令和4年度 第53回全国学校保健・学校医大会(日本医師会主催、岩手県医師会担当)が11月12日、「子どもたちの『生きる力』を育む」をメインテーマとして、盛岡市内及びWEB配信によるハイブリッド形式で開催された。
午前には、「からだ・こころ(1)」「からだ・こころ(2)」「からだ・こころ(3)」「耳鼻咽喉科」「眼科」の五つの分科会が行われ、各会場で研究発表並びに活発な討議がなされた。
学校保健活動に対する長年の貢献を顕彰
午後からは、まず、開会式と表彰式が行われた。
開会式のあいさつで松本吉郎会長は、長期にわたる全国各地での新型コロナウイルスの感染拡大防止への尽力に対して謝意を示した上で、「コロナ禍によって、児童生徒達には体格への影響やいじめ・不登校・自殺等の問題など、多くの複雑な問題や課題が生まれているが、子ども達には困難を乗り切る『生きる力』を育んでいってもらいたい」とし、参加者に対して、その実現に向けた学校現場における引き続きの協力を求めた。
表彰式では、長年にわたり学校保健の向上に貢献した東北ブロックの学校医(6名)、養護教諭(6名)、学校関係栄養士(6名)に対し、松本会長が表彰状と副賞を、本間博岩手県医師会長が記念品を、それぞれ贈呈。受賞者を代表して森田友明氏(学校医)から、今回の受賞に対する感謝と子ども達が安心して成長していくことのできる環境の実現に向けて、学校保健事業の発展のために全力を尽くしていく旨の謝辞が述べられた。
次期開催県からのあいさつでは、開会式と表彰式の前に開催された都道府県医師会連絡会議で、次期開催県に決定した兵庫県医師会の八田昌樹会長から、令和5年10月28日(土)に神戸市内で次回大会を開催予定である旨の説明が行われた。
その他、祝辞では、永岡桂子文部科学大臣(松崎美枝文科省初等中等教育局健康教育・食育課健康教育調査官代読)、達増拓也岩手県知事、谷藤裕明盛岡市長、中川俊男日本学校保健会長(弓倉整同専務理事代読)、佐藤博岩手県教育委員会教育長からお祝いのメッセージが寄せられた。
特別講演
「幼児期・学童期における認知的力と非認知的力の意義」と題して特別講演を行った無藤隆白梅学園大学名誉教授は、幼児教育において遊びは重要な学びの場であるとした上で、「認知能力(知識・技能など知的な力)」と「非認知能力(感情・行動など学びに向かう力)」は、さまざまな遊びや日常生活を通して相互に関連しながら発達していくこと、また、「非認知能力」は幼児期から学童期に顕著に発達することなどを、砂遊びなどの例を基に概説。また、他者と上手に付き合い、自分の感情をコントロールしながら目標を達成するスキル(実行機能)が重要であること、小学校高学年から中学生にかけて、非認知スキルとメタ認知スキル(自分の理解を吟味する等のスキル)が結びついていくことなどについても説明し、幼児期・学童期に「認知能力」と「非認知能力」を身に付ける意義を強調した。
シンポジウム
引き続き、「子どもたちの『生きる力』を育む」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
まず、木下勝之日本産婦人科医会前会長は、子どもの心身の発達に必要な構成要素の一つにレジリエンス(反発力)を挙げ、「自然災害等の困難や試練等の逆境を乗り越えるためにもレジリエンスを育むことが肝要になる」と指摘。レジリエンスを育む条件については、子どもの心を献身的に支える親や祖父母、第三者の養育者などの大人の存在に対して、健康な甘えができることが必須になるとした。
また、脳重量の変化や脳のシナプス形成の時間差、実行機能の年齢を比較した結果を基に、健全な強い脳の構造を形成するためには、育児の際に親と子が応答し合える間柄にあり、子どもに生活上の前向きな経験があるかが強く関係しているとした。
更に、今後の課題については、「できるだけ早い段階で思いやりのある大人と協力的で献身的な関係を構築し、レジリエンスをどのように身に付けさせるか」「逆境の中で育っている子ども達をいかに救っていくか」が挙げられるとし、その解決策としては、「身近な大人が子どもの安全基地となって、甘えを受け止めてあげるといった愛着形成が不可欠であり、健康で素直な甘えを身に付けさせることが大切になる」と主張した。
千田恵美岩手県医師会子どもたちの「生きる力」を育む検討委員会委員は、岩手県医師会が行っている子どもの育ちに関する支援について報告するとともに、子ども達に必要なのは「非認知能力」やレジリエンスであると説明。
また、マシュマロ・テストやダニーディン縦断研究の結果を基にして、発達格差を埋める働き掛けを社会で行っていく重要性について言及した他、「現代は、ネグレクトや引きこもりなど、全世代が人と人とのつながりが希薄になり、孤独を感じる時代にあるため、『つながり』が大事になる」として、コミュニケーション能力を身に付ける必要性についても強調した。
更に、千田委員は、「子ども達が生涯を通じて心身の健康を保ち、幸福になるためには、『非認知能力』の理解と実践が重要である」とするとともに、「非認知能力」の育成のポイントとして、①正しい生活習慣②読書③アート・運動④健康的な食生活―を挙げ、それぞれについて、必要なアドバイスを述べた。
その他、「非認知能力」は人から教えられるものであり、養育者だけでなく、関わりのあるあらゆる人とアタッチメントを形成すること、子どもの安全基地は社会全体でつくること、赤ちゃんが生まれる前から養育者に「非認知能力」について知ってもらい、子どもにもきちんと「非認知能力」について説明をすること等の必要性を主張。岩手県医師会としても、引き続き、子ども達が「非認知能力」を伸ばしていくことができるようなサポートや生きる力を育む活動を継続していきたいとした。
その後は、演者、シンポジスト、参加者との間で活発な質疑応答が行われ、大会は終了となった。