閉じる

令和3年(2021年)11月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

「温故知新」とは言いますが......

 昔からなぜか古いモノを好む傾向にありました。学生時代は東洋医学に興味があり漢方研究会に所属し、最近では15年以上ハマっているのが万年筆「収集」です。東洋医学は堂々と"温故知新"と言えるでしょうが、こちらは偉そうなことは言えないですが少し語りたいと思います。
 出会いは30歳の時、スタッフから「転勤の餞別(せんべつ)は何が良い?」と聞かれ「仕事に使える(当時は紙カルテ)万年筆」と返答したのが底無し沼の一歩目でした。ある日、百貨店の万年筆コーナーに「ペンドクター」なる方が来られていて、「調整」されたペンの書き味にすっかり溺れ、その時に「もっと書き味が上げられるペンがあるよ」とささやいたのは店員だったか「ペン毒ター」だったかは記憶が定かではありません。
 それからは中古万年筆屋(悪魔の館と呼ばれる店も......)のある銀座を聖地として上京の際は新幹線をずらしてでも巡礼し、自宅では日々オークションを眺めてはニヤニヤしています。最近は木製軸や蒔絵万年筆などテーマを絞って整理し、公称70本で推移しています。
 家人には「書く手は1本」と常々言われていますし、自他ともに認める悪筆で筆不精。ですから趣味は万年筆「収集」と答えています。ただ書き味に対する欲望には素直で、インク掠(かす)れ無く書き出せた時にはなぜか説明も流暢(りゅうちょう)になり、優しい気持ちが2割増くらいになっているらしいです。
 今やカルテの電子化など、手書きの機会の減少と共に文字を忘れていっている気がします。打ち出したデータでも手書きでコメントを書き込むことで患者さんも喜ばれます。「若いのに万年筆を使っているんですね」と言われる歳は過ぎていますが、使っているペンに興味を持たれて新しい御縁が生まれたこともあります。サインだけでも万年筆だったりすると、つい頬が緩み、手書きのコメントに喜ぶ患者さんの気持ちが分かる気がします。
 最近の心配としては「インク沼」と言う言葉があり、インクをブレンドして自分好みの色を手紙などに使うという新しい趣味のジャンルが確立されていることです。インクブレンダーなる方もいます。単価が万年筆よりも安くとっつきやすい......。書く手は1本だがハマることができる足は2本......ああ、確かに「沼」ですね......。

(一部省略)

石川県 金沢市医師会だより 第577号より

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる