今村聡副会長は1月10日、都内で開催された厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会のヒアリングに招かれ、副業・兼業を中心に医師の働き方改革に関する日医の考えを説明した。
今回のヒアリングは、同分科会での今後の議論に当たり、医師の働き方改革に関する理解を深めるために行われたものである。
今村副会長は、まず、勤務医の健康支援に関する日医の取り組みとして、(1)平成20年度に会内に「勤務医の健康支援のための検討委員会」を設置、(2)平成21年度に「勤務医を守る病院7カ条」「医師が元気に働くための7カ条」を策定、(3)平成22年度に職場環境改善ワークショップを開始、(4)平成24年度に「勤務医の労務管理に関する分析・改善ツール」を作成―したことなどを紹介。「日医として、10年以上前から勤務医の健康支援に取り組んでいる」と強調した。
また、医師には、「応招義務がある」「生命に直結する仕事である」等の特性があることを説明。医師の働き方改革に当たっては、「地域医療の継続性」「医師の健康への配慮」の二つを両立することが重要であると指摘した。
混乱が生じぬよう一定の配慮を
医師の副業・兼業に関しては、日医が実施した「医師の副業・兼業と地域医療に関する緊急調査」の結果等を基に、「医療界は一般の事業所と違い、副業・兼業が日常的に実施され、非常勤で働く形態が多い業種である」と説明するとともに、「地域医療(宿日直・診療応援)や研鑽(けんさん)、収入確保を目的としている」「業務内容は決まった仕事だけでなく、突発的なこと(災害対応等)もある」「勤務地は遠方に行くことも多く、同一都道府県内とは限らない」「診療科によって、同じ日にいくつもの医療機関を掛け持ちすることもある」などを挙げ、理解を求めた。
また、副業・兼業に対して、今後何らかのルールが設けられることに対して、現場では「医療法第16条の規定を遵守できなくなる(79・9%)」、「さまざまな施設基準の中で医師の人員配置基準を満たさなくなる(63・0%)」といった不安を持っている医療機関が多いことを挙げた(図)。
その上で、同副会長は、「国民に良質な医療を提供することが医師の使命であるが、医療において万が一のことが起こっては取り返しがつかないことになる」と強調。「医師の働き方はさまざまなパターンがあり、一般の労働者と同じような副業・兼業への対応を医師の働き方へ単純に当てはめることによって混乱が生じることを危惧している。これからルールを決めていく上では、ぜひ、混乱が起きないよう、配慮をお願いしたい」と述べた。
その後の質疑で、医療機関は所属する医師全ての副業・兼業を把握しているのかと質問された同副会長は、「医師の働き方改革を議論する上では精緻(せいち)に把握すべきであるが、副業・兼業といっても色々なパターンがあり、全てを把握することは難しい」と回答。また、「医師の勤務時間は長くなっているとはいえ、同じ長さでも人によって、その中身は違うのではないか。労働時間の質を考える必要がある」との意見に対しては、「仕事の質と時間をどのように整理していくかは難しい課題」とした上で、「ウェアラブル端末を使って、仕事が医師の健康にどのような影響を与えているのか把握するといったことも、今後必要になるのではないか」との考えを示した。
また、委員からは、「医療界の副業・兼業を一般の事業所と一緒に議論することは難しい」との意見も出された。
その他、当日の分科会では、加藤勝信厚労大臣から諮問された「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」について議論が行われ、要綱をおおむね妥当とする答申が取りまとめられた。これを受けて、坂口卓労働基準局長は、要綱を基に法案を作成し、1月の通常国会に提出するとした。
本要綱は、同分科会が昨年12月27日に取りまとめた「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(建議)」を基に作成されたもので、今年4月に民法の一部が改正されることに伴い、労基法上の未払賃金の請求権の消滅時効期間を現行の2年間から5年間に延長する(ただし、当分の間は3年間で運用)ことなどが示されている。
民法が改正され、未払賃金の請求権の消滅時効が5年間に延長されることで、労基法上の請求権も本年4月から5年間に見直された場合、医療機関には大きな影響が出る恐れがあることから、日医でも慎重な対応を求めていたが、消滅時効は3年間として扱われることとなった。