令和3年度学校保健講習会を4月11日、WEB会議で開催し、約600名が聴講した。
本講習会は、学校医を始めとする医師が学校保健に従事する上で、必要な最近の学校健康教育行政事情や重要課題に係る知識を修得してもらうことを目的として、例年3月に開催しているものである。令和2年度には開催ができなかったため、今年度は年度開始早々に行われることになった。
講習会は、渡辺弘司常任理事の司会により開会。冒頭あいさつした中川俊男会長は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化することによって、子ども達に「運動不足による体力・運動能力の低下」「さまざまな我慢を強いられること」などが起きているとして、懸念を表明。参加者に対して、子ども達の心身に起こっている変調をできる限り見逃さないことに加え、子ども達の心に寄り添い続けるよう求めた。
引き続きあいさつした横倉義武日本学校保健会長は、新型コロナウイルスの感染拡大により、子ども達が大きな影響を受けていると指摘。「その解決のためにも、学校と医師会を中心とした三師会が連携して対応していくことが重要であり、引き続きの協力をお願いしたい」と述べた。
中央情勢報告
その後は、松村誠学校保健委員会委員長/広島県医師会長を座長として、まず、小林沙織文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課学校保健対策専門官から中央情勢報告が行われた。
小林専門官は、文科省が新型コロナウイルス感染症対策として『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル』や差別・偏見の防止を目的とした動画等を作成したことを紹介。その活用を求めた。
その他、小林専門官からは、(1)学校健康診断情報の電子化を推進しており、令和3年度においては一部の自治体を対象に校務支援システムに入力された健康診断データを、本人に電子的に提供する実証実験を行う予定である、(2)児童生徒の視力低下の原因解明に向けて、大規模調査を今年度実施予定である―ことなども紹介された。
具体的な事例等について七つの講演
続いて、七つの講演が行われた。
横嶋剛国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官は、平成28年12月に取りまとめられた中央教育審議会の答申を踏まえて改訂された学習指導要領の内容を概説。具体的には、「がん」「心の健康・精神疾患」「心肺蘇生法などの応急手当」に関する内容の充実が図られているとした。
また、改訂された学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」を重視するという視点から指導の工夫が求められているとして、学校医の協力を要請。「外部講師として、学校医が学校教育に携わる場合には、学校側と事前に共通理解を深めておくことをお願いしたい」と述べた。
花木啓一鳥取大学医学部保健学科教授は、日本学校保健会が平成4年度から隔年で実施している「児童生徒の健康状態サーベイランス事業」の結果を基に、生活習慣と視力低下の関係性などについて解説。コロナ禍の影響が長引くことで不健全な小児の生活習慣が固定化することに懸念を示し、子ども達の些細(ささい)な変化を本サーベイランス事業で捉えていくことが大事になるとした。
また、今後は、「普通の生活習慣では、一定数の小児(成人)は肥満・肥満症を発症してしまうという認識の醸成」「健康的な生活習慣とは何かを社会全体で考え直すこと」が必要になると指摘した。
小曽根基裕久留米大学医学部神経精神医学講座教授は、「高校生では半数が0時以降に就床している」「年齢が高くなるにつれ睡眠時間が減少し夜型化する」といった実態があるが、その状況が問題化しづらい状況にあることを危惧。「睡眠の重要さを知ってもらうためには、本人にその効果を実感させるだけでなく、家族も巻き込む必要がある」と述べた。
更に、睡眠障害の診断に当たっては、「発達障害と似た症状があるため、間違いやすい」「抗えない強い眠気に襲われる『ナルコレプシー』という病もあること」などに注意すべきとした。
長谷川浩司新潟県見附市教育委員会前教育長は″健幸(個人が健康、かつ生きがいを持ち、安全安心に豊かな生活を営むことができること)"をまちづくりの基本としている見附市で行われている医療界と教育界の連携として、(1)喫煙防止、(2)小児生活習慣病予防の取り組み―を紹介。
(1)では、全国と比べて見附市の喫煙率は低くなっている、(2)では、見附市の血圧健診の結果が、日本高血圧学会において、小児の血圧管理用の高血圧基準に採用される―などの効果が見られているとした。
大隈良成大隅レディースクリニック院長は、佐賀県が平成18年に10代の人工妊娠中絶率が全国ワースト1位になったことをきっかけとして、平成21年より県医師会と県教育庁が協力し、学校医が中心となって、県内の中学、高校全校で性教育を行っていることを、実際に使用しているスライドを用いながら説明。「その効果もあり、佐賀県の中絶率は徐々に改善してきている」と述べるとともに、医師会が中心となり、学校保健の一つとして、性教育に取り組む意義を強調した。
大山碩也高崎市学校保健会長は、まず、「歴代の医師会長を中心に熱心に学校保健活動に取り組んできた」「学校保健活動に対する熱意が組織に浸透している」「活動への熱意を維持し、高めるよう努力している」など、群馬県高崎市の学校保健活動の特徴を説明。
その上で令和元年度の主な事業を報告し、学校医の学校保健委員会への出席率を高めること、子ども達の100年人生を見据えた活動を実施することなどが今後の課題であるとした。
白井和美沖縄県医師会理事は、沖縄県医師会が中心となって小中学生向けの副読本3冊(食育、生活習慣、こころの健康)並びに教員用テキストを作成し、対象者に無償で配布していることを報告。この事業を開始した背景には、沖縄県の平均寿命の低下や全国に比べて肥満者の割合が多いことなどがあったとするとともに、「今後はこころの健康をテーマとした副読本の利用促進を図りながら、資料の刷新を図っていきたい」と述べた(冊子のデータは沖縄県庁のホームページに掲載)。
最後に渡辺常任理事が「本日の成果をぜひ地域医療や学校現場で役立てて欲しい」とあいさつし、講習会は終了となった。
なお、当日の映像は、後日に日本医師会ホームページのメンバーズルームに掲載予定となっている。