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平成30年(2018年)2月20日(火) / 日医ニュース

人間の尊厳が大切にされる社会の実現に向け邁進していく決意を示す

人間の尊厳が大切にされる社会の実現に向け邁進していく決意を示す

人間の尊厳が大切にされる社会の実現に向け邁進していく決意を示す

 平成29年度第3回都道府県医師会長協議会が1月16日、日医会館大講堂で開催された。
 当日は、「消費税、事業税の非課税措置」「勤務医の長時間労働、残業手当に関する是正勧告」など、11県医師会から出された多岐にわたる質問並びに要望に対して担当役員から回答した他、日医から「医師の働き方に関する都道府県医師会アンケート調査」の結果について報告を行った。

会長あいさつ

 協議会は今村定臣常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした横倉義武会長は、まず、昨年末に展開した「国民医療を守るための国民運動」の一環として開催した「国民医療を守るための総決起大会」について触れ、「この大会の盛会を後押しとして、診療報酬本体では前回改定を上回る0・55%のプラス、医科では0・63%のプラスとすることができた」として、感謝の意を示した。
 また、昨年末に加藤勝信厚生労働大臣と面会し、「予防により医療費の伸びを抑えている姿勢を、経済界、財務省にも示さなければならない」という趣旨の意見交換を行ったことを報告。日医としても、予防・健康に関する事務局部門を統合・設置するなど、しっかりと取り組む姿勢を明確に示すことで、財政主導で社会保障費の伸びが過度に抑制されないようにしていくとした。
 更に、①通常国会に提出される予定の医療法等の改正法案②医師の働き方改革③昨今のICTやAIの進歩―についても言及し、①については、プロフェッショナル・オートノミーの下で実効性のある対策がとられるよう、医師の専門家集団としての社会的責任を果たすべく、引き続き注視していくと説明。②については、会内に設置した「医師の働き方検討委員会」の答申内容等を踏まえながら、地域医療の継続性と医師の健康への配慮とが両立できるよう、国に対して意見を述べていくとした。
 ③に関しては、「情報通信機器を用いた診療に関する検討委員会(プロジェクト)」を会内に設置し、この分野での議論についても日医がリードしていく意向を示した。
 その上で、「引き続き、全国の医師会員の協力の下、わが国の医療をより良いものとし、日本医師会綱領が掲げている『人間の尊厳が大切にされる社会の実現』に向けて邁進(まいしん)するととともに、世界医師会長として、わが国の健康寿命を世界トップレベルまで押し上げたノウハウと、その成果をエビデンスにしながら、世界医師会の活動を推進し、世界中の人々の幸福の実現にも寄与していきたい」と述べ、一層の理解と支援を求めた。

協 議

(1)医療苦情相談情報の全国集計システム

 広島県医師会からの「医療に関する苦情相談に関する情報を一元的に収集分析し、全国に還元するシステムの構築」の提案に対して、今村常任理事は、「先進的な取り組みをされている地域の状況を学んだ上で、どのようにすれば実現が可能であるか十分検討したい」と述べた。
 また、平成12年に「診療に関する相談窓口」の全国の医師会への設置及び月ごとの受付件数と主な相談内容等の日医への報告を要請した経緯に触れ、現在では定期的に月例報告があるのは一部にとどまり、全国の情報を把握できているとは言いがたい状況であることを報告。「今後、苦情相談の事例を全国から報告して頂けるようにしていくためには、集積された事例を分析してフィードバックできる体制を合わせて整備する必要がある」とした上で、最終的にどのような形で情報を収集しフィードバックするのが望ましいのか検討する考えを示した。

(2)日医かかりつけ医機能の推進とゲートオープナー機能について

 日医かかりつけ医機能の推進とゲートオープナー機能についての徳島県医師会からの二つの質問には、鈴木邦彦常任理事が回答した。
 「日医かかりつけ医機能研修制度は、将来のゲートオープナー機能を見据えた研修と考えてよいか」との問いには、かかりつけ医の先生方に、ゲートオープナーやゲートキーパーとして受診を調整するというよりも、地域住民の医療と介護や生活を支えるナビゲーターとして活躍頂けるよう、研修内容を発展させていくとした。
 「かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担のもたらす地域医療への影響等について」の質問には、日本の医療保険の根幹であるフリーアクセスを阻害することになり、また、かかりつけ医を複数もつことや、いつでも変更することが可能である患者の権利を奪うことにもなると指摘。「日医としては引き続き反対を主張し、このような定額負担が実現することのないよう尽力していく」と述べた。

(3)小規模入院施設の今後

 山口県医師会からの小規模入院施設の今後に対する日医の考えを問う質問には、市川朝洋常任理事が回答した。
 同常任理事は、「地域包括ケアシステム構築に向けて、かかりつけ医を中心とした在宅医療を推進していくためにも、必要に応じて入院ができる有床診療所や小規模病院の体制は欠かせない」とその重要性を改めて強調するとともに、診療報酬改定財源が厳しい中、有床診療所や小規模病院が役割を果たせるような評価を実現したことなど、これまでの経緯を説明。
 その上で、現在、平成30年度の診療報酬及び介護報酬改定に向けた議論において、①空床利用や介護サービスへの病床活用など、医療と介護サービスを組み合わせた運営モデルの推進②介護医療院への転換における人員や設備基準の緩和―などを検討中であることを報告。引き続きの理解を求めるとともに、医療法施行規則が改正(平成29年3月)され、届出による病床設置の特例が緩和されたことについて、都道府県医療審議会で認められるよう、協力を要請した。

(4)有料職業紹介所について

 有料職業紹介所の問題について日医の対応を問う神奈川県医師会からの質問には、釜萢敏常任理事が、高額な紹介手数料や早期離職など多くの問題を抱えているとの認識の下、厚労省に対して厳しくその改善を求めた結果、「実態調査の実施」「都道府県労働局へ相談窓口の設置を求める通知の発出」「職業紹介サービス利用の注意点をまとめたリーフレットの作成」とともに、今回の職業安定法の改正が実現したことを報告。
 また、日医総研が病院、診療所を対象に実施した有料職業紹介事業者の利用に関する調査結果において、直近3年間で紹介事業者を利用する医療機関は増加傾向にあること、また、早期の離職者ほど紹介会社経由の採用である割合が高いことが明らかになっている現状を概説するとともに、「紹介事業者に支払われる手数料の原資は診療報酬及び介護報酬であり、国民の大切な税金や保険料の多くが紹介事業者に流れていくことは、本来あるべき姿ではない」との考えを示し、引き続き厚労省に対して改正法施行後の実態の検証と問題解決策の断行を求めていくとした。

(5)「地域医療支援センター」並びに新専門医制度に係る「都道府県協議会」への各都道府県医師会の関与について

 「地域医療支援センター」と「都道府県協議会」の各都道府県医師会の関与状況などに関する沖縄県医師会の質問には、羽鳥裕常任理事が回答。
 地域医療支援センターについては、現在全ての都道府県に設置されており、運営委員会には、大学、関係医療機関と共に、何らかの形で都道府県医師会が関与しているとの認識を示した。
 独自の取り組みとしては、①青森・山形・愛知各県では、医師のキャリア形成とへき地医療の両方に配慮した医師の配置調整のため、地域医療支援センターとへき地医療支援機構を統合して対応している②北海道や徳島県では、医師会からの意見を踏まえ、医師派遣等が決められている③長崎県では、県医師会との連携の下、県外医師のUターン、Iターン等を推進している―などの例を紹介。
 新たな専門医の仕組みに係る都道府県協議会については、1月29日開催予定の厚労省「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」において、都道府県への調査結果が公表される見込みであると説明した。

(6)インフルエンザワクチンの安定供給について

 昨年11月中旬からインフルエンザワクチンが入手しにくい状況となったことを踏まえ、長野県医師会から安定供給に対する日医の見解と今後の対応に関する質問があり、釜萢常任理事が回答した。
 同常任理事は、「今シーズンのワクチンは、当初の選定株が生産段階でウイルスの増殖効率が想定よりも著しく悪いことが判明し、再検討の後、使用する株を変更したことで生産が遅れ、例年接種の最も多い時期に供給が間に合わなかった」と経緯を説明。
 供給が大幅に不足したことを陳謝するとともに、ワクチン選定株が、生産段階においてウイルス収量を十分確保できるかどうか、より早期に確認できる体制の確立を厚労省に強く申し入れているとした。
 更に、医療機関へのワクチン納入状況を厚労省において集約、把握できる体制の構築が必要だとした他、備蓄量を積み増すための予算についても政府に求めていく考えを示した。

(7)消費税、事業税の非課税措置について

 消費税及び事業税の非課税措置に関する兵庫県医師会からの質問には、今村常任理事が回答した。
 消費税問題については、現行の非課税のまま、「診療報酬に含まれる消費税補てん相当額を超過する仕入れ税額を負担した場合に還付を認める制度」の導入を求めていることを改めて説明。「この方式を『医療界が一つになった要望』と位置づけ、今後1年間で厚労省を始めとする関係者と集中的に検討していく」と述べた。
 また、「事業税の非課税措置については、社会保険診療が公共性・非営利性の高い事業であり、低廉な公定価格であることを前提としていること」「公共性の高い多くの行政サービスを医療機関が代行していることも主張していること」等も解説。「全国知事会、行政関係者、地方議員に対して、都道府県医師会からの働き掛けをお願いしたい」と支援を求めた。

(8)精神疾患を有する患者の自殺に対する医師の賠償責任について

 精神疾患を有する患者の自殺に対する医師の賠償責任について、日医の見解を問う秋田県医師会からの質問には松本純一常任理事が、①現在の精神科医療においては、自殺行為を完全に防止することは不可能である②実際の裁判においても、医師が患者に対して自殺防止義務を負うのは、自殺の危険が具体的に存在し、その危険を認識することができ、かつ結果を回避することができる可能性がある場合に限られるものとし、個別・具体的に判断して責任の有無が判断されている―ことなどを説明。
 医療訴訟において公平な判断がされないことがあれば、医療の萎縮や地域移行・自立支援推進への妨げになることが懸念されるとするとともに、「医師がプロフェッショナル・オートノミーに基づき、自らの信念で行った診療について、誤った評価がなされ、医師が責任を負わされることは日医としても本意ではない」とした。

(9)医療事故調査等支援団体等連絡協議会の運営に係る経費助成について

 医療事故調査等支援団体等連絡協議会運営事業費の柔軟な活用を求める要望には、今村常任理事が回答した。
 同常任理事は、①本経費は日医の要望を受けて予算化されたものである②支援団体及び協議会の取り組みは医療界・医学会の自律的な取り組みとして始められた経緯がある―ことなどを説明。その上で、各地域の支援団体及び支援団体等連絡協議会の運営には物心両面でのさまざまな負担がかかっていることに理解を示し、「医療事故調査制度を支えるための支援団体協議会も、極めて公的性格の強いものとなっている現状を踏まえ、運営経費の補助事業に関し、当局に対して柔軟な対応を強く働き掛けていく」と述べた。

(10)勤務医の長時間労働、残業手当に関する是正勧告について

 岡山県医師会からの勤務医の長時間労働、残業手当に関する是正勧告についての五つの質問には、松本吉郎常任理事が回答した。
 長時間労働是正勧告を受けた大規模病院での外来診療時間短縮措置による地域医療への影響に関しては、「住民の理解を得た上で、地域の事情に応じた外来診療の仕組みを、地域の医療機関全体で今から構築しておく必要がある」とするとともに、「都道府県医師会にも積極的な関与をお願いしたい」と述べた。
 残業代支払増額による医療機関経営の圧迫、労使関係の悪影響に関する懸念については、医療勤務環境改善支援センターに在籍する社会保険労務士の活用を提案。また、長時間労働是正勧告は、国公立病院に限らず民間病院も対象となるとし、勧告の際には、労働安全衛生全般にわたる指摘を受けることもあることなどを確認した上で、取り組むことが重要になるとした。
 これまで培われてきた医療従事者の奉仕精神等による時間外労働への寄与に関しては、奉仕の精神に過度に依存する体制を少しずつ緩和する必要があると指摘。国の動きとの関わりについては、会内の「医師の働き方検討委員会」に厚労省の担当官が出席していること等を説明し、今後も関係者と連携し、意見を述べていく考えを示した。

(11)我が国の優れた国民皆保険の理解と現状を国民が考え議論する場の提供について

 埼玉県医師会からの、昨年11月に県医師会が行った医療シンポジウムを例に、日医でも国民皆保険の重要性を国民に理解してもらう場をつくる考えはあるかとの質問には、道永麻里常任理事が回答した。
 同常任理事は、日医としても世界に冠たる国民皆保険を何としても維持していかなければならないと考えているとした上で、国民の理解を深める場として、昭和48年から毎年医療政策シンポジウムを開催していること等を説明。「今後も医療政策シンポジウムなどを活用して現状を理解してもらえるよう努めていきたい」と述べるとともに、他の医師会でも埼玉県医師会のような好事例を横展開して欲しいとした。
 更に、日医のホームページに国民皆保険の良さを分かりやすく説明するコーナー等を作成する考えを示し、理解を求めた。

(12)医師の働き方に関する都道府県医師会アンケート調査結果について

 松本(吉)常任理事より、医師の働き方に関する都道府県医師会アンケート調査結果の概要について説明が行われた。
 本調査は、国の「医師の働き方改革に関する検討会」など、あらゆる機会で医師の働き方について意見を述べる際の参考とするため、都道府県医師会長を対象として昨年10月~12月にかけて行ったものである。
 同常任理事は、全都道府県医師会から回答を得たことに感謝の意を示した上で、今回の結果等も参考としながら、引き続き国に対して意見を述べていく考えを示した。
 また、その他として、道永常任理事からは、「日本医師会ハーバード大学武見太郎記念国際シンポジウム」等の開催について説明がなされた。
 なお、開会に先立って、「第30回日本医学会総会2019中部」の橋雅英準備委員長より、来年4月に開催予定の本総会の概要説明と事前登録に関する協力依頼があった。

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