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令和元年(2019年)9月5日(木) / 南から北から / 日医ニュース

鼻濁音

 青森県黒石市で生まれ、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と津軽にずっと住み、弘前大学医学部耳鼻咽喉科に入局し、現在に至る。
 大学医学部時代は120人中100人が青森県外出身であったので、標準語を使おうとした時期があった。津軽弁には、よその方には絶対分からない単語がいっぱいある。
 最初の頃、私は単語もアクセントも考えて会話を試みたが、北海道出身の友人に私の言葉は女言葉だと言われ挫折した。それ以来、単語は標準語、アクセントは津軽弁の私の会話が始まった。
 ただ、単語は標準語といっても、アクセントの他に津軽弁にはもう一つ難題がある。それは鼻濁音の多さである。私も昭和28年生まれの津軽人であるので、かなりの鼻濁音の使い手だと思われるが、25年ぐらい前に東京の某一流ホテルで鼻濁音事件に遭遇するまでは、鼻濁音を気にすることもなかった。
 まず、鼻濁音について一般的なことを書いてみます。「鼻濁音」とは、「が、ぎ、ぐ、げ、ご」のガ行の音を「んが、んぎ、んぐ、んげ、んご」というふうに、鼻の方へ抜いた発声法です。「か゚、き゚、く゚、け゚、こ゚」というように、カ行に半濁音をつけた表記もされるようです。
 以下は、『NHK日本語発音アクセント新辞典』から抜粋した鼻濁音の発音法則です。
 1.語頭においては、原則として[ガ]行音に発音する。(例)ガッコー(学校) ギモン(疑問) ゴジツ(後日)
 2.助詞の「ガ」は[カ゚]と発音する。(例)ワタシカ゚(私が)
 3.語間においては、原則として[カ゚]行音に発音する。(例)カキ゚(鍵) ウク゚イス(鶯) エンケ゚ー(演芸) ゴコ゚(午後) ショーカ゚ッコー(小学校) ジョカ゚ッコー(女学校)
 4.「カキクケコ」の連濁は原則として[カ゚]行音に発音する。(例)ハルカ゚スミ(春霞) ホンキ゚マリ(本決まり) ウバク゚ルマ(乳母車)
 5.数詞の「五」は、原則として常に[ゴ]と発音する。(例)ゴマン・ゴセン・ゴヒャク・ゴジュー・ゴエン(五萬五千五百五十五円)
 6.カナ四字(又は六字)から成る擬声語では、語間でも[ガ]行音に発音する。(例)ガンガン ギシギシ グングン ゲラゲラ ゴンゴン ガランガラン
 7.省略
 8.複合語中、意味上よりする心理的ポーズのある場合は、語間でも[ガ]行音に発音する。(例)オンガク・ガッコー(音楽学校) ローア・ガッコー(聾唖(ろうあ)学校)
 9~19.省略
 鼻濁音の良さは、日本語を響かせて美しい音として伝えるものであり、舞台芸術や映画の俳優、NHKなどテレビ・ラジオ局のアナウンサーの発音教育でも鼻濁音の使用が徹底されてきたようですが、最近の「鼻濁音(ガ行鼻音)」についての調査結果では、現在の日本人で鼻濁音を使っている人は全体の約2割に過ぎず、また、若い人ほど使用率が下がっているようです。東北地方と北陸地方の鼻濁音の使用率は60~70%と高いのですが、この地域でも若い人は鼻濁音を使用しないようです。
 25年ぐらい前の東京の某一流ホテルでの鼻濁音事件についてですが、東京での日本耳鼻咽喉科学会に出席した際、一緒に上京した女房が先にホテルにチェックインし、銀座に出掛けた。私が後からホテルのフロントで、「女房がカキ゚を預けていると思うんですけど」と告げた。フロント係の女性が「......」。もう一度「カキ゚を預けていると思うんですけど」。フロント係の女性が「当ホテルでは生ものは、預からないようにしているのですが」。何で鍵が生ものか分からないでいるうちに、隣にいた係員が「ルームキーですね」の助け舟で「カキ゚」を手に入れました。最初に対応したフロント係の女性が部屋まで案内してくれましたが、「すいません。お客様の言葉が『蟹(かに)』に聞こえてあんなことを言ってしまいました」。この事件が鼻濁音に興味を抱いた最初でした。
 鼻濁音の良さは、日本語を響かせて美しい音として相手に伝えることと先に書きましたが、使い手がどんどん減っている現在、これからも残していきたい、特に津軽だけでもと思いながら鼻濁音を日々使って研鑽(けんさん)しています。

(一部省略)

青森県 南黒医師会報 第97号より

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