩上がりに増加することを挙げ、「2025年から2040年の15年間を、わが国がどう凌(しの)ぐのか、世界が注目している」と述べた。
その上で、85歳以上の認知症有病率は過半数を超えるとして、かかりつけ医による日常的な医学管理の重要性を強調。国は認知症サポート医を2025年までに1万6000人とすることを目標としているが、現時点で1万1000人を超えていることから順調との見方を示した。
地域包括ケアシステムの推進における、2025、2040年を見据えたサービス基盤の整備については、高齢者向け住まいで介護保険サービスを受けている中・重度要介護者の存在も考慮して、地域ごとの実情に応じて進める必要があるとした。
一般介護予防事業等の推進方策に関しては、専門職として医師会やかかりつけ医が積極的に関わることを要請し、"協働体制"の例として、①地域づくりの視点を踏まえた通いの場の支援において、医師会等が市町村の地域支援事業の相談窓口を担当する②地域の実情に基づいた通いの場へのかかりつけ医と医療機関等の支援方策について、定期的な協議の場をもつ③高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について、企画立案段階から連携する―ことなどを挙げた。
更に、医療・介護現場における新型コロナウイルス感染症対策として、消毒や防護の仕方、情報連携、職員の配置、来訪者の対応などについて概説した。
その後、都道府県医師会より事前に寄せられた質問に対して、厚労省と日医の立場から回答。
介護医療院移行や通所リハビリ(デイケア)等、介護施設の運営に当たり、介護職員や送迎を担う運転手等の確保が困難なために、十分な運営ができなくなってきているとして介護職員の確保に関する施策を求める要望には、まず、眞鍋課長が、「これまでも介護職員の処遇改善を図ってきたが、今後はやりがいに関する分析や対応を進めていく必要があると思っている」と述べるとともに、昨年10月からの特定処遇改善では、一定の要件下において運転手、調理員、栄養士なども対象とできるようにしたことを説明した。
江澤常任理事は、介護福祉士養成学校へ入学する日本人の数が半減していることに触れ、小中高の学校の授業の中で介護が取り上げられるようになることで、介護に興味をもつ人が増えるよう期待を寄せた。
要支援者の介護予防ケアプランの作成には手間が掛かることから、料金設定や内容の簡素化等の見直しを求める意見には、眞鍋課長が回答。制度見直しの検討において、業務負担が大きいという認識は共有されているとし、「引き続き地域包括支援センターが担うことが必要だが、外部委託を行いやすい環境の整備を進めることが重要との意見を受け、次の介護報酬改定に向けて積極的に議論していきたい」との姿勢を示した。
最後に、松原謙二副会長が、「新型コロナウイルス感染拡大防止を踏まえ、今回はテレビ会議でご参加頂いた。令和3年度は介護報酬改定の年だが、さまざまな問題があり、高齢化が更に進む中で介護をどのようにしていけばよいか、ご意見を賜りながら、厚労省とも十分議論していきたい」とあいさつをして、協議会は閉会となった。
なお、当日はテレビ会議システムで46都道府県、217名が視聴した。