令和5年(2023年)12月5日(火) / 日医ニュース
「子どもたちの健やかな成長を守る~我々が守らなければ誰が守る!~」をメインテーマに開催
令和5年度 第54回全国学校保健・学校医大会
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令和5年度 第54回全国学校保健・学校医大会(日本医師会主催、兵庫県医師会担当)が10月28日、「子どもたちの健やかな成長を守る~我々が守らなければ誰が守る!~」をメインテーマとして、神戸市内で開催(本年12月24日までオンデマンド配信中)された。
午前には、「からだ・こころ(1)」「からだ・こころ(2)」「からだ・こころ(3)」「耳鼻咽喉科」「眼科」の五つの分科会が行われ、各会場で研究発表並びに活発な討議がなされた。
学校保健活動に対する長年の貢献を顕彰
午後からは、まず、開会式と表彰式が行われた。
開会式のあいさつで松本吉郎会長は、久々にコロナ禍前と同様の現地開催が行われることに祝意を示した上で、今大会で行われるシンポジウムのテーマであり、全ての人にトラウマ体験の影響があるかも知れないことを念頭においた「トラウマインフォームドケア」という考え方について、参加者の新たな知見となることに期待を寄せた。
また、本年5月に5類感染症に変更された新型コロナウイルス感染症について、「大きな区切りを迎えたものの、3年以上にわたるコロナ禍を経て、児童生徒達は心身のさまざまな領域にわたって新たな健康課題を抱えつつある」と指摘。AIなどの普及で社会が加速度的に変化していく中、関係者の力を結集して子ども達の健やかな成長を守っていくことへの協力を呼び掛けた。
表彰式では、長年にわたり学校保健の向上に貢献した近畿ブロックの学校医(6名)、養護教諭(6名)、学校関係栄養士(6名)に対し、松本会長が表彰状と副賞を、八田昌樹兵庫県医師会長が記念品を、それぞれ贈呈。受賞者を代表して上月清司氏(学校医)から、謝辞が述べられた(写真)。
次期開催県からのあいさつでは、開会式と表彰式の前に開催された都道府県医師会連絡会議で、次期開催県に決定した宮崎県医師会の河野雅行会長から、令和6年11月9日(土)に宮崎市内で次回大会を開催予定である旨の説明が行われた。
その他、祝辞では、齋藤元彦兵庫県知事(代理:片山安孝兵庫県副知事)、久元喜造神戸市長(代理:高田純神戸市教育委員会事務局長)、松本吉郎日本学校保健会長(代理:弓倉整日本学校保健会専務理事)、藤原俊平兵庫県教育委員会教育長からお祝いのメッセージが寄せられた。
シンポジウム
引き続き、「トラウマインフォームドケア~子どもたちのトラウマを理解し、社会がどう変わるべきか~」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
大森英夫兵庫県医師会元常任理事は、文部科学省の調査でも実態が表面化してきている、いじめや虐待に苦しむ子ども達の現状や、わが国で子どもの心身症の存在が認められるまでの歴史を紹介。今後は健康診断で体だけではなく心もみる必要性を指摘するとともに、本シンポジウムをトラウマへの気付き方などについて考える機会としたいとした。
毎原敏郎兵庫県立尼崎総合医療センター小児科長は、小児科医の立場から、落ち着きがなかったり、周囲とトラブルが絶えないなど、学校で問題児とされている子どもへの対応について解説。そうした子どもは必ずしもADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害の素因をもっているとは限らず、暴力を受けるなど、不適切な養育環境の中で受けた理不尽な扱いによるトラウマが原因である場合もあると指摘した。
また、子どもの時期の逆境的体験は生涯を通じて心身の健康に影響してしまう一方で、周囲の対応によってそうした子どもの人生を変えることができる可能性も示されており、「これこそ私達のできることではないか」と強調した。
田口奈緒NPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうご理事/兵庫県立尼崎総合医療センター産婦人科部長は、性暴力を受けた子どもへのワンストップ支援センターの対応等について紹介。性被害は多様でどこでも起きる可能性があり、学校や塾ですら安全ではないとした上で、被害者は未成年が多く、近年はSNSを発端としたケースが増えてきているとした。
更に、被害者への対応の際、家族等ではなく、本人の希望を最優先し、治療や処置の際には同意を得ることの重要性を強調するとともに、学校医に向けたメッセージとして、「性暴力があったか否かを証明することが学校医の仕事ではない。からだの安心を提供することが学校医の役割だ」と述べた。
大岡由佳武庫川女子大学心理・社会福祉学部社会福祉学科准教授は、「トラウマインフォームドケア」は、これまでの日々の臨床の再発見のような位置付けであるとした上で、いじめなどにより自殺願望等が強い子どもに対する、周囲のいろいろな人の関わりや、トラウマにまつわる状況に耳を傾けていくことの重要性を強調。トラウマへのアプローチ方法については、①理解する②気づく③対応する④再受傷させない―ことが基本であり、子どもが「安全感を高める」「対処行動を学ぶ」「ストレングスを高める」ことで生きづらさの軽減につながっていくことを解説した。
同准教授は、「私達の身近にはトラウマを持っている方がたくさんおり、もしかしたらさまざまな影響が出ているかも知れないことを理解しておくことが大切だ」と述べるとともに、こうした視点は個人だけでなく、組織全体で共有していくべきとした。
その後のパネリストによるディスカッションでは、「トラウマインフォームドケア」を文化にしていくための方策や、学校、学校医、養護教諭の連携のあり方などについて、活発な意見交換が行われた。
特別講演
「淡路島のサルから考える寛容性と協力社会」と題して特別講演を行った山田一憲淡路ザル観察公苑理事・大阪大学人間科学部講師は、専制的な構造を持つとされるニホンザルの社会について解説した。
同講師は、ニホンザルの攻撃行動は優位個体から劣位個体に一方的に行われることが多いなど、その社会は極めて厳格な優劣関係に基づいて成り立っているとした上で、淡路島ニホンザル集団の特異的な特徴として、劣位個体への攻撃行動が起こりにくいなど社会的な寛容性が高いことを紹介。また、他地域のサルではできない、協力して食物を得る行動も見られ、それが集団の中で世代を超えても文化として引き継がれていることから、「専制的な社会構造こそがニホンザルの協力行動を阻害する制約になっていた」と述べ、淡路島のニホンザルに注目することで、寛容で協力的な社会を築く手掛かりとなることを期待した。
その後の閉会式には盛山正仁文科大臣が駆け付け、大会の開催に祝意を示すとともに、日頃の学校保健・学校医の活動に感謝の意を述べた。