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令和5年(2023年)5月5日(金) / 日医ニュース

医療現場における安全確保を目指して活発に協議

医療現場における安全確保を目指して活発に協議

医療現場における安全確保を目指して活発に協議

 医療従事者の安全確保に関する担当理事連絡協議会が3月17日、日本医師会館で対面とWEB会議の併用により開催された。

中央省庁との連携調整を図る―松本会長

 細川秀一常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで松本吉郎会長は、「医療は提供する側と患者との信頼関係の上に成り立つものだが、一度この信頼関係が崩れてしまうと、最悪の結末を迎えることにもなりかねない」と述べ、大阪府と埼玉県で起きた事件は、医療提供者に深い衝撃と悲しみをもたらしたとして、犠牲者に対し心からの弔意を示した。
 また、これらの事件を受けた日本医師会の取り組みとして、医療現場での暴力の被害をいかに無くすか、あるいは万一の場合に被害を最小限にとどめるにはどうしたらよいかなどを検討するため、2022年3月に「医療従事者の安全を確保するための対策検討委員会」を立ち上げたことを紹介。同年7月に意見の取りまとめを公表した他、11月には都道府県医師会長会議でもこの問題をテーマに議論を行ったとした。
 その上で、松本会長は、「これらの取り組みを通じて、全国の医師会及び会員の先生方が、診療現場での暴力や暴言を切実な問題として悩まれ、対応に苦慮されている深刻な実態が明らかとなってきた。地域によっては、地元の警察との連携あるいは民間企業が提供するサービスの利用によって効果的な対策が講じられているが、日本医師会としても地域での取り組みが円滑に進められるよう、中央省庁などと連携・調整を図っていきたい」と述べた。
 当日の議事は、(1)報告(①厚生労働省から②警察庁から)、(2)都道府県医師会における取り組み〔①「医療従事者の安全確保に関する都道府県医師会の取り組み状況に関する調査(令和5年3月)」の結果について(日本医師会)②広島県医師会③茨城県医師会④東京都医師会〕、(3)質疑応答・意見交換―であった。
 (1)①では、矢野好輝厚労省医政局総務課保健医療技術調整官と谷口倫子同局地域医療計画課外来・在宅医療対策室長が、医療現場における暴言・暴力等のハラスメント対策について厚労省の取り組みを報告。応招義務に関する基本的な考え方や医療従事者の勤務環境の改善に向けた施策等を説明するとともに、こうした問題に対し、日本医師会と意見交換しながら対応していく意向を示した。
 (1)②では、前田浩一郎警察庁生活安全局調査官(警視正)が、医療従事者の安全確保に関する現状と取り組みを報告。病院・診療所における医療・保健従事者被害に係る刑法犯認知件数や被害事例などを示し、警察として講演活動や広報、訓練を行っている他、警察と地域の医師会の相互協定の締結が行われている地域もあることを紹介した。
 前田調査官は、「今後も警察庁・都道府県警共に医師会と共同して、医療従事者の安全確保のための支援に努めていく」と述べ、引き続き医療機関での暴力等への対応を進めていく考えを示した。
 (2)では、まず、本協議会の開催に際して行ったアンケート「医療従事者の安全確保に関する都道府県医師会の取り組み状況に関する調査(令和5年3月)」の結果の概要について、細川常任理事が解説。「各種ハラスメント、クレーマーに関する研修会等の実施」「院内掲示用啓発ポスター等の作成・配布」「医療従事者からの相談にも対応できる窓口の設置」「警察との意見交換等の実施」「警察との協定書、覚書等の締結」等、7項目の結果を示すとともに、日本医師会に求める取り組みなど自由記載の項目についても紹介した。細川常任理事は寄せられた要望に対し、「できるだけ具体的に取り組みを進めていきたい」とした。

各医師会から取り組み事例を発表

 引き続き、広島県、茨城県、東京都の各医師会から、それぞれ具体的な取り組み事例の発表が行われた。
 三宅規之広島県医師会警察医担当常任理事は、設立から25年間活動を続けている「広島県医師会・広島県警察連絡協議会」や、警察、弁護士を交え議論を行っている「医療従事者の安全を守るための検討会」の活動の概要及び成果を紹介。
 これらの議論の結果を踏まえ令和4年6月28日に公表した、「医療従事者の安全(命)を守るための指針」の内容について、①日頃からの準備②クレーマーや、診療に支障を来す、大声を出したり威圧的な態度をとる人への対応③身の危険を感じたときの対応④事件性の可能性がないなどで、警察が動いてくれなかった時の対応―が書かれていることを説明し、特に、身の危険を感じた時には、身の安全を優先しつつ、躊躇(ちゅうちょ)せず110番することが一番早く対応してもらえると強調した。
 松﨑信夫茨城県医師会副会長は、まず、茨城県における医療機関へのクレーム対応に関する現状や県医師会への相談事例を紹介した上で、担当者レベルで解決策を提示できない事例が相当数あり、医療機関が対応に苦慮している実態を説明。「不幸な事例がいつ起きてもおかしくない状況が県内にもくすぶっている」と述べた。
 一方で、茨城県医師会では平成18年から、全国で唯一医師会が運営する医療ADRである「茨城県医療問題中立処理委員会」が運営されており、その中の「あっせん・調停会議」で事務局等の負担が軽減されているとした他、今後に向けた取り組みとして、同委員会の充実や警察・他団体との情報交換、研修会の実施の推進を挙げるとともに、事前、実際の現場、事後の対応に整理して場面ごとに適切な対応を取る必要があるとした。
 蓮沼剛東京都医師会理事は、医療従事者の安全確保に対する取り組みとして、「トウキョウ・メディカル・サポート(TMS)」を重点医療政策の一つとして運営していることを説明。TMSは「会員が安心して医療に集中できる環境の整備」を目的に、電話・メール相談や月刊情報誌の配布、相談員(警察OBなど)同席対応などを行っており、クリニックで警察OBを雇用するのは現実的でないことから、医師会として会員を取りまとめる形で一般企業と共同でスキームを組み、費用については、東京都医師会で包括的に負担しているとした。また、医師会事務局に着信する迷惑電話の転送にも対応していることを併せて紹介した。
 当日は、岐阜県医師会からも取り組みの紹介があり、西野好則常務理事が、医療安全確保への警察の支援について、現在、警察の協力の下で「専用の警察への相談窓口を各地域に設置」「110番非常通報装置の診療所への設置の認可」の取り組みが行われており、相談窓口については、警察署の電話番号だけでなく担当者等も決められていることなどを説明。「これらの取り組みは警察と医師会の相互の協力が必要になる」とした。
 (3)では、警察との協力体制を構築するための方策や、患者の責務の明示、特に女性医師・職員に対するストーカー行為などへの対応の必要性も指摘された他、SNSでの誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)に対応するには都道府県医師会では限界があるとの意見も出された。
 また、痛ましい事件のあった埼玉県医師会からは、事件後の対応や関係者のケアについての報告もあった。
 その他、日本医師会に対する要望としては、医療に対する国民の不信感を減らすための対応や、警察と医師会の連携の推進を求める意見があり、茂松茂人副会長が回答した。

地域医師会と警察との連携を要請―茂松副会長

 茂松副会長は、記者会見等で国民への情報発信に努めていくとするとともに、警察との連携について、日本医師会として大阪府や埼玉県の事件後に警察庁に申し入れをした結果、「連携が非常にうまくいっているところもある」と説明。日本医師会と警察庁とのやりとりだけでなく、地域の医師会での取り組みも併せて必要になるとの見方を示した。

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