令和4年(2022年)2月5日(土) / 日医ニュース
「オンライン診療」「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制」をテーマに活発な討議
令和3年度第3回都道府県医師会長会議
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今年度3回目となる都道府県医師会長会議が1月18日、WEB会議により開催された。 当日は、「オンライン診療」「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制」の二つをテーマとして、活発な討議が行われた。 |
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会議は松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした中川俊男会長は、オミクロン株の感染状況について、「残念ながら、全国的に『第6波』に突入したと言わざるを得ない状況となってしまった」と指摘。今後、想像を超える急激な感染拡大が起きた場合、医療機関が対応しきれなくなる可能性が再び高まっており、スピード感をもった対応が求められるとした。
また、3回目のワクチンを早期に接種するためには、地域の医療機関での接種が大きな推進力となるとして、引き続きの協力を求めた。
また、オンライン診療については、「解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に対面診療を補完するものであり、かつ、安全性と信頼性をベースに医師が日頃から対面診療を重ね、信頼関係を築いている患者に対して行われることが大前提である」との日本医師会の考えに変わりはないと強調。「今後もオンライン診療が国民・患者、医療機関にとって適切に行われるよう、しっかりと主張するとともに、本日の会議でのご提言等を参考にしながら、地域の実情に則した取り組みを推進していきたい」と述べた。
Cグループ 「オンライン診療について」
議長 菊岡正和神奈川県医師会長
副議長 村上博愛媛県医師会長
初診からのオンライン診療
まず、「初診からのオンライン診療」について、患者を「全く受診歴なし」「他院の受診歴あり」「自院の(別症状での)受診歴あり」の3類型に分類した上で意見交換が行われた。
その中では、「初診からのオンライン診療の実施を認めることはハイリスク」「患者本人の多忙を理由としたオンライン診療の利用は認めるべきではない」「どのような症状であればオンライン診療の適用にできるか等、しっかりとしたルールづくりが必要」等の意見が述べられた。
一方、「事前に十分な情報があれば、オンライン診療は可能」「医療の質が担保される範囲で医師の判断による初診からのオンライン診療を認めても良いのではないか」等といった意見もあった。
オンライン診療導入に関する課題
「オンライン診療導入に関する課題」に関しては、岩手県医師会が、広大な県土を有しながらも医療資源に乏しく、大学病院から地域に多数の医師が派遣されている県独自の状況を鑑み、医師の働き方改革を進める意味でも、どのようにオンライン診療を推進していくか検討中であることを報告した。
茨城県医師会は、「対面診療の重要性は今後も変わらないが、コロナ禍において、日本のデジタル化は諸外国に比べ、周回遅れとなっていることが明らかになった」との認識を示した上で、オンライン診療において日本より先行している国々のうち、ドイツとフランスの現状等をそれぞれ報告。オンライン診療で過剰な営利化を追求する医療機関が現れる等の課題があるとし、診療数に占めるオンライン診療の割合に上限を設ける等のルールの必要性を指摘するとともに、日本医師会から国に対しての働き掛けを要望した。
埼玉県医師会は、診療方法は医師の裁量により決定されるのが原則とする一方、「オンライン診療の実施も医師の判断任せで良いのか」と疑義を呈し、指針のようなルールづくりと、日本医師会の役割の重要性を指摘した。
長野県医師会は、初診からのオンライン診療はハイリスクであるとするとともに、問診・視診だけでは十分な情報を得られないことを国民に周知していく重要性を強調した。
岐阜県医師会は、令和2年度より県内で、医療機関に対するオンライン診療に係る機器整備補助事業が始まったことを紹介。同事業により、県内のオンライン診療届け出医療機関数は約1年で21から175に増加したものの、実施状況調査の結果によると、(1)回答のあった89の医療機関のうち、実際にオンライン診療を実施している医療機関は28%(25医療機関)にとどまる、(2)実施した患者数は5名以下が71%、10~20名が17%であった、(3)オンライン診療を未実施の理由としては、「オンライン診療の適切な実施に該当する患者がいない」との意見が最も多かった―ことなどを説明した。
京都府医師会は、「通信技術の発達により、オンライン診療が対面に劣ると言い切れない時代が来ている」との認識を示した上で、「医療過疎地での活用や都市部での適切な医療の継続には有用」とした。その一方で、医療の質の担保は医師の責任であり、そのために対面診療の実施は必須であるとするとともに、営利目的でオンライン診療を行う医師が現れる危険性を指摘。「オンライン診療が新しい手段として定着していく過程にある今こそ、医の倫理を問い直すべきである」と主張した。
鳥取県医師会は、オンライン診療は対面の補完であることを原則としつつ、医師との信頼関係が確立し、病状の維持期においてはオンライン診療の範囲の拡大は可能との認識を示した。その上で、今後はオンライン診療に適した治療技法や、多職種連携の下での患者のサポートを可能とするシステム開発が重要になると指摘した。
岡山県医師会は、島しょ部においてオンライン診療を実施しており、触診ができないという欠点はあるものの、現地までの往復時間を省けるなどのメリットがあると説明。また、機器の使い方や薬剤処方後のフォローアップ等の問題とともに、「実施環境の整備費用が課題である」との認識を示す一方、へき地におけるオンライン診療拡大への期待感を示した。
熊本県医師会は、医療におけるICTの導入やデジタル化は不可欠とした上で、オンライン診療が拡大していく過程において最も重要なのは質の担保との認識を示し、「学会等でガイドラインを作成し、オンライン診療の適用範囲を明確にすることなどによって、質の担保に努めていかなければならない」と述べた。
その後の全体討議では、日本医師会に対して、国民に向けたオンライン診療に関する情報発信及び、過度な営利化の追求を予防する仕組みづくりに向けた要望が出された他、山間部や島しょ部におけるオンライン診療推進と、利便性を念頭に置いた都市部におけるオンライン診療推進とではまったく意味合いが異なるとの指摘があった。
その他、「オンライン診療が推進されたとしても、対面診療でしか得られない情報の重要性が損なわれるものではない」とする意見や、本来、厚生労働省で行われるべきオンライン診療の議論が、規制改革の分野でも進められていることへの違和感に関する意見もあった。
最後にコメントした松本常任理事は、「改めてこの問題は高度なバランス感覚が必要であると実感した」と述べ、従来からの日本医師会の考え方を前提とした上で、患者の身近なかかりつけ医によって確保される「安全性と信頼性」がベースとなることの重要性を改めて強調。また、医療の質や安全性の担保、実施割合、距離要件、診療報酬の点数設定、システム構築とその費用負担等、解決すべき課題が多数あるとの認識を示した。
その一方で、かかりつけ医が頑なにオンライン診療を敬遠することで、①営利目的の事業者やオンライン診療専門医療機関がこの分野を席巻(せっけん)してしまう②地域医療の崩壊を招く―等の危険があることを指摘するとともに、利便性に偏重してオンライン診療を推進することに警鐘を鳴らした。
また、「かかりつけ医が必要と感じた時は、安全かつコストや労力を掛けずにオンライン診療を実施できる環境を整えておくことが必要」と述べ、日本医師会として、「オンライン診療の適切な、ふさわしい医師による実施を推進するためにも、引き続き課題解決に向けて検討していく」との意向を示した。
Dグループ 「新型コロナウイルス感染症に対する今後の医療提供体制について」
議長 安里哲好沖縄県医師会長
副議長 佐藤武寿福島県医師会長
自宅療養への対応
山梨県医師会は、全ての患者に対して、重点医療機関への入院あるいは宿泊療養施設への入所を原則としてきたが、オミクロン株の急速な感染拡大を受け、自宅療養を活用するよう方針転換すべく、「退所後ケア」制度を導入したことを説明。自宅療養には家庭内感染のリスクや保健所との連携の課題があるとして、アドバイスを求めた。
これに対して東京都医師会は、保健所に連絡すると同時に、診断した医師が健康観察を続ける仕組みで取り組んでいることを紹介。軽症例はオンラインや電話で診察し、中等症は地区医師会より往診する他、在宅専門の医療機関等の協力も得て、24時間見守る体制を構築しているとした。
徳島県医師会は、検査医療機関や宿泊療養施設の運営協力に加え、サポート医師の自宅療養支援や後方支援病院の確保も医師会が主体となって行い、県の入院調整本部には県医師会の役員が参加していることを報告。現時点では感染者が少なく重症者もいない状態ではあるが、無症状の感染者は自宅療養とする方針で、サポート医師が電話応対や訪問診療を行うとした。
コーディネート体制
三重県医師会は、自宅療養中に3名が亡くなったり、軽症者が宿泊療養であるのに中等症者が自宅療養となっていた事例もあった第5波の反省から、ファーストコンタクトの改善に取り組み、全ての入院調整機能を県の医療調整本部に一元化して、確保病床数、病床稼働率、入院患者数等を、新型コロナウイルス感染症患者等受入医療機関・保健所・消防本部・医師会・医療コーディネーター等の関係機関と毎日情報共有する体制としたことを説明。
滋賀県医師会は、コーディネーターが県内の入院を一元的に調整しているとし、キャパシティーに応じたコーディネーションの重要性を強調した。
オミクロン株への対応
香川県医師会は、オミクロン株について、感染力が強い反面、病原性が低く、インフルエンザ並みと言われていることを挙げ、感染症法による分類を見直すことを含め、全医療機関で対応できるようにすることを提案。軽症者は自宅療養、中等症以上を入院対象とし、行政や保健所は濃厚接触者の調査は行わず、自宅療養者への連絡のみにすべきと強調した。
長崎県医師会は、1月14日に会員向けに「新型コロナウイルス緊急警報」を発出し、高齢者や基礎疾患のある患者を守るため、(1)新型コロナワクチン3回目接種の前倒し、(2)新規感染者の早期発見・早期治療、(3)診療検査医療機関への協力、(4)宿泊療養オンコール医師、自宅療養サポート医制度への協力―などを進めているとし、かかりつけ医を主体に取り組んでいく姿勢を示した。
沖縄県医師会は、昨年12月24日頃のオミクロン株感染者は1日10名程度であったものが、その後の3週間で17000人強と、第3波のピークの2・3倍に急増したことを報告。感染力が強い反面、40歳未満はおおむね軽症もしくは無症状であるとし、入院患者が多くて医療提供体制が逼迫(ひっぱく)した第5波と違い、第6波では医療従事者の感染や濃厚接触による欠勤が多く、救急外来や一般外来、手術に制限が生じているとした。
その上で、ファイザー社製の内服薬を早期に導入し、診療所で容易に使用できるよう、政府への働き掛けを日本医師会に求めた。
今後の医療提供体制のあり方
東京都医師会は、今後の医療提供体制について、新型コロナウイルス感染症が収束した後も、国レベルで対応できるアメリカの疾病対策予防センター(CDC)のような専門組織が必要と指摘。また、パンデミックが起きた際に、通常医療を維持しながらの対応には無理があるとして、病院船の陸上版のような、平時は空床の医療施設を設け、職員のシミュレーショントレーニングに活用することを提案した。
山梨県医師会は、オミクロン株による感染や濃厚接触により医療従事者の欠勤が相次いでいることに触れ、新型コロナに限らず、今後もこのような事態を想定して、通常医療の確保を医療提供体制に位置付ける必要性を強調した。
検査費用に関する要望
検査費用に関して、徳島県医師会は、地方では規模が小さく、多くの医療機関は県外の大手検査会社に依頼しているため、700点に点数が引き下げられてしまっては逆ザヤが生じるとの懸念を示し、4月1日からの保険点数について国と交渉するよう要望した。
香川県医師会は、PCR検査やワクチン接種を数多く行ってきた医療機関とそうでない医療機関とで収入格差が大きくなっているとして、早期に以前の医療提供体制に戻し、長期処方を余儀なくされた医療機関に配慮した保険点数に改正して欲しいとした。
鹿児島県医師会は、PCR等検査無料化事業によって医療機関にも希望者が殺到してしまい、さまざまな問題が生じているとして、見直しを要請。また、医療機関における濃厚接触者への検査の費用負担への配慮を求めた。
その後の全体討議では、コーディネートのあり方について活発な質疑が行われ、沖縄・福井・岡山の各県医師会からDMAT等を中心とした一元的な管理の好事例が紹介された。
議論を踏まえ、釜萢敏常任理事は、「オミクロン株は、新たな感染症と言えるくらいの大きな変化がある」と強調。そもそも感染症法の1類から5類のどれにも当てはまるものではないとして、検査や治療について公費での負担が行える形としつつ、保健所による濃厚接触者の調査ができなくなった場合の感染者の把握方法について検討するなど、オミクロン株に合った対策が必要であるとした。
松本常任理事は、検査費用の逆ザヤの問題に触れ、「現在、7都府県医師会の協力を得て調査中であり、厚労省としっかり協議していくので、もうしばらくお待ち頂きたい」として、理解を求めた。
総括を行った中川会長は、一部の勢力からオンライン診療を全面的に解禁すべきとの意見が継続的に出されていることに関して、岸田文雄内閣総理大臣もやみくもにオンライン診療を拡大すべきとは言っていないと説明。引き続き中医協や厚労省の審議会での議論を通じて、地域医療への悪影響を少しでも小さくしていく考えを示した。
また、新型コロナウイルス感染症については、コロナ医療とコロナ以外の通常医療を維持していくべきとの従来の考えに変わりはないとした上で、医療計画の6事業目に「新興感染症等対策事業」を加えるために必要な施策の前倒しの議論を求めた。
加えてオミクロン株については重症者が少ないとは言え、楽観はできないとの認識を示し、「収束に向けて引き続きの協力をお願いしたい」と述べた。
なお、当日は羽生田俊・自見はなこ両参議院議員が出席し、あいさつをした。