第1回全国医師会産業医部会連絡協議会が5月31日、新型コロナウイルス感染症防止対策を講じた上で、テレビ会議システムとの併用で日医会館小講堂において、日医と日本産業衛生学会の共催により開催された。
当日は、会場に集まった参加者約40名の他、テレビ会議システムを利用して参加した約250名と合わせて、300名近い都道府県医師会担当役職員、関係団体らが聴講した。
同協議会は、社会において働き方改革等により産業医に求められる役割が増大し、多様化・高度化している現状に鑑み、地域医師会に設置されている既存の産業医部会や産業保健委員会の取り組みを活用した全国ネットワーク化と産業医支援事業の充実・強化を図ることを目的として、これまでの産業保健担当理事連絡協議会を発展解消し立ち上げたものである。
松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつに立った横倉義武会長は、「わが国の社会基盤である労働者の健康保持増進のための各種政策が展開される中で、産業医には大変重要な役割が期待されている」と述べるとともに、産業医活動は疾病予防が基本であり、積極的かつ創造的な予防活動には、"行動する産業医"が求められていると指摘。今後については、各地域で活動する産業医部会等と調和を図り、産業医のニーズに応えられるきめ細やかな支援体制を構築しながら、五つの事業(①産業医のスキルアップ②情報提供③相談対応④産業医と事業場のマッチング⑤産業医活動支援)を展開し、産業医活動にやりがいを感じる環境づくりに尽力していく考えを示した。
続いてあいさつした川上憲人日本産業衛生学会理事長は、「産業保健は労働者と事業場の双方から高い期待がかけられるだけでなく、社会においても重要な領域となっており、時代の要請に応えるためにも産業医の質を高め、その知識を活用し、技能を習得することが求められている」と述べるとともに本協議会がその役割を果たし、今後の産業保健の発展につながることに期待感を示した。
次に、後援団体である村山誠厚生労働省安全衛生部長、有賀徹労働者健康安全機構理事長、尾辻豊産業医科大学長、清水英佑産業医学振興財団理事長、八牧暢行中央労働災害防止協会理事長から、それぞれ祝辞が寄せられた。
記念講演
その後、横倉会長が「新型コロナウイルス感染症対策と産業医の役割について」と題して、記念講演を行った。
横倉会長は、自身が社会医学的な知識が必要と考え、労働衛生コンサルタントの資格を取得したエピソードなどに触れ、産業保健への思いに言及した上で、日医におけるこれまでの感染症対策から今回の新型コロナウイルス感染症に至るまで、国に対して行ってきたさまざまな要望や各種支援等について報告。
また、職域における各種取り組み事業等について紹介するとともに、「働きやすい職場環境づくりの担い手となる産業医は、労働者と事業者の架け橋的な役割が期待されており、日医としても嘱託・専属にかかわらず、全ての産業医を全面的に支援していきたい」との意向を示した。
続いて講演した相澤好治北里大学名誉教授/日医産業保健委員会委員長が、「日本医師会初代会長 北里柴三郎から今日の産業医制度までの歴史的変遷」と題して、戦前から現在に至る産業保健と産業医制度発足までの歴史的背景や、武見太郎第11代日医会長の思想、北里初代日医会長の業績や福澤諭吉との関係、3人の共通点や受け継がれる思想の伝播(でんぱ)などについて紹介した。
報告・説明
松本常任理事が、「産業医の現状を踏まえ連絡協議会が目指すもの」と題し、認定産業医が10万人を超す一方で、半数以上が活動していない状況や、各種研修会の実施状況等を説明した他、都道府県・郡市区医師会を対象に行った「産業医に関する組織活動実態調査」の結果を報告。調査結果から見えた産業医不足や業務の多様化による負担増等、産業医が直面している課題を踏まえて、産業医を守るために産業医の全国組織化に取り組む判断をするに至ったことを明らかにするとともに、段階別事業内容や組織図及びスケジュール等、その具体案を説明した。
また、医師会主導による産業医紹介事業者を活用したモデル事業案を紹介した上で、今年度は埼玉県、東京都、愛知県、福岡県の各医師会で実施を予定し、次年度以降には、三重県、宮崎県の医師会を始め、その他の地域にも拡大して継続していくことを検討していることを明らかにし、引き続き、日医主導で関係団体と連携を取りながら、産業医の全国ネットワークづくりの推進・充実強化に取り組む考えを示した。
活動報告
午後からは活動報告として、内田耕三郎岡山県医師会常任理事が、「岡山県医師会産業医会の活動報告」、田中孝幸三重県医師会理事/日医産業保健委員会委員が、「三重県医師会産業医部会新設に向けた取組」、松本雅彦大宮医師会長が、「大宮医師会の産業医会の活動報告」について、それぞれの組織の紹介と活動状況を概説した。
シンポジウム
シンポジウムでは、大西洋英労働者健康安全機構理事が、「産業保健総合支援センターにおける産業医支援業務の充実強化」として、産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターの組織体制と産業医支援への取り組み等を、森晃爾日本産業衛生学会副理事長が、「産業医研修会への産業衛生学会の貢献の方向性」として、全国組織を基盤に多職種人材で構成されている強みを生かした貢献の可能性等を、一瀬豊日産業医科大学進路指導副部長が、「産業医需要供給実態調査の取組」として、産業医不足の現状把握とその課題を明らかにするために行った調査内容等を、渡辺洋一郎日本精神科産業医協会代表理事が、「ストレスチェックに関する嘱託産業医支援事業」として、ストレスチェック制度の主旨と課題や同協会が行っているストレスチェック実施支援業務について、それぞれ説明した。
続いて、埼玉県、京都府、和歌山県の各医師会から事前に寄せられた質問に対して、松本常任理事が回答した後、川上日本産業衛生学会理事長が、日本渡航医学会と日本産業衛生学会の共同文書である「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド第1版」を、堀江正知産業医科大学副学長が、日医産業保健委員会としてまとめた「医療機関等における産業保健活動としての新型コロナウイルス対策」を、天木聡東京都医師会理事/日医産業保健委員会委員が、東京都医師会ホームページに掲載している「嘱託産業医のための新型コロナウイルス感染症対策のヒント」について、それぞれ報告を行った。
最後に、テレビ会議で出席した松山正春岡山県医師会長/日医産業保健委員会副委員長が「長時間にわたる協議であったが、実り多い内容となった」と総括した後、今村聡副会長が「本日の協議会で関係者の一層の情報共有が図られたと考えている。産業医をさまざまな角度で支援し、質の向上に尽力することは労働者の健康増進、ひいては事業所等の活動支援につながるものである。そのためにも全国組織化は重要であり、関係団体と共に推進していきたい」と閉会のあいさつを述べた。