「子育て支援フォーラムin福島」が11月10日、日医、SBI子ども希望財団、福島県医師会の共催により、福島県郡山市内で開催された。
フォーラムは、新妻和雄福島県医常任理事の司会で開会。冒頭あいさつで横倉義武会長(平川俊夫常任理事代読)は、「児童相談所に寄せられる児童虐待の相談対応件数は、統計を取り始めた平成2年度から増加の一途をたどり、昨年度は13万件を超え、過去最多であったが、虐待の実態は把握し切れていないのが実情である」とした上で、「虐待の根底にある社会的な要因に目を向け、社会全体で強い危機感をもって早期に把握し、適切な対応を行うことが求められている」と述べた。
続いてあいさつした佐藤武寿福島県医会長は、福島県医が妊産婦、小児のメンタルヘルス対策に取り組み、産科、精神科、小児科の連携の下、健全な子育てのための支援を行っていることを紹介。その上で同会長は、「産後健診など行政の理解を得ることも重要であり、本フォーラムが社会全体で子育てを考える機会になることを願っている」と期待を寄せた。
報告
次に報告では、藤森敬也公立大学法人福島県立医科大学医学部産科婦人科学講座教授/放射線医学県民健康管理センター妊産婦調査室長が、「平成28年度『妊産婦に関する調査』結果概要の報告」と題し、県内の妊産婦を対象とした調査等について説明。東日本大震災以降の分娩数の推移、中絶・自然流産を含む妊娠の現状や先天異常の発生状況等の他、フォローアップの追跡調査等について触れた上で、今後の課題として、「低線量放射線被ばくの客観的な科学データを示すことで『安全』を『安心』につなげていくことが重要になる」との考えを示した。
基調講演
引き続き行われた基調講演(座長:平川常任理事)では、吉村泰典慶應義塾大学名誉教授/福島県立医科大学副学長/新百合ヶ丘総合病院名誉院長/少子化対策、子育て支援担当内閣官房参与が、「少子高齢化社会における産後ケアの重要性」と題して講演した。
厚生労働省や国立社会保障・人口問題研究所の調査にみる少子化の進行と人口減少社会の到来等について説明した上で、少子化の要因となるデータを示し、出生率の低下は有配偶率の変化が影響していると指摘。
また、少子化対策の好事例を紹介するとともに、子ども・妊産婦の死因や児童虐待とその背景等について報告し、「安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現を目指すためには、産前、産後のケアが大切となり、経済的基盤や雇用の安定と共に、子育て環境の充実がわが国の喫緊の課題である」と強調した。
シンポジウム
その後のシンポジウム(座長:本田任福島県産婦人科医会長、竹内真弓福島県小児科医会長)では、まず、加賀美尤祥社会福祉法人山梨立正光生園理事長/山梨県立大学人間福祉学部特任教授が講演した。
「今日の子ども家庭と社会的養護の現状と課題~保護から養育へのパラダイムシフト~」と題して、子ども家庭の現状から社会的養護の内容とその時代背景を概説。
平成29年4月1日施行の改正児童福祉法では、児童を権利の主体とする抜本的な見直しがなされ、新しい社会的養育ビジョンが示されたことを報告するとともに、自身の「地域子ども家庭支援システム構想」の内容を紹介した。
奥山眞紀子国立成育医療研究センターこころの診療部統括部長は、「妊娠期からの虐待予防~虐待死ゼロを目指して~」をテーマに講演し、虐待の死亡事例の検証により、望まない妊娠の多さ等、妊娠期の問題がクローズアップされていること、発達障害傾向にある母親への早期介入がその後の虐待的行動の予防として重要と考えられること等を説明。その上で同部長は、「妊娠期・周産期からの虐待予防のためにはさまざまなアイデアが必要であり、胎児虐待を見逃さない方法等の対策も不可欠であるが、『子どもは胎児期から社会で育てる』という意識をもつことが何より重要になる」と述べた。
滝田昌宏郡山市こども部子ども支援課長は、「郡山市における子育て世代包括支援センター事業の取組み」について講演し、平成29年4月から子育て世代包括支援センター事業として、全ての妊産婦、乳幼児を対象に「ニコニコサポート事業」を開始したことを報告。子育て支援が虐待予防につながるとし、地域全体で子育て世代を応援していけるよう理解を求めた。
なお、日医では今年度、同フォーラムを熊本県、栃木県の2カ所でも行う予定としている。