閉じる

令和3年(2021年)2月20日(土) / 南から北から / 日医ニュース

禍(わざわい)転じて福となす

 新型コロナウイルス感染症が長期にわたり蔓延(まんえん)し、世の中の多くの人が逆風にさらされていることかと思います。しかしながら、禍が降りかかっても発想や気持ちを転換することで物事が好転することや、逆風にさらされたからこそ見つかる福があるかも知れません。最近、私は幸運にも息子のおかげでささやかではありますが、福を見つけ出すことができました。
 コロナ流行前には、家族でよく各地の「お城めぐり」を兼ね、旅行に出掛けていました。お城の鑑賞ポイントは無限にあるようですが、私と息子は特に石垣の魅力にはまりました。石の積み方、積石の加工精度や表面の仕上げ、加工の際のノミの跡、石垣の勾配など非常に奥深いものがあります。
 2020年2月末頃より私達はさまざまな生活スタイルの変更を余儀なくされ始めました。県をまたいだ移動が芳しくなくなったため、「全国お城めぐり」は当然中断となりましたが、ある時、息子から良い提案がありました。車で行ける県内の「城跡めぐり」をしようというのです。調べてみると意外にも県内には300カ所以上の城跡があります。その多くは石碑が一つある程度の竹やぶや森の中で、戦国時代以前のいわゆる古城跡地であり、大好きな石垣が残っていることなどほとんどありません。
 先日、菊池のとある城跡に行った時のことです。スマホの地図アプリを頼りに城跡を探すのですが、民家の敷地内に入ってしまうため、どうしてもたどり着けませんでした。たまたま家の人がいたので聞いてみたところ、庭に入れて案内してくださって、「暑かったでしょう」と冷たいジュースを頂きました。そういった出会いも「城跡めぐり」の醍醐味(だいごみ)なのかと思いました。ちなみにその近くには出田城跡地というものがありますが、残念ながら私とは何の関係もないようでした。
 道なき道を進みたどり着いた、ほぼ何もないような古城跡地で、息子は空堀や土塁(どるい)の遺構を見て、在りし日の城とその時代の人々の生活を想像して、私に説明してくれます。楽しそうに説明が止まらなくなる息子を見ていて思いました。幼少期の「○○ごっこ遊び」で培われる「想像力=創造力」は、大人になった私の中で薄れてきているのではないだろうかと。目に見えない感情や、背景や事情は交錯しながら存在しています。物事は、目に見えているものだけの一面的ではなく多面的であるということです。この多面的な部分を想像する力は、日常の診療、人間関係においても大切なことではないかと改めて思いました。このことが私にとってのささやかな「福」となりました。
 一日でも早く日常が戻りますように。そしてまた息子と全国各地のお城めぐりに行ける日を心待ちにしています。

(一部省略)

熊本県 森都医報 No.835より

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる