令和4年度第2回都道府県医師会長会議が11月15日、WEB会議により開催された。 当日は「医療従事者の安全を確保するための対策について」をテーマとして、活発な討議が行われた。また、事前に寄せられた質問に対して、日本医師会執行部から回答を行った他、11月2日の記者会見で公表した日本医師会のかかりつけ医機能に関する考え方等について説明した。 |
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本会議は、都道府県医師会を6グループ(A~F)に分け、毎回一つのグループを中心にテーマに即した議論を行うとともに、都道府県医師会から事前に寄せられた同テーマに関連する質問に対し、日本医師会執行部が答弁するもので、今回が2回目の開催となる。
会議は釜萢敏常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、まず、長期にわたる新型コロナ対策への尽力に感謝の意を示した上で、改めて年末年始も含めた発熱外来の拡充や地域医師会による自宅療養体制の充実、病床確保、ワクチン接種について協力を要請。診療・検査医療機関でない場合でも、季節性インフルエンザの患者を対面でしっかりと診療するよう会員に働き掛けることも併せて依頼した。
当日のテーマについては、大阪府や埼玉県において患者及び医療従事者の安全・生命が脅かされる重大な事件が相次いで発生したことを受け、日本医師会内に「医療従事者の安全を確保するための対策検討委員会」を設置し、警察庁、厚生労働省などの関係機関と議論を重ね、本年7月に取りまとめを公表したことを報告(別記事参照)。
また、同委員会の中で「医療従事者に現実に危険が差し迫った状況下では、警察による緊急の対応が必須である」との意見が繰り返し出されたことを受け、日本医師会から警察庁長官に対し、各都道府県医師会と警察との間での緊密な関係構築の協力を求めた結果、直ちに警察庁から各都道府県警察に向けた周知文書が発出されたことに関連し、「都道府県医師会の先生方においては、警察との関係構築に向けて更なる協力をお願いしたい」と要請した。
松本会長は最後に、「医療とは医療従事者と患者の信頼関係の上に成り立つものである」と強調。医療従事者の安全・安心が確保された医療現場は、患者にとっても安全・安心な医療を受けられる基盤になるとして、関係者による、より一層の取り組みが必要とした。
Bグループによる討議及び全体討議
その後は森本紀彦島根県医師会長が進行役を務め、「医療従事者の安全を確保するための対策について」をテーマとしたBグループ所属の医師会(青森県、茨城県、神奈川県、長野県、京都府、島根県、愛媛県、大分県)による討議が行われた。
茨城県医師会は、医師会が取り組むべき重要事項として、「危機察知能力の醸成」「警察との連携構築」を挙げ、県医師会としても郡市医師会と地元警察署の関係構築を進めていることを説明。その他、医療従事者の安全を脅かすような事例がどの程度発生しているかについて、会員医療機関を対象に実施したアンケート結果を基に紹介した。
神奈川県医師会は、県警と数回にわたって意見交換を行うことで関係を密にし、医療機関が直接所轄の警察署に相談できる窓口のリストを県医師会、郡市区医師会、県警の3者で既に共有していることを明らかにした。
長野県医師会は、院内暴力の対策マニュアルの整備や警察との連携のための準備を進めていることを説明。この問題に対する医療機関ごとの意識の格差、温度差を埋めるためにも、日本医師会が医療機関の対応困難事例等の情報を収集し、開示・伝達するよう求めた。
愛媛県医師会は、普段から警察との良好な関係を築いておく重要性を強調した上で、医療従事者の安全を守っていく積極的な心構えとして、際限なく医療の質を高めるための研鑽(さん)及び、患者満足度を高めることを大きな目標とすることを提案。
大分県医師会は、「大分県医師会警察医部会」を設立し、警察との緊密な関係の構築に努めていることなどを報告。県医師会としても医療従事者の安全確保にも取り組んでいく姿勢を示した。
森本島根県医師会長は、各県の発言を受けて、治療方針によるトラブルのみならず、薬物や宗教等を起因とする事件等も起こり得ることを指摘した。
その後の全体討議では、愛媛県医師会が「DVや人工妊娠中絶など非常にデリケートな問題には特に注意して対応する必要がある」と意見を述べ、熊本県医師会は反社会的勢力による問題への対応として、警察OBを顧問に起用している事例を紹介した。
鹿児島県医師会は、さまざまな対策を行っていても、実際に暴力等の予兆をつかむことの難しさを強調。群馬県医師会は、特にスタッフが女性だけの医療機関の防犯対策に力を入れていることを紹介した。
道府県医師会からの質問に対する執行部の答弁
執行部に対する道府県医師会からの質問への回答に先立ち、松本会長がBグループによる討議及び全体討議を受けての発言を行った。
松本会長は、痛ましい事件が起こらないようにするための「予防策」としては、(1)医師会と警察との日頃からの連携体制、すなわち、情報共有と相談、そして万一の場合にすぐに駆けつけてもらえる体制をいかに構築していくか、(2)会員や医療従事者が、被害を受けないための知識・備えをいかに学んでもらうか、(3)防犯面で効果の高い資機材やサービスの導入費用をいかに調達するか、(4)患者、国民にも良識ある受診行動をいかに守ってもらうか―の4点が挙げられると説明。直接的な防犯対策だけでなく、医師・医療提供者が患者とより良い関係を構築していくための研鑽も必要になるとの見方を示した。
また、「医療従事者の安全を確保するための対策検討委員会」で取りまとめられた意見を土台に、それらを具体化していくための検討も進めていることを明らかにした。
引き続き、個別の質問に対しては担当の細川秀一常任理事から回答を行った。
北海道医師会は、危険察知・危険予知に関する具体的な判断基準の検討と、警察との連携の具体的な形について質問。細川常任理事は、医療従事者が一生懸命になればなるほど危険察知が難しくなるという指摘があることを紹介した上で、専門家や民間のセキュリティ関連事業者の助言も受けながら、「医療従事者の安全管理に関する都道府県医師会担当理事連絡協議会(以下、連絡協議会)」を開催し、その中で研修会のモデルとなるような講習も組み入れていく考えを示した。
警察との連携については、「日頃から顔の見える関係を構築しておくことが最も有効」と述べ、各地域の医師会と警察本部がそれぞれに協議の場を設置することを求めた。
栃木県医師会からの、警察との連携も含めた医療従事者の安全を確保するための具体的な対策の周知を求める要望には、連絡協議会の場で、取り組みが進んでいる都道府県医師会から具体的な取り組み内容を発表してもらう意向を示した他、本年4月に実施したアンケート結果における関連部分を紹介した。
大阪府医師会からの、「議員立法による医療従事者安全確保法の法制化の検討」の進捗状況と実現可能性を問う質問には、検討自体は行われているものの、実際にどういった内容を定めるのか、患者側に責務を課すのかなど、解決すべき課題が多岐にわたることなどを説明した。
広島県医師会は、今般のいくつかの事件は現行法では対応できないものであったとの見方を示した上で、法律改正に向けた国への働き掛けや、医療従事者の安全を確保するための国民に対する啓発を要望。細川常任理事は、対応策を考える際には、医療従事者の安全確保と国民のプライバシー保護を両立する必要もあることから、日本医師会参与の弁護士も交えて慎重に検討していく姿勢を示した。
国民に対する啓発については、患者の権利などが強調されがちな風潮の中、患者・国民に一定の節度を守って受診してもらうための方法を、いかに反発を招かずに周知するかも含めて検討していくことが重要とした。
山口県医師会は、応招義務に関連し、患者の迷惑行為がある場合などは診療を拒否できることを、医療従事者ばかりでなく国民にも周知するよう厚労省に求めることを要望。細川常任理事は、「信頼関係に基づく医療を行っていくためには、医療提供者と患者の双方がそれぞれの義務、責務を果たすことが前提」と述べた上で、これまで患者の責務についてはあまり意識されてこなかったと指摘。医療者側からの訴えだけでは限界があることから、厚労省等の公的・第三者的な機関からの呼び掛けも必要になるとした。
愛媛県医師会は、医療従事者自身の自己改革と意識の底上げを図り、傷害事件そのものが起きにくい医療環境に変えていくことを目的とした、具体的なアクションを考えていくべきと指摘。細川常任理事は、医療提供者と患者相互の信頼関係の構築のために、それぞれの立場においてなすべきことを見直していくことは大変重要であるとした上で、双方の意識に訴えかける活動を防犯対策と並行して行っていく意向を示した。
長崎県医師会は、警察だけでなく弁護士の協力なども得ながら医療従事者の安全確保を進めているとした上で、日本医師会として、患者の暴言・暴力などの迷惑行為への対策事例を紹介する動画等を作成することを要望。細川常任理事は、県医師会と県警が連名で作成したポスターなどが持つ効果は高いとした上で、ビデオ教材などの教育・啓発教材の開発に日本医師会として取り組む必要があるとの認識を示すとともに、厚労省で作成した既存の教材も併せて紹介した。
鹿児島県医師会は、①警察が介入「できない」事例について、その理由及び、対応してもらうためにはどのような準備が必要か②応招義務における「患者と医療機関・医師の信頼関係」が破綻しているケースの具体例―を質問。細川常任理事は、①について、警察庁が積極的な対応を指導している一方、現実には警察が動かない場面も散見されると説明。日本医師会として、どのような証拠があれば警察が動きやすいかなどを情報収集し、全国に共有していくとした。
②については、「診療内容そのものと直接関係ないクレーム等を繰り返し続ける等」とされているものの、説明として不十分であることから、連絡協議会で厚労省の担当者に分かりやすく説明してもらう予定であるとした他、厚生労働科学研究研究班の報告書でも具体例に触れられていることを紹介した。
沖縄県医師会は、医療機関側が診察中の音声を録音しておく必要性を指摘するとともに、防犯カメラを普及させるための費用補助などを要請した。細川常任理事は、防犯カメラによる録画や録音は事件発生時の証拠記録となり、暴言等への抑止力にもなるとする一方で、患者のプライバシーへの配慮も必要になると説明。必要な機材等の導入費用については、国に申し入れていくとした。
その後、全体では、クレームや暴力・暴言、各種ハラスメント等への現状の対応体制について、多くの都道府県医師会による活発な情報交換が行われ、茂松茂人副会長は、今般問題となっているインターネットやSNSでの誹謗(ひぼう)中傷について、日本医師会内でその対応を協議中であるとした。
また、警察だけでなく裁判所との連携も有効との指摘があった他、危険を感じたら早急に避難して警察に連絡することの徹底を求める意見が出された。
関連して、松本会長は応招義務への対応について言及。細川常任理事の説明を踏まえ、どのような状況でも診療を拒否できないなどの誤った解釈によって、医療従事者の命が危険に晒されることのないよう注意を促した。
更に、現在できる現実的な対応として警察OBの活用も論点となり、直接雇用する場合や警察OBからなる支援組織に依頼する場合など、医療機関の規模によってさまざまな対応が考えられるとされた。
その他、トラブルの性質について、予測可能な場合と不可能な場合で全く対応が異なるとして、対応策を二つに分けて検討していく必要があるとの指摘も出された。
「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」の内容を報告 他
報告では釜萢常任理事が、11月2日の記者会見で公表した「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」の内容を概説した(別記事参照)。
その他、今般報道されている看護学校における教育体制の問題について触れ、都道府県医師会からも注意喚起をするよう依頼するとともに、日本医師会内でも検討を行っていくとした。
総括した松本会長は、改めて医療従事者が現場で危険を察知した場合には避難することの重要性を強調。また、釜萢常任理事の報告に関連し、かかりつけ医のあり方についての議論においては、これまでと同様に患者のフリーアクセスが損なわれることがないよう、強く主張していく意向を示した。