日医かかりつけ医機能研修制度 令和7年度応用研修会(第1回)が9月21日、日本医師会館大講堂で開催され、31都道府県医師会の受講会場にも同時中継された。
冒頭あいさつした松本吉郎会長は、本研修制度が10年目を迎え、応用研修会の延べ受講者数が7万2244名となったことに触れ、「この数字は日本全国の医師がかかりつけ医として、患者・国民を支えたいという熱意の下、しっかりと取り組んで努力してきていることの証である」と強調。今後も、患者や地域の医療・介護・福祉に貢献し続けることができるよう、本研修制度の充実を図り、より一層尽力していく考えを示した。
続いて、6題の講義が行われた。
講義1「肝臓病の診断と治療」では、竹原徹郎関西労災病院長が「日常診療で見逃さない肝臓病の重要ポイント」と題して、日頃の診療で頻度の高い肝疾患について、診療のポイントや注意点などを解説。「ALT異常が見られた際には、まずは急性か慢性か、次にウイルス性か非ウイルス性かを常に意識し、適切な検査と経過を診ることが重要」と強調するとともに、薬物やサプリメントによる肝障害についても注意を要することを指摘した。
また、脂肪肝については、2023年から疾患概念が大きく変更されたことを説明するとともに、肝硬変・肝がんへのリスクを評価する線維化マーカーのうち、一般の臨床において、年齢・AST・ALT・血小板数を用いて計算するFIB―4インデックスが参考になることを紹介した。
講義2「慢性腎臓病(CKD)の診断と治療」では、成田一衛新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター長が、「かかりつけ医におけるCKD診療のポイント」と題して、慢性腎臓病(CKD)の診断・治療と地域医療における連携について詳説した。
CKDについては、(1)個別の疾患名ではなく概念であり、心血管病や腎不全の重要なリスク因子として注目されている、(2)日本では成人の約5人に1人、65歳以上では4人に1人がCKDとされ、かかりつけ医が日常的に遭遇する頻度が高い―ことなどを説明。
診断に当たってはGFRの低下や蛋白尿・血尿の有無を確認し、3カ月を超えて腎臓に異常があればCKDと診断できるとした他、重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を組み合わせて評価するとして、専門医への紹介は、日本腎臓学会による紹介基準を参照して早めに対応することを求めた。
また、かかりつけ医においては、血圧管理、減塩・禁煙を中心とした生活習慣指導、脂質異常症等の是正、CKDステージG4以降の糖尿病関連腎臓病に対する薬物療法において禁忌となっている一部の経口血糖降下薬(SU薬など)の回避があるとした上で、「腎疾患管理は脳心腎連関の観点から全身管理に直結するため、早期発見とリスク評価のために定期的な検尿と、適切な専門医紹介が予後改善に不可欠である」と強調した。
講義3「高齢者肺炎の治療と多職種連携」では、海老原覚東北大学大学院医学系研究科臨床障害学分野教授がその重要性を概説。肺炎はかかった場所により「市中肺炎」「院内肺炎」「医療・介護関連肺炎」に分類されるが、2017年に三つのガイドラインが統合され、2024年に改訂された『成人肺炎診療ガイドライン』が標準とされているとした。
診療に当たっては、まず病原微生物の同定、患者背景のアセスメント、更にQOLや意思を考慮した治療選択が重要になるとし、特に、微生物検査には培養や抗原検出、遺伝子検査が用いられるが、臨床症状や画像所見を踏まえた総合的判断が必要になると強調した。
また、重症度判定については肺炎重症度スコア(A―DROP)が推奨されているが、敗血症の可能性に関してはQuick SOFAなどで評価する必要があると説明した他、治療に当たっては細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別が大きなポイントであり、非定型肺炎はマイコプラズマ、クラミジア、レジオネラが主因で、βラクタム系抗菌薬が無効なため、マクロライドやテトラサイクリン系等が有効になることを紹介した。
更に、誤嚥性肺炎に関してはいずれの分類の肺炎でも起こり得る点を強調し、加齢に伴う嚥下機能低下や免疫機能低下が背景にあるが、診療に当たっては、摂食嚥下機能低下の問題に取り組むことが求められるとし、食事の工夫もさることながら、多職種による摂食嚥下の対策と支援が重要であるとした。
講義4「かかりつけ医に必要な骨粗鬆症への対応」では、井上大輔帝京大学ちば総合医療センター病院長/第三内科学講座主任教授(内分泌代謝)が、「診断のコツと治療の実際~骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2025もふまえて~」と題して、骨粗鬆症は骨密度の低下と骨質の劣化により、特に閉経後の女性に多く発症する疾患で、60代以上は椎体、70代以上は大腿骨近位部の骨折が増加する傾向があると指摘。更に、椎体骨折は半分以上が不顕性であり、レントゲンでの確認が重要になるとした上で、ADLやQOLの低下を招く要因の一つでもある同疾患の最大の治療目標は、健康寿命の伸長という面からも、「骨折予防」になることを強調した。
また、骨粗鬆症は必ずしも整形外科領域に限られる疾患ではなく、糖尿病等の生活習慣病もリスクになることを指摘し、骨にも着目する治療が日常診療において重要との認識を示した。その他、骨粗鬆症の治療薬の選択肢は大幅に増えたものの、大腿骨近位部骨折の発生率は、高齢化の進行により約30年にわたって改善していないことなどを報告した。
その上で、骨粗鬆症の診断の基本はスクリーニングと、エビデンスに基づいた戦略的な薬物療法を徹底し、治療開始時点から3年でゴールを目指すGoal-Directed Treatment(ゴール志向治療)を選択することが望ましいとし、必要に応じて専門医への紹介を求めた。
講義5「かかりつけ医とリハビリテーションの連携」では、木下翔司東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座講師が、2040年頃に65歳以上の人口のピークが到来し、医療と介護のニーズの複合化や障害者の高齢化により、マルチモビディティ(多疾患併存)への対応の必要性が高まるとの見通しを示した上で、ADLの維持のためにもしっかりとしたリハビリテーションの提供が必要になると指摘。
その上で、リハビリテーションは(1)急性期、(2)回復期、(3)生活期―に大別されるとして、各期の役割について概説。(1)では、「早期離床・早期リハによる廃用症候群の予防」が重要になるとした他、(2)では、主にADLの回復を目的としたリハビリテーションに主眼が置かれ、ここでの治療を経て自宅または施設へと移るとし、ここまでは主に医療保険の適用を受けるとした。更に、(3)については介護保険の適用となり、リハ職のみならず、多職種によって構成されるチームアプローチによる生活機能の維持・向上、自立生活の推進、介護負担の軽減及びQOLの向上が主目的となるとした。
また、リハビリテーションとかかりつけ医の連携について、訪問リハビリテーションを活用した事例を中心に、制度面にも触れながら、実践内容について紹介。医療・介護・障害福祉の連携が重要であることを強調した。
講義6「事例検討~在宅医療における連携/認知症を含むマルチモビディティへの取組~」では、まず、織田正道織田病院理事長が、「在宅医療における連携」について実践事例を軸として、(1)かかりつけ医と在宅療養支援病院(在支病)及び在宅療養支援診療所(在支診)との連携の実際、(2)介護保険施設等と医療機関の協力体制と連携要件、(3)ICT活用による情報共有と会議の実施体制、(4)連携による医療・介護双方の質向上と加算算定への対応、(5)多職種連携と地域包括ケアの推進に向けた課題と展望―についてそれぞれ概説した。
(1)では、高齢化により在宅医療のニーズが高まる中で、在支病及び在支診に求められる施設基準等を説明。在支病はかかりつけ医と連携し、在宅医療において積極的役割を担うことが期待されるとした。(2)では、2024年4月(3年間の経過措置あり)より、介護保険施設等は新たに示された要件を満たす協力医療機関を定めることが義務付けられたことに言及し、相談・診療・入院の連携要件についても解説。(3)では、ICTにより、限られた人的資源の下でも、物理的距離や制約を超えた情報連携が可能となる一方、情報漏洩(ろうえい)への備えやスタッフの教育が重要になると強調した。(4)では、介護保険施設等と医療機関の実効性のある連携に対して診療報酬上の評価が新設されたことによる効果や今後の課題に言及。(5)では、医療・介護・福祉を越えた多職種連携が不可欠とした上で、今後は、地域差の是正や持続可能な制度設計、人材不足に対応し、地域住民も巻き込んだ「地域連携型のチーム医療」が必要になるとの考えを示した。
次に、「認知症を含むマルチモビディティへの取組」では、近藤敬太藤田医科大学連携地域医療学助教/豊田地域医療センター総合診療科在宅医療支援センター長が、認知症を含むマルチモビディティへの対応について、具体的な事例を挙げながら解説。マルチモビディティを抱える患者には、単一の疾患に注目せず、複数の疾患を抱える患者を包括的に捉える視点が大切とするとともに、患者の意向やQOL、社会的背景等を考慮し、患者一人ひとりに合わせたテーラーメイドのアプローチを多職種で協働して実践することが不可欠と強調した。
また、①問題点への介入の評価②患者の意向確認③重要なアウトカムに関するエビデンス確認④予後予測⑤治療と疾患の相互作用、薬剤相互作用の確認⑥介入の利益とリスク検討⑦患者や家族と話し合い、今後の治療、介入について決定―の視点が重要であり、特に本人の意向聴取が不可欠になると強調。更に、介護保険などのフォーマルサービスのみならず、家族や隣人の協力などのインフォーマルな支援の利用も視野に入れ、介入を実施するという視点も求められるとした。
最後に角田徹副会長が閉会あいさつを行い、研修会は終了した。
なお、日本医師会では、本研修会と同様の内容の研修会を10月19日、11月3日にもWEBにより開催する予定としている。