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令和7年(2025年)4月5日(土) / 日医ニュース

「災害かつ再生に役立つ医療DX―DX推進の現状・課題・展望」をメインテーマに開催

「災害かつ再生に役立つ医療DX―DX推進の現状・課題・展望」をメインテーマに開催

「災害かつ再生に役立つ医療DX―DX推進の現状・課題・展望」をメインテーマに開催

 令和6年度日本医師会医療情報システム協議会が3月8、9の両日、石川県医師会との共催により「災害かつ再生に役立つ医療DX―DX推進の現状・課題・展望」をメインテーマとして、日本医師会館大講堂とWEB会議のハイブリッド形式で開催。1階ロビーにおいては、「標準型電子カルテα版」などの展示も行った。

【第1日】

開会

 協議会は担当の長島公之常任理事の司会で開会。あいさつに立った松本吉郎会長は、適切な医療連携が最も必要となるのは災害時であるが、令和6年能登半島地震の際にはその手段として、オンライン資格確認等システムの災害時モード(以下、災害時モード)の活用等が行われたことを紹介。今後の災害に備え、能登半島地震での体験を共有することは大変有益であるとして、本協議会開催の意義を強調した。
 続いてあいさつした安田健二石川県医師会長は、能登半島地震における多くの支援に感謝の意を表明した上で、医療DXを前進させる有意義な協議会になることに期待感を示した。

Ⅰ.災害かつ再生に役立つ医療DX

 1日目には六つの講演が行われた。
 田中彰子厚生労働省医政Ⅰ.災害かつ再生に役立つ医療DX局参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)は、能登半島地震において、マイナンバーカードを持参しなくても本人同意のみで薬剤情報・診療情報・特定健診等情報の閲覧が可能になる災害時モードに、約3万2600件の閲覧があったことを紹介。また、救急時医療情報閲覧については、令和6年12月から患者の同意取得が困難な場合での活用が開始されているが、今国会での関連法案成立後には、電子カルテ情報共有サービスの運用へと拡充されていくことを明らかにした。
 近藤祐史厚労省医政局地域医療計画課災害等救急時医療・周産期医療等対策室長は、新EMISの整備状況として、現EMISで指摘されている機能面・運用面の課題への対策がなされるとともに、厚労省のD24Hや内閣府のSOBO―WEB等、他のシステムとの連結やスマホ画面での操作が可能になるなどの操作性改善が図られた他、災害診療記録(J―SPEED)が組み込まれる予定であること等を説明。その上で、令和7年4月からの本格運用に向けたスケジュールや操作試行の研修サイト・訓練サイトについても紹介し、その活用を求めた。
 佐原博之常任理事は、石川県七尾市の開業医としての立場から、能登半島地震の経験を踏まえ、被災時における「かかりつけ医」のICTの活用例として、(1)オンライン資格確認等システム災害時モード、(2)避難所の避難者に対するオンライン診療―について報告。
 (1)では、避難先の医療機関で高齢者がこれまでの治療経緯等を説明することは難しく、薬剤情報が不明な患者も多い中、薬剤情報が参照できたことは極めて有効であったとする一方で、①レセプト情報のため1、2カ月前の情報である②その用法が分からないことがある③光回線が無いと使用できない④発災直後の避難所での使用が困難―などの課題があったと振り返り、その解決策として電子処方箋(せん)の普及や、モバイル端末でのオンライン資格確認等システムの利用を挙げた。
 (2)では、「患者、医療者両側からさまざまな不安が見られたが、かかりつけ医機能を継続するためにも、オンライン診療を行うことは有効な手段であった」と述べた。
 島中公志公立穴水総合病院長は、被災直後の状況の映像を紹介しながら、現在の道路・建物の復旧状況や公費解体の進捗状況を報告。
 また、病院の電話がつながらない中、災害関連死を予防する取り組みや、衛星ブロードバンドインターネット(スターリンク)を介した安全なネットワークによる臨時医療情報交換システムを活用して、避難所及び仮設住宅の支援を行ったことなどにも言及。今後の課題としては財政支援とともに被災者の心のサポートを挙げ、その実現に向けた支援と協力を求めた。
 横山邦彦白山石川医療企業団副企業長は、能登半島地震の際に県下の医療情報を全て一本化し、情報閲覧機関として724施設が登録している「いしかわ診療情報共有ネットワーク(いしかわネット)」を運用した支援を行ったことを報告。また、いしかわネットについては、コロナ禍で利用されたEMS(緊急時閲覧)機能に加え、PDQ機能(患者ID検索機能)が導入されていることを紹介し、「災害時モードと合わせて、平素からこうしたシステムを利用しておくことが重要になる」との考えを示した。
 秋冨慎司日本医師会総合政策研究機構客員研究員/金沢医科大学救急医学講座特任教授は、東日本大震災の災害対策に5年間携わった経験を基に、能登半島地震においては石川県JMAT調整本部の本部員としての医療支援活動に従事したことを報告。避難した高齢者の死亡率が高い実態があることを紹介し、その原因については現在、調査を行っていることを明らかにした。
 また、被災地ではシステムが乱立し、異なるエリアや状況でのさまざまなニーズを、どう引き継いでいくかが課題となったことを踏まえ、JMAT FA―SYS(JMAT施設評価統合システム)を開発した他、Teamsを用いた情報伝達等の運用を行ったことなどを報告。「今後は国難級災害に備えて大きな枠組みで支援するシステムの構築が求められる」と指摘した。
 その後のパネルディスカッションでは、活発な意見交換が行われるとともに、長島常任理事が医療DXの課題と展望及び地域医療の課題について発言し、「電子カルテは、あくまで情報共有・連携の手段であり、義務化・強制化には断固反対する」と強調。紙カルテを使用している先生でも負担なく情報共有できるよう、医療DXを適切に進めていく考えを示した。
 なお、1日目には、協議会に先立ち事務局セッションが行われ、日本医師会事務局から「日本医師会の情報システム最新報告」「HPKIの最新の動き」の他、「医師会会員情報システム(MAMIS)」の最新の動向や今後の予定等についての報告がなされた。
 また、警察庁からはランサムウェアの被害事例と、その対策や警察における被害の未然防止・拡大防止に向けた取り組み等に関する説明がなされた。

【第2日】

 2日目には、二つのテーマに関する講演が行われた。

Ⅱ.医療DXと地域医療情報連携ネットワーク

 長島常任理事は全国医療情報プラットフォームと地域医療情報連携ネットワーク(以下、地連NW)について、両者を「新幹線」と「ローカル線」に例えた上で、役割の違いと併用の重要性を強調。補助金の縮小等の理由から、一部地域において運営が危ぶまれている地連NWの目的や有用性、効果、運用方法、財源について、医療機関、医師会、事業者等で再度検討する必要があるとした。
 吉原秀一秋田県医師会副会長は、全国で初めて県域を越えて連携した地連NW「秋田・山形つばさネット」の運用開始までの経緯を詳説。「地連NWは医者が知りたいカルテの情報が全て載っている」とした上で、今後の全国展開については、全国から患者が来院するがんセンター等の大病院での活用が見込まれるとした。また、5年間にわたって実証実験を行っている遠隔手術に関しては、近隣の北海道・東北地域の医師少数地域や豪雪地帯での活用に期待感を示した。
 三角隆彦横浜市医師会理事は2019年3月から横浜市鶴見区で運用を開始した地域医療介護連携ネットワーク「サルビアねっと」について詳説。病院、クリニック、薬局、介護施設などの情報を統合し、多職種の医療従事者がアクセスできる仕組みを構築したことで、2022年3月までに重複処方を32%、多剤処方を22%、医療費ベースで年間約2・5億円、それぞれ削減したことを報告。今後に向け、「神奈川県全域で相互利用ができるよう範囲を拡大していきたい」と意欲を示した。
 菰田拓之豊橋市医師会DX担当理事は、DX目線で考える地連NWの方向性として情報抽出・二次利用に着目。医療分野におけるデジタル開発に必要なデータソースの抽出のためには、多職種による地域の医療現場の情報が詰まった地連NWは適切であるが、地連NWはデータ抽出を目的として作成されていないため、システム改築のコストが問題になると指摘。その対策として、内閣府の地域創生事業や経済産業省の補助金などを検討しているとした。
 中村光成荒尾市医師会副会長は、高齢化率が35%に達している熊本県荒尾市において、患者やその家族、医師が受診歴や服薬歴を共有できる「デジタル健康手帳」を開発した経緯を説明。2023年に開発された本システムについて、今後は、予防医療での活用や地域の経済圏のプラットフォームとして、医療以外の分野での活用を視野に入れているとした他、「そのエビデンスを集積し、地域に還元できるよう活用したい」と述べた。
 中野智紀旧埼玉利根医療圏地域医療連携推進協議会(とねっと協議会)事務局/南越谷内科クリニック院長・理事長は、コロナ禍における財政難等の理由で複数の市町村が脱会したことで、埼玉県北東に位置する利根保健医療圏の地連NW「とねっと」が令和6年9月にサービスを終了したことを報告。法的な位置付けのない地方行政の中での運用であったため、財源や事務局の人材確保が難しかったことを振り返り、「今回『とねっと』終了までの課題と、それぞれの判断のプロセスを示すことで、皆さんの今後の議論に役立てることができればありがたい」と述べた。
 その後の総合討論では、会場の出席者と演者との間で活発な意見交換が行われた。

Ⅲ.医療DX推進の現状・課題・展望

 田中厚労省医政局参事官は、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXなどの国が推進するDX施策について詳説。令和5年時点で一般病院の電子カルテシステム普及率は65%、診療所は55%であることに触れ、本協議会の会期中に展示もされている「標準型電子カルテα版」の開発及びモデル事業のスケジュールを示した。
 また、サイバーセキュリティ対策に関する新たな取り組みについても言及し、「医療機関の皆様の心配に応えながら質の高い医療を維持することを目指している」と述べた。
 山田章平厚労省保険局医療介護連携政策課長はオンライン資格確認の最新の利用動向について、導入医療機関は義務化対象のうち97%(2024年11月時点)、マイナ保険証の利用登録率は84・1%(2025年1月時点)、利用率は25・42%(2025年1月時点)であることを報告。救急の現場においても服薬歴等を正確に速やかに把握できることから活用されていることを紹介し、「マイナ保険証を持っていると少し便利という世界から、助かる命が出てくるという時代に変わりつつある」と強調した。
 重元博道厚労省医薬局総務課長は電子処方箋の導入状況(2025年2月23日時点)について、薬局は67・9%、医科診療所は12・1%、病院は5・2%であることを報告。医療機関での導入が進まない要因として、医薬品誤表示問題への不安、システム改修の負担、周囲の医療機関の対応状況などが挙げられたことに対し、具体的な対応策として、補助金制度の延長や公的病院への導入要請、周知広報の強化などが検討されているとした。
 島添悟亨厚労省保険局医療介護連携政策課推進官/保険局診療報酬改定DX推進室室長代理補は医療DXの推進に関する工程表を基に、共通算定モジュールの開発と国公費・地単公費の現物給付拡大について解説。各システムベンダーにおけるマスタ・コードの作成業務や、医療機関等の請求及び自治体の償還払いの事務を標準化し、コストを極小化することを目指しているとした。
 長島常任理事は、電子カルテ、電子処方箋、オンライン資格確認、診療報酬改定DXなど、医療DXの個別項目に関して、日本医師会としての見解や主張を解説。項目が多岐にわたることから、医療現場ではICT導入に伴う負担増加が課題となっていること等を指摘し、医療現場の声を国に伝え、政策及び支援として現場に還元することが必要と強調した。
 その後のパネルディスカッションでは、電子処方箋の普及やマイナ保険証のスマホ対応、サイバーセキュリティ対策などについて活発な質疑応答が行われた。
 総括した長島常任理事は、「医療DXを適切に推進するためには、医師会が適切な働き掛けを行うとともに、国と二人三脚で進めていくことが重要になる」と述べ、今後の推進に向けた連携に期待感を示した。

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