長島公之常任理事は、「診療所における医療DXに係る緊急調査」についての集計結果を報告し、その内容等について説明を行った。
今回の調査は本年9月20日~10月4日にWEB調査で日本医師会のA1会員の診療所管理者(院長)から無作為抽出した1万名を対象として日医総医研が実施したもので、有効回答数4,454、有効回答率は44・5%であった。(なお、WEB調査のため、回答者はICTに慣れた医師が多い可能性があることに留意が必要)
長島常任理事はまず、調査を行った背景について、医療DXが急速に進んでいるために医療現場に大きな負担が掛かっているとの声を聞くことが多く、また、令和6年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の算定要件として、マイナ保険証の利用率が用いられる他、施設基準の経過措置として電子処方箋 を発行する体制が来年3月末まで、電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制が来年9月末までとされていることから、診療所における医療DXの取り組みの実態や負担感を把握すべく緊急調査を実施したと説明した。
具体的な結果について、同常任理事はマイナ保険証の利用率(令和6年7月 分)に関して、10%未満が7割以上を占めていることについて、「単純に平均値で見るのではなく、分布を見て、できるだけ多くの医療機関が『医療DX推進体整備加算」』を算定できるようにすべきである」と指摘。また、院長年齢が高い施設や小児の医療費助成などにより小児科等でマイナ保険証の利用率が低い傾向にあるとし、利用率が低迷している施設に対しては一定の配慮や支援が必要であるとの考えを示した。
次に、電子処方箋を導入済みで運用している施設は4.6%、導入しているが未運用の施設が9.9%と導入率は低迷しており、電子処方箋を導入しているが運用していない理由としては、「地域の薬局や医療機関が未運用」が多いことに言及。地域全体の医療機関や薬局が広く導入することが重要であり、国には面としての普及策の必要性を強く提言しているとした。
また、電子処方箋を導入していない理由について、「システムの改修や導入の費用面の負担が大きい」「導入のメリットを感じない」などが挙げられていることに関しては、国として十分な費用補助を行うとともに、メリットについての分かりやすい説明や情報提供をしっかり行うことが重要であるとした。更に、電子処方箋を運用中の施設においてもメリットを「感じられない」という回答が多くあることについては、今後、費用や作業の負担軽減を図ることが喫緊の課題であるとした。
電子カルテの使用割合は62.6%であり、院長の年齢階層が高いほどその使用率は下がる傾向があることに関しては、「高齢の医師も地域医療の重要な担い手であり、電子カルテの使用ができないことで医療が継続できないことになれば、地域医療が崩壊してしまう」と述べ、電子カルテの義務化・強制化には強く反対する考えを表明。その上で、国が予定している標準型電子カルテの提供により、これを導入すれば便利であるという明確なメリットを持って普及を支援すべきであるとした。
また、電子カルテ情報共有サービスに関しては、「診療中にネットワーク上の患者情報を見ることが難しい」との回答について、実際に始まっていないことから良く分からないのが実情であるとの見方を示し、例えば、標準型電子カルテを使うことでネットワーク上の情報が見られることなどのメリットを感じて欲しいとして、医師に使い勝手が良く、本当に役立つものにすべきと提言しているとした。
更に、共有サービスを使い、他の医療機関情報が閲覧できることは医療の質を向上するのに有効であるとして、日本医師会としては紙カルテを使っている医師でも情報の閲覧ができるシステムとなるよう強く要望しているとした。
医療DX全般について、診療所ではICT人材が不足し、医師自らがシステム対応を行い作業負担が大きい状況であり、国としてさまざまな取り組みが必要であるとした。また、電子カルテなどシステム費用負担のばらつきがかなり大きいことが分かり、システム負担が高額な医療機関が少なくないことから、補助金の上限設定についても平均値でなく分布を見て決めるべきであり、医療機関の費用負担軽減に努めるべきとした 。
最後に長島常任理事は、今回の調査で診療所における医療DXの実情を把握できたとして、「医療DXの推進は国策として進めるものであることから、国の全面的な支援が必須であり、現場の実情に即したしっかりとした手当てとして、診療報酬と補助金あるいは基金などあらゆる手段の支援が必要である」と述べるとともに、「スピード感は重要であるが、拙速に進めてさまざまな混乱や障害が起こることで国民、医療関係者からの信頼、安心感を失うことが最大の逆風となるため、急がず、丁寧にきめ細かく進めることが重要である」として、日本医師会もしっかり協力して、できるだけ分かりやすい情報を提供していく意向を示した。
その他、長島常任理事は冒頭に、電子処方箋管理サービスが12月20日から一時停止となっていることについて言及。日本医師会としては、医療機関の意図とは異なる誤った情報に基づいた調剤につながりかねない今回の事案について、健康被害が発生し得る重大な問題ゆえに万全な対策をすべきであり、電子処方箋管理サービスの一時停止及び一斉点検期間の延長の厚労省の対応は妥当であるとの考えを示した上で、今後の再発予防及びこのような状況が起こらないようなシステム整備が極めて重要になるとした。また、「医療DXは、医学的な安全を最優先すべきであり、医療DXを進める上で、国民と医療関係者の信頼や安心感が最大の普及策となる」として、厚労省に対応を求めるとともに、「日本医師会としても協力していきたい」と述べた。
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