「全国知事会と医療関連団体との意見交換会」が7月9日、WEB会議で開催され、「社会経済情勢を適切に反映した診療報酬改定等について」をテーマに、医療機関の経営危機の現状等への問題に関して認識を共有するとともに、その対応について意見交換を行った。 日本医師会からは松本吉郎会長、茂松茂人副会長、江澤和彦常任理事が出席した。 |
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松本会長は、冒頭のあいさつでこれまでの全国知事会との意見交換会について、「首尾一貫していることは、平時・有事のいずれにおいても強靭(きょうじん)な医療提供体制を構築していくということであった」と振り返った上で、そのためには確固たる財源確保が不可欠であることから、今回のテーマを「診療報酬」としたと説明。また、病院団体との活動として、本年3月12日に日本医師会・6病院団体と賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入等を求める合同声明を公表したこと等を紹介しながら、こうした医療界を挙げた取り組みが大きな力となり、「骨太の方針2025」では、賃金・物価対応分を「加算する」という「足し算」の論理となり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりになったことを強調した。
更に、今後については有料職業紹介の高額な手数料等、経営に影響を与える諸問題も含めて、全国知事会や病院団体と協議していく意向を示し、引き続きの協力を求めた。
続いてあいさつした村井嘉浩全国知事会長/宮城県知事は、全国の医療機関において、少子高齢化の進行、医療従事者の不足等、複合的な要因により経営は深刻な状況に直面しており、特に地方においては医療提供体制の維持が危機的状況にあると指摘。「地域医療を守り、持続可能な医療提供体制を構築するためにも、行政と医療関係団体が連携し、現場の声を政策に反映させることが不可欠であり、制度改革等の推進に今後も全力で取り組んでいく」とした。
引き続き行われた意見交換では、まず、江澤日本医師会常任理事が令和6年度の医療機関の経常利益率(推計)について、病院、無床・有床診療所のいずれも最頻値がマイナスであることや、6病院団体が行った病院経営状況の緊急調査では医業利益の赤字病院は約7割、経常利益の赤字病院は約6割であること、破綻(はたん)懸念先とされる債務償還年数30年超の病院が半数を占めていることなど、データに基づいて医療機関の厳しい経営状況を説明した。
また、全就業者の約14%を占める医療・介護・福祉の就業者と他産業との賃金の伸びの差が拡大しているとして、その処遇改善が喫緊の課題であると指摘し、「骨太の方針2025」に明示された賃金・物価対応分を「加算する」とされたことについての実現と、次期診療報酬改定の本体プラスに向けた支援と協力を求めた。
相澤孝夫日本病院会長は、病院経営に関する調査結果を基に「このまま何も手を打たなければ、病院医療の崩壊が起こる」と述べるなど、現状を危惧するとともに、入院患者数が増えているにもかかわらず、医療材料費の高騰、消費税負担、医療の高度化・質の向上への対応などにより、医業費用が事業収益を大幅に上回り経営困難な状況になっているとして、緊急的な経営支援が必要であると強調した。
更に、次期診療報酬改定において、19年間も評価の見直しが行われていない入院基本料の10%以上の引き上げとともに、地方創生を進める上で重要なインフラである病院を存続可能とするための支援も政府に求めていきたいとした。
平井伸治全国知事会副会長・人口戦略対策本部長/鳥取県知事は、国は賃金の引き上げを求める一方で、診療報酬改定はなおざりにしているため、公立病院においても人件費の高騰が医業経営を圧迫し、軒並み赤字化していると指摘。「医療を守ることは、命を守ることであり、国民を守ることでもある。国に対して団結して訴えていくことが重要であり、ぜひ、力を合わせて頑張っていきたい」と主張した。
神野正博全日本病院協会長は、物価・賃金にスライドした診療報酬の引き上げの必要性を訴えるとともに、2年後の診療報酬がどうなるか見通せない状況では銀行からの借り入れもできず、設備投資もできない状況にあるとして、将来予見性を持った診療報酬の決定プロセスの構築を求めた。
その他、重点医師偏在対策支援区域に勤務する医師へのインセンティブに関して、その財源を保険料ではなく、地域医療介護総合確保基金で賄い、国の負担割合も10分の10にすることの他、災害が多発する中で病院の医療の強靭化を図るために、医療施設近代化施設整備事業の復活・拡充を提案した。
太田圭洋日本医療法人協会副会長は、過去の診療報酬本体改定率とインフレ率の推移のデータを示し、これまで本体改定率とインフレ率が連動していたものが、2022年以降では、物価が上昇しているにもかかわらず診療報酬はほとんど上がっていない状況にあることを説明し、全国の医療機関の経営が危機的状況にある一番の原因になっていると指摘した。
その上で、2020年から2024年までの病院医療提供コスト上昇に対する診療報酬(薬価・診療材料以外の本体)の増加必要分の差が5・23%であるなど、病院のコスト増への補填(ほてん)不足の試算についても説明し、次期診療報酬改定において10%超の引き上げの必要性を強調した。
内堀雅雄全国知事会社会保障常任委員会委員長/福島県知事は、社会保障常任委員会の取り組みとして、地域医療が崩壊する強い危機感から、5月15日に全国知事会として厚生労働省に対して、社会経済情勢を適切に反映した速やかな診療報酬改定等の緊急要望を提出したことを報告。更に、「骨太の方針2025」の内容の具体化に向けて、本日の意見を踏まえて提言を取りまとめ、7月下旬に厚労省へ改めて要望する方針であることを明らかにした。
阿部守一全国知事会副会長・国民運動本部長/長野県知事は、「医療危機は地域社会全体の危機と言っても過言ではない」と述べ、診療報酬改定や緊急的財政支援の必要性を全国知事会としてもしっかり受け止めているとした。
また、地域のきめ細やかなニーズに全国知事会が積極的に対応するには、国がオールジャパンの制度で支えるだけでなく、地域の実情に合った対策・対応が重要となるとして、医療関係者の協力を求めた。
その後は、内堀全国知事会社会保障常任委員会委員長が当日の議論を受けて、医療機関の危機的な経営状況に理解を示した上で、「緊急的な経営支援のための診療報酬の引き上げ、病院の建て替え等に対する補助金の必要性を踏まえ、全国知事会として、2040年を見据えた医療介護提供体制の構築に向けた提言等を全国知事会議で取りまとめ、国にしっかりと届ける」と発言。
松本会長は、地域医療提供体制の崩壊が迫っている状況の中、診療報酬改定において、高齢化の伸びに加え、特に賃金・物価の上昇、医療の高度化への対応のためには、本体のプラス改定とともに、そのような増加の伸びが適切に反映されるような報酬体系や適切な補助金も必要であると強調。その上で、「全国知事会や病院団体の皆様方と一致団結して、国に対してこれらのことをしっかりと訴えていきたい」と述べ、会議は終了となった。