令和5年(2023年)10月20日(金) / 日医ニュース
「次世代に託す医師会共同利用施設の使命~かかりつけ医機能支援と医療・保健・介護・福祉の充実~」をメインテーマに開催
第30回全国医師会共同利用施設総会
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第30回全国医師会共同利用施設総会(以下、総会)が9月9、10の両日、主催日本医師会、担当岡山県医師会により、「次世代に託す医師会共同利用施設の使命~かかりつけ医機能支援と医療・保健・介護・福祉の充実~」をメインテーマに、岡山市内で開催された。
日本医師会からは、松本吉郎会長始め、角田徹副会長、江澤和彦・今村英仁・黒瀨巌の各常任理事が参加。2大会ぶりの現地開催となった総会において、各医師会等からの多くの参加者を得て、活発な討議が行われた。
第1日
総会1日目(9日)には、まず、大原利憲岡山県医師会副会長が開会を宣言し、松本会長、松山正春岡山県医師会長、合地明岡山県医師会常任理事/総会実行委員長らがあいさつを行った。
松本会長はあいさつの冒頭、来賓の伊原木隆太岡山県知事、大森雅夫岡山市長に医師会活動への日頃からの理解と協力に対して、松山岡山県医師会長を始めとする岡山県医師会関係者及び池田琢哉鹿児島県医師会長/医師会共同利用施設検討委員会委員長、本間博岩手県医師会長/医師会共同利用施設検討委員会副委員長には総会のプログラム立案等と実施に係る多大な尽力に対して、それぞれ感謝の意を表明。共同利用施設については、「医師会、医療機関、医師会員にとって生命線であり、県民や市民の皆様を守る砦である」と強調し、共同利用施設を守り抜く決意を示した。
松本会長特別講演
引き続き、松本会長は「中央情勢報告」と題して特別講演を行った。
その冒頭、新型コロナウイルス感染症について、全国的に感染が再拡大しつつあることを指摘する一方、対人口比で見た場合、日本国内の新型コロナによる死者が諸外国に比べて依然として低く抑えられていることを強調。「このことは、ここにいらっしゃる医療関係者の方々のご尽力の賜物である」として、改めて感謝の念を伝えた。
講演では、(1)物価高騰、(2)医師の働き方改革、(3)豪雨災害への対応、(4)かかりつけ医機能報告及び外来機能報告、(5)地域に根差した医師の活動、(6)かかりつけ医機能の発揮に向けた法整備、(7)改正感染症法等に基づく協定、(8)医療DX、(9)日本医師会の組織率―等をテーマに日本医師会の考えを説明。
(1)では、原油を始めとする昨今の物価高騰が医療機関の経営に負の影響を及ぼしていることを指摘。政府には都度、医療界への援助を要請した結果、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金における「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」が2回にわたり交付されたものの、新型コロナ対応で疲弊した医療界にとっては必ずしも十分であったとは言い切れないとの認識を示した。
また、公定価格で運営されている医療機関が物価高騰に対応した賃上げを実現するには、それに見合う原資が必要であるとし、政府に対しては、引き続き診療報酬の引き上げを求めていく意向を示した。
(2)では、医師の時間外労働の上限規制が2024年4月から導入されることにより、大学等からの医師派遣が減少することで、特に産科と救急における医療の質を維持することが困難になることを危惧。「医療は住民の暮らしを守るために欠かせないもの。医療の質の担保と維持のために我々も全力で対応していく」と述べるとともに、働き方改革に伴う医師の労働環境改善も重要であるとして、政府に繰り返しその対応を求めていく姿勢を明確にした。
(3)では、今年7月に発生した秋田県内の豪雨災害の直後、同県の被災医療機関の視察を行ったことを紹介。浸水により電気配線や医療機器が水没したことに触れ、「可能であれば医療機器を2階以上に設置したり、高所に配線を通すなどし、被害を小さくする工夫が必要である」と述べるとともに、ハザードマップの確認など、日頃からの備えが重要であることを強調した。
(5)では、地域に根差した医師の活動は共同利用施設と密接な関係にあることを指摘するとともに、その調整役を地域の医師会が担っていることを強調。「この役割は医師会の存在意義であるとも言える」とし、医師会が担っているさまざまな役割を知ってもらうために、「地域に根ざした医師会活動プロジェクト」を立ち上げ、今年度中にシンポジウムを2回実施する予定であることを紹介した。
(7)では、都道府県と協定を結ぶことで、医療機関の能力を超えて感染症に対応することを求められるものではなく、①病床確保②発熱外来の実施③自宅療養者等に対する医療の提供―など、新型インフルエンザ等感染症等の流行時に医療機関がそれぞれの能力に応じ、可能な範囲での対応が求められるものであることを概説した。
(8)では、日本医師会として、今後も医療DXの推進に協力していくとする一方、令和6年秋に健康保険証が廃止される予定であることについては、「医療機関や国民の不安の払拭(ふっしょく)が重要」との認識を示すとともに、資格確認書の発行など、政府に対しては必要な対応を取るよう求めていくとした。
(9)では、日本医師会員数が17万5000人を突破したことに触れ、都道府県及び郡市区等医師会の協力に感謝するとともに、日本医師会として、今後も入会促進に力を入れていく考えを示した。
続いて、大原正範函館市医師会長/全国医師会共同利用施設施設長検査健診管理者連絡協議会長が、令和4・5年度の同協議会の活動について報告。その後、三つの分科会に分かれてシンポジウムが行われた。
第一分科会
第一分科会(医師会病院関係)[座長:池田委員長]では、加藤裕治郎能代山本医師会病院長(秋田県)が「病院経営危機を乗り越える~かかりつけ医機能を支援しながら~」をテーマに、同病院が①地域医療支援病院及び在宅療養支援病院として認可を受けるなどして、外来診療及び訪問診療の強化②自宅での看取りに特化した終末期医療③土曜日限定の「土曜がんドック」の開設―などの手段を講じ、黒字運営を維持していることを紹介した。
佐藤敦彦赤磐医師会理事/赤磐医師会病院長(岡山県)は「当院におけるかかりつけ医機能支援に対するこれまでの取り組みと今後の課題について」をテーマに、開院当初からかかりつけ医と病院担当医による共同主治医制を採用していることの他、医療資源に乏しい岡山県北部地域への医師派遣や、在宅医療における積極的な連携・介入などについても紹介。今後の課題として、常勤医師の確保や、保健・介護・福祉との連携推進を挙げた。
杉田裕樹熊本市医師会熊本地域医療センター院長(熊本県)はセンターの紹介の後、「当院の今後のあるべき姿を考える~地域社会における役割を考えて~」をテーマに、超高齢化社会における地域の医療需要について概説。①地域の医療機関にとって紹介しやすい病院を目指す②地域社会の要望に応えて小児救急を維持する③高齢者のフレイル防止と社会復帰を目指す④働きやすい職場をつくるとともにAI、ICT、ロボットなどを活用することで労働力を確保する―等の目標の下、地域医療の維持に取り組んでいることを紹介した。
田實謙一郎川内市医師会立市民病院長(鹿児島県)は「地方における急性期中核病院の今後の在り方・連携について」をテーマに、新型コロナの拡大が、地域における病院の役割や医療機関間の分業のあり方を見直す契機となったことを紹介した他、地域内で薬剤師の確保を進めるため、待遇改善やキャリアパスの作成に努めていることなども報告した。
第二分科会
第二分科会(検査・健診センター関係)[座長:黒瀨日本医師会常任理事]では、萩原弘一大宮医師会メディカルセンター長(埼玉県)が、「大宮医師会メディカルセンターの沿革と次世代への使命」をテーマに、①情報提供②ITシステム化③データサービス④診療連携―等を軸とする「公共性」を強みに、行政と医師会の要望に速やかに応えるとともに、細やかなサービス提供に努めていることなどを紹介した。
土田敏博富山市医師会副会長(富山県)は「富山市医師会健康管理センターにおける、かかりつけ医との連携強化の取り組み」をテーマに、「医療機関連携室」を開設し、かかりつけ医との健診結果の共有の促進や、ホームページ上で精密検査実施医療機関の検索サービスの提供を行っていることを紹介した。
北川裕章名古屋医師協同組合名古屋臨床検査センター理事長(愛知県)は「検査センターとして地域医療に貢献できること―PHR(Personal Health Record)の活用―」をテーマに、臨床検査結果をデジタル形式で届けるサービスを展開していることを紹介。今後はいち早い情報提供を実現するとともに、高齢者も利用可能なアプリを開発し、日常的にバイタルデータを保存することで、健康に対する意識向上と健康寿命延伸に取り組んでいくとした。
田口利文都城市北諸県郡医師会長(宮崎県)は「次世代へ繋ぐ設立時の思い。温故知新」をテーマに、都城健康サービスセンターの設立経緯を紹介。設立の約2年前、武見太郎元日本医師会長が同地を訪れ、郡市区を始めとする地方の医師会の活動理念を説いたことに言及。同センターはその理念が具現化されたものであるとするとともに、現在、都城圏域において公共性の高い検査機能を担っていることを踏まえ、今後も地域医療に邁進(まいしん)していく意向を示した。
第三分科会
第三分科会(介護保険関連施設関係)[座長:本間副委員長]では、久保田公宜岩手県医師会常任理事が「岩手県医師会在宅医療支援センターにおけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組み」をテーマに、同センターを中心に、地域のケアマネジャーもしくはメディカルソーシャルワーカーが核となり、県内でACPの普及促進に努めていることを紹介。医師会で開発したACPツールを用いて、患者本人とその家族、最終的に医療者も含め患者の意思を共有し、今後もACPの啓発を進めていくとした。
小柳亮新潟県医師会理事/新潟県医師会在宅医療推進センター長は「医師会共同利用施設主体による在宅医療の推進について―新潟県医師会在宅医療推進センターの取り組み」をテーマに、同センターが新潟県及び各市町村行政と協働で在宅医療を推進していくための拠点として組織化されたことを紹介。医師不足が深刻な地域であるものの、県下どこでも同様の在宅医療が受けられるよう、「医師会共同利用施設もニーズに合わせて変容していく必要がある」と強調した。
山﨑政直奈良市医師会副会長/奈良市在宅医療・介護連携支援センター長は「奈良市在宅医療介護連携支援センターの歩みとこれから」をテーマに講演を行った。
同センターは2018年より奈良市の委託を受けて開設し、在宅医療・介護連携に関する相談支援、医療介護関係者の情報共有の支援に取り組んでいることの他、新型コロナ流行時には、電話担当医師と往診担当医師を輪番で配置し、自宅待機者へのフォローアップを実施したことなどを紹介。今後は、この体制を応用した看取りの支援体制を検討し、在宅医療の更なる拡充を目指すとした。
太田隆正岡山県医師会理事/新見医師会長は、「医師会立介護老人保健施設『くろかみ』と新見医師会の地域包括ケアシステムの取り組み」をテーマに、人口減少、少子高齢化、医療・介護施設不足や慢性的医師・看護師不足など、中山間地域共通の問題を抱える新見市の取り組みについて紹介。
「くろかみ」内に訪問看護ステーション・在宅介護支援センターを併設している他、休日診療所・新見医師会を同施設に移転し、医療・介護機能を集約させていることや、厚生労働省モデル事業「在宅医療連携拠点事業」を受託し、医療機関・介護施設及び新見市との間で事業を行っていることなどを紹介した。
第2日
2日目(10日)には、内田耕三郎岡山県医師会専務理事より、岡山県内の共同利用施設の紹介があった後、各分科会からの報告、黒瀨常任理事を座長とした全体討議が行われ、共通の課題として、医師を始めとする人員の確保と定着等が挙げられた。
最後に、角田副会長が、「医師会共同利用施設は医師会の核となるもの」と改めて強調した上で、「その存在意義と役割の重要性を次世代につなげるために有意義な総会になった」と総括。総会で共有された情報や成果をそれぞれの地域に持ち帰り、医師会共同利用施設の今後の発展や課題の解決に役立てて欲しいとした。
午後には施設見学も行われ、全日程が終了した。
なお、次回の総会は、群馬県医師会の担当で令和7年8月30、31の両日に開催される予定となっている。