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令和7年(2025年)11月12日(水) / 「日医君」だより / プレスリリース

財務省財政制度等審議会財政制度分科会における「社会保障②」等の議論について

 松本吉郎会長は、11月6日の会見に引き続き、11日に行われた財務省財政制度等審議会財政制度分科会(以下、財政審)での議論の内容を受けて、「今回の財政審の資料は診療所の適正化と称することを行うためのストーリーに基づく資料と議論であり、医療界の中での分断を招こうとしているが、病院、診療所共に、医療機関は地域を一体となって支えており、両方とも地域にとって必要不可欠なものである」と強調した。

 松本会長は、11日に開催したシンポジウム「社会保障のアップデート」の中で、有識者が「不適切なデータや評価は、最前線で戦う現場の士気を下げ、社会的共通資本である医療・介護・福祉を脆弱化させ、社会を分断させる恐れがある」と指摘されていたことを紹介し、財政審が「高齢者と若者」「病気の方と健康な方」「病院と診療所」など、さまざまな二項対立で分断を煽っていることが社会の不安定につながっているとして、「社会格差と健康格差を生まない社会にしていかなければならない」との考えを示した。

 また資料の内容については、多くは今春の財政審の春の建議の焼き直しであり、特に「2.医療・介護の理想像」などは春から多少変更はあるものの、関係者の同意も無い財務省の勝手な理想像が示されているに過ぎず、「あきれ果て、理解に苦しんでいる」と述べ、例えば「長期処方の普及が質の高い医療とは到底思えない」と批判した。

 更に、松本会長は、国民皆保険制度について「平成16年の大臣合意により、『必要かつ適切な医療は基本的に保険診療により確保する』とされており、これが『公的保険の考え方』である」と説明した上で、財務省等を中心に「大きなリスクは共助中心、小さなリスクは自助中心」という「民間保険の考え方」も一部に見受けられることは残念だとし、「医療は『現金給付』ではなく『現物給付』であり、公的皆保険制度として必要かつ適切な医療は保険診療により確保すべきである」と主張した。

 その上で、財政審の「医療」に関する資料について、(1)病院・診療所の収益に対する費用構造、(2)「2024年度赤字診療所(医療法人立)の分析」及び「(参考)医療法人の法人設立時期に基づく経常利益率の分析」、(3)医療提供の効率化等―の主に3点に対して反論した。

 (1)では、診療所の院長給与について、実態を正確に把握するためには、平均値ではなく中央値と最頻値を重視すべきであると指摘。加えて、院長は診療だけでなく経営上の全責任を負い、経営が困窮した場合には、連帯保証人として個人財産を投入してでも返済に対応する責任がある他、特に小規模の医療機関では、院長は診療のみならず、医療安全の確保、人材の確保、人事・労務、福利厚生、広報、設備の修繕・更新に至るまで、院内のあらゆることに対応しているとし、「財務省が示したデータは、医療機関が不眠不休で立ち向かった新型コロナウイルス感染症関連の『今はなき』補助金が含まれるなど、現在の苦しい医療機関経営の実態を全く示しておらず、恣意的にイメージを先行させようという意図が伺える」と抗議した。

 また、個人診療所の院長の個人収益について、その中から所得税の支払い、借入の返済、建物や医療機器等の固定資産の更新等を行う必要があるため、医療法人の院長の給与と同列に比較することは全く不適切であるとし、「一般に、個人のまま経営している診療所は医療法人よりも零細であり、このような資料の出し方は著しく誤解を招くもの」と非難した。

 更に、改めて現在の無床診療所の経常利益率の中央値は2.5%、最頻値は0.0~1.0%であることにも触れ、「地域医療を守る診療所の廃業・倒産が頻回に起こることは望ましくなく、一定の利益率がないと安定的に存在していくことが不可能になる」こと等を説明した。

 (2)では、無床診療所を経営する医療法人の収支において、設立後年数が長いほど経常利益が減少し、事業収益と事業費用も同時に減少していることに関して、財政審が「法人登記が古い医療法人ほど経常利益率が低くなるのは、設置者である医師が内部留保を給与の形で取り崩しているからである」と断定していることに対しては、「実際には設立後年数が長くなるほど、むしろ事業費用は減少しており、それ以上に事業収益が減少していることが経常利益の悪化を招いている」と反論。

 また、医療法人は剰余金の配当が禁止されていることから、当期純利益がプラスであれば利益剰余金が積み上がっていくことは必然とした上で、利益剰余金は、医療法人の設立以降、毎年の税引き後の利益または損失を積み上げた結果の金額で、「現預金」としてそのまま残っているとは限らないと指摘。多くの医療機関は、税引き後の利益を建物や医療機器等の設備投資など、医療に再投資したり、過去の設備投資で借り入れた借金の返済に充てており、現預金が一部残っていたとしても、将来の建て替えや医療機器等の更新に備える財源として確保しなければならないと強調した。

 (3)では、「財政的観点のみから財政審が、個別の人員配置まであげつらうことは越権行為と言わざるを得ず、見過ごすことはできない」と強く非難する一方、医療・介護分野における人材紹介について、人材紹介会社を経由した雇用の都度、発生する手数料は医療機関にとって大きな負担となっているとしていることには、「この件だけだが、珍しく財政審と考え方の方向性は一致している」と述べた。

 最後に、松本会長は、診療所の利益率は、決算月が直近になるほど利益率が低くなっており、2025年度は更に悪化していることに改めて触れ、「診療所だけを深堀りして財源を捻出するようなことは到底容認できない」と主張。また、今回の財政審の議論は「診療所の適正化を行う」と称することを行うための恣意的な資料となっており、医療機関経営の経常利益率は中央値2.5%、最頻値0.0~1.0%と、病院だけでなく診療所も非常に厳しい状況で、例えば、売上が1億円だと利益は250万円、1.5億円だと375万円と決して高くなく、更にその中で高額な医療機器等の設備投資等も行っていることを再度強調するとともに、診療所で使用する医療機器でも1,000万円を超える機器は多くあり、耐用年数も決まっているため、買い替えや高額な修繕等も必要になると説明。「このままでは閉院する医療機関が増え、地域医療の崩壊を招く」と警鐘を鳴らし、財源を純粋に上乗せする対応が必須だとして、次期改定までの2年間をしっかりと見た改定水準を求めた。

◆会見動画はこちらから(公益社団法人 日本医師会公式YouTubeチャンネル)

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