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令和7年(2025年)12月20日(土) / 日医ニュース

「子どもたちの健康を守る~生まれてから成人まで~」をテーマに開催

「子どもたちの健康を守る~生まれてから成人まで~」をテーマに開催

「子どもたちの健康を守る~生まれてから成人まで~」をテーマに開催

 令和7年度第56回全国学校保健・学校医大会(日本医師会主催、神奈川県医師会担当)が11月22日、「子どもたちの健康を守る~生まれてから成人まで~」をメインテーマとして、神奈川県内で開催された〔参加者に対しては令和8年1月13日(火)までオンデマンド配信中〕。
 シンポジウムでは、5歳児健診を取り巻く状況やその意義、学校健診における学校医のあり方や求められることなど、多様な角度からの講演がなされた。
 午前には、「からだ・こころ(1)」「からだ・こころ(2)」「からだ・こころ(3)」「耳鼻咽喉科」「眼科」の五つの分科会が行われ、各会場で研究発表並びに活発な討議がなされた。

学校保健活動に対する長年の貢献を顕彰

 午後からは、まず、開会式並びに表彰式が行われた。
 あいさつに立った松本吉郎会長は、学校保健は今、社会情勢や子どもの抱える課題の多様化を受けて、その長い歴史の中で過渡期にあるとした上で、「山あり谷ありの境遇を乗り越えながらも、子どもが健康に育ち、次世代へとたすきをつなげるように、我々も全力で取り組んでいきたい」と述べた。
 表彰式では、長年にわたり学校保健の発展に貢献した関東甲信越ブロックの学校医(10名)、養護教諭(10名)、学校関係栄養士(10名)に対し、松本会長が表彰状と副賞を、鈴木紳一郎神奈川県医師会長が記念品を、それぞれ贈呈。受賞者を代表して加藤葉子氏(学校医)から、謝辞が述べられた。
 次期開催県からのあいさつでは、開会式と表彰式の前に開催された都道府県医師会連絡会議で次期開催県に決定した愛知県医師会の柵木充明会長から、令和8年11月21日(土)に名古屋市内で次回大会を開催予定である旨の説明が行われ、紹介動画が流された。
 その他、祝辞では、松本洋平文部科学大臣(代理:赤星里佳文科省総合教育政策局健康教育・食育課学校保健対策専門官)、釜萢敏参議院議員、黒岩祐治神奈川県知事(代理:平田良徳副知事)、山中竹春横浜市長(代理:横山康孝横浜市教育委員会)、松本吉郎日本学校保健会長(代理:弓倉整日本学校保健会専務理事)、花田忠雄神奈川県教育委員会教育長からお祝いのメッセージが寄せられた。

シンポジウム

251220j2.jpg 引き続き、「子どもたちの健康を守る~生まれてから成人まで~」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
 自見はなこ参議院議員は、成育基本法が成立し、こども家庭庁が創設されたことで、「この3年間で15年分くらい大きく進んだと感じている」として、特に、5歳児健診における交付税措置や、遠方の分娩取扱施設で出産する妊婦への交通費及び出産時入院前の宿泊費の助成、産後ケア事業への助成の実現など、成果を挙げた。
 また、学校健診において、機械を用いたスクリーニングが普及したことで、弱視や側弯(そくわん)症が早期発見されつつあるとし、そのような子ども達をどのようにフォローアップしていくかが課題であるとした。

251220j3.jpg 渡辺弘司常任理事は、学校健診においては、見落としを少なくすることが重要である一方、プライバシーへの配慮も求められるとし、「学校医は学校の意向を十分考慮して健診を実施する必要があるが、プライバシーに関して個別に配慮すべき事象において、その環境が確保できない場合は当該項目の健診が実施できず、診断の範囲に制限があることを学校側に説明しておく必要がある」と強調。若年者の自殺や不登校者の増加を踏まえ、メンタルの不調なども学校健診において対処していくため、日本医師会学校保健委員会のワーキンググループで検討していること等も説明した。

 田嶋華子日本医科大学武蔵小杉病院小児科教授は、乳幼児健診に5歳児健診を導入する自治体が増加しているとした上で、集団の中で明らかとなる発達障害やADHD、学習障害、知的な遅れを伴わない自閉スペクトラム症の発見は1歳半健診や3歳児健診では困難であるとし、5歳児健診の意義を強調。就学前に適切なサポートにつなげ、その後の力を伸ばす環境を整えることが重要であるとする一方、保護者が気付いていない、納得していない場合は、療育施設などを紹介しても不安や不満を与える結果になるとして、「健診の場で無理に説得しようとはせず、利用しやすい地域の育児相談や療育相談などを紹介するにとどめるといった方法もある」と述べた。
 宇津見義一神奈川県眼科医会長は、視覚の発達にはタイムリミットがあり、視覚の感受性は6~8歳には消失するため、50人に1人の割合で生じる弱視は、小学校入学までに治療をすべきであると強調。3歳児健診以降、就学児までの弱視の発見に最も大切な時期に幼稚園、保育所、認定こども園における視力検査が約40%にとどまることに危機感を示し、5歳児健診など切れ目ない健診体制の構築が重要であるとした。
 更に、就学児健診での視力検査も十分に実施されていない地域があることから、日本眼科医会として文科省や学校関係者、マスコミ等に働き掛け、2022年度には96・4%に向上したことを報告した。
 庄紀子神奈川県立こども医療センター児童思春期精神科部長は、発達障害の子どもが増えていることに加え、虐待による深刻な心理的問題、不登校児の身体的症状、生命危機にある摂食障害への対応など、児童精神科診療の現場は非常に逼迫(ひっぱく)していることを説明。傷付き、自信を喪失している子どもを受け止めつつ、治療意欲や主体性を育む上で、家族の協力が治療につながることから、まず保護者にもそれを受け入れる心の準備が必要だとする一方、保護者に精神疾患がある場合は学校との連携体制が必要となるため、学校医は受診が必要な子どもを精神科医療につなぐ存在になり得るとした。
 元橋洋介神奈川県教育委員会保健体育課長は、インターネットやスマートフォンの長時間使用、運動不足、生活習慣の乱れなどによる子ども達の健康課題の解決に向け、運動遊び教室を開催する他、喫煙・飲酒・薬物乱用等の依存症防止教育、がん教育、防犯教室など多様な取り組みを実施していることを紹介。防災教育では、ARゴーグルを用いて、実際の景色に煙が充満する中を避難するリアルな体験や、タブレットを用いた津波の浸水体験など、記憶に残る実践的な訓練を行っている様子も動画で紹介された。
 この他、特別講演として、「宇宙はたくさんあるのか!?」と題し、野村泰紀カリフォルニア大学バークレー校教授/同大学ラインウェバー理論物理学研究所長が、「マルチバース宇宙論」について概説した。
 野村教授は1998年に宇宙が加速的に膨張し続けていることが発見され、その後、真空のエネルギー(宇宙項)の値がほんの少し違うだけで、銀河、星、生命など、ほとんど全ての構造は存在できないことも分かったとし、「神が造りたもうたと思えるほどに、我々の宇宙はでき過ぎている」と力説。しかし、全宇宙と思っていたものは、実は無数の異なる法則に支配される"宇宙達(マルチバース)"の中の一つに過ぎず、我々の宇宙はより大きな構造の中の"泡"のようなものであるとの理論を展開した。

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