日医・米国研究製薬工業協会(PhRMA)共催シンポジウムが昨年12月8日、「日本そして世界における今後の認知症対策について」をテーマとして都内で開催された。
冒頭、あいさつに立った横倉義武会長は、「今後、増加が見込まれる認知症高齢者が、住み慣れた地域で人生の最期まで自分らしく暮らし続けるためには、行政や関係者だけでなく地域に関わる全ての人々に、医療や介護、福祉の将来像を考えることが求められており、そういった意味でも本シンポジウムの開催の意義は大きい」として、その成果に期待を寄せた。
引き続き、5題の基調講演が行われた。
まず、大田秀隆厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室認知症対策専門官が、「認知症施策の推進について」と題して、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」の取り組みを報告。
(1)医療・介護等の連携による認知症の方への支援、(2)認知症の予防・治療のための研究開発、(3)認知症高齢者等にやさしい地域づくり―を主なポイントに挙げるとともに、良質な介護を担う人材の確保に向けた研修事業等の体制構築、更に、日英共同パートナーシップの下、認知症高齢者等にやさしい地域づくりと認知症サポーターの取り組みを国際的に拡大することを目的に活動を行っているとした。
鈴木森夫認知症の人と家族の会常任理事は、「認知症の人に向き合いともに生きる家族のねがい」と題して、発足から37年、認知症と共生する社会を目指して、認知症施策が皆無の時代から、(1)交流する(つどい)、(2)相談する(電話相談)、(3)知る学ぶ(月刊会報)―の3つを柱に、要望や提言を出している他、年間約4000回の交流会を開催していること等、同会の活動を説明した。
また、平成29年4月、京都において世界85カ国が加盟する国際アルツハイマー病協会国際会議を開催する予定であるとし、「世界の認知症対策を知るだけでなく、日本の認知症対策を世界に知らせることで認知症の新しい時代につなげることができる」として、参加・協力を呼び掛けた。
クスマデウィ・DYスハルヤ国際アルツハイマー病協会アジア・太平洋地域ディレクターは、自身が認知症の母親を介護した経験を基に、当事者と介護人を支援する活動が必要であるとの思いから、インドネシア・アルツハイマー病協会を創設したことを報告。
その活動として、認知症患者が示す10の前兆を取り上げた認知症患者とのコミュニケーション用パンフレットの作成の他、介護者ミーティング、ケアスキルトレーニング等さまざまな啓発活動を行うことで、認知症検診受診者が増加し、健康的な生活習慣や高齢者へのケアに対する意識の変化が見られたことを紹介。「意識を変えることで行動の変化につながる。早期発見・早期診断、高いレベルのケアの提供を共通目標にするためには、全ての人が協力する以外に実現する道はない」とした。
鈴木邦彦常任理事は、日本が世界で前例のない超高齢化を迎える中、かかりつけ医を中心に、専門医療機関、地域包括支援センター等が連携し、地域の中で認知症の方を支えていくことが求められているとした上で、日医の認知症に対する取り組みとして、(1)地域包括診療加算・地域包括診療料に係るかかりつけ医研修会、(2)日医かかりつけ医機能研修制度―を通じて認知症に関する研修教育を行っていることを紹介するとともに、運転免許更新時等の診断書作成に関して参考となる『手引き』を現在作成中であることを報告。
更に、「今後、かかりつけ医や地域医師会は『まちづくり』の視点を持ち、これまで連携していなかった警察や消防、公共交通機関等とも連携し、地域全体の取り組みに対してしっかりと関わっていくことが求められる」と指摘。「国においても率先して経済・法曹・教育といったあらゆる分野に向け、連携を促して欲しい」と要望した。
新野伊知郎MSD株式会社グローバル研究開発本部クリニカルリサーチ中枢神経領域部長は、アルツハイマー病(AD)治療薬のこれまでの開発状況について説明。
現在開発中の薬剤の多くが疾患修飾薬であり、疾患が進行してから治療を開始しても、失われた機能を取り戻すことは難しいことから、「早期診断と早期介入」「AD診断のためのバイオマーカー」の必要性を指摘した。
また、今後の課題としては、「保険償還等の医療費の負担」「実臨床における医療機関での受け入れ」等を挙げ、初期段階から産官学が協働し、検討していくことが、よりスムーズな開発にもつながるとした。
その後、演者5名によるパネルディスカッションが行われ、「早期診断・早期対応への連携に関する課題・展望」等について活発な質疑応答が行われ、シンポジウムは終了となった。