平成30年(2018年)6月20日(水) / 日医ニュース
死体検案を巡るさまざまな課題の解決を目指して
平成30年度 都道府県医師会「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」連絡協議会・学術大会
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平成30年度 都道府県医師会「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」連絡協議会・学術大会が5月19日、日医会館で開催された。
連絡協議会は、担当の松本純一常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした横倉義武会長は、日頃の活動に感謝の意を示した上で、「死因究明、検案には死者の尊厳を守るだけでなく、家族の死因を正確に知りたいという遺族の思いに応えるという大きな役割がある。本日はこの普遍的な価値にも意識を向けた上で、忌憚(きたん)のない議論をお願いしたい」と述べた。
報告
報告では、まず、福田正信内閣府死因究明等施策推進室長が、「死因究明等推進計画」に示された八つの重点施策の推進状況や、各地域の死因究明等推進協議会での検討内容を説明。日本では孤独死や在宅死が今後増えることが予想されることから、警察医の役割は今後ますます高まるとして、更なる協力を求めた。
その他、死因究明を恒久的に法律で支えることを目指して、新たな死因究明等推進基本法の制定を目指す動きがあることに触れ、早期の成立に期待感を示した。
阿波拓洋警察庁刑事局捜査第一課検視指導室長は、死因・身元調査法に基づく警察での死体の取り扱いの流れを解説。「警察での死体の取り扱い数は、ここ数年16万体を超えており、多死社会となる中でこの数字がどのようになるか注目している」とした。
更に、犯罪死を見逃すことのないよう、警察で行われる解剖や検査が増加していることにも言及。「我々の業務は医師の協力がなければ成り立たない」として、引き続きの協力を求めた。
各県医師会からの質問・意見及び要望
引き続き、岩手・長崎・熊本・静岡各県医師会から事前に寄せられた要望・質問に対して、協議が行われた。
岩手県医師会は、大規模災害時の対応シミュレーションを行うことを改めて提案。実施が難しい場合は、①出動検案医の身分保障(保険)②検案料③災害被害者の生命保険支払い手続き―について関係団体との事前協議を求めた。
松本(純)常任理事は、対応シミュレーションが実現できていないことを陳謝した上で、会内の「警察活動等への協力業務検討委員会」で引き続き検討していくと回答。また、①については、「警察など公の機関が保障すべきものであり、医師が安全に働けるよう、明確化していきたい」とした。
②に関しては、大規模災害の際に高額となり過ぎないよう、③については、遠方から善意で支援に行った医師にその後も過重な負担を強いることのないよう、厚生労働省等関係省庁と共に検討していくとした。
長崎県医師会は、患者の急変で家族が救急隊を呼んだところ、警察が同行してきたという事例を紹介。在宅死における検案について何らかのルールをつくる必要があるとしたことに対して、松本(純)常任理事は、「以前から診察を受けていた疾病が原因で亡くなった場合、その患者をこれまで診察していた医師が確実に死亡診断書を書くことができれば、警察の関与はないということが大原則」とした上で、「警察の必要以上の関与により、安らかに在宅で亡くなることができないということは問題」と指摘。地域の実情を尊重するとともに不合理なローカルルールについては、可能な限り全国的な統一を図ることも必要との考えを示した。
この件に関しては、他県からも問題点が指摘されたことから、今村聡副会長は、「全国規模でそのような問題が起きているのであれば、日医としても総務省に申し入れを行う等対応を検討したい」とした。
熊本県医師会は、死因究明等推進協議会の全国での設置状況と具体的な活動について質問。内閣府の福田室長は、30都道府県で設置され、死因究明を担う人材の育成などの課題等について議論が行われていることなどを説明。また、関連して大阪府医師会からは、「大阪府が監察医制度を廃止するとの話があったが、維持されることになった」との報告がなされ、引き続きの支援が求められた。
静岡県医師会は、①Ai研修会に対する国の方針及び②検案医がAiや解剖を進言したにもかかわらず、警察が拒否する場合があること―について質問。江崎治朗厚労省医政局医事課課長補佐は、①について、「予算の関係上、全国で実施することはできないが、できるだけ受けやすい体制を整備していきたい」として、理解を求めた。
②に関しては、松本(純)常任理事が、警察は立会・検案医の意向を最大限尊重すべきであり、警察には立会・検案医としっかりコミュニケーションを取って欲しいと要請。警察庁の阿波室長は、検査・解剖の要否は立会医師の意見・助言を踏まえて警察署長が判断するのが基本であり、適切に行われるよう指導していくとの考えを示した。
その他、小林博警察活動等への協力業務検討委員会委員長/岐阜県医師会長からは、平成29年の刑法改正により、男性も強制性交罪の被害者になり得ることになり、その対応が求められるとの情報提供がなされた。
特別講演と五つの一般講演が行われる―学術大会
続く学術大会では、初めに横倉会長が、「本学術大会を死因究明に関する幅広い角度からの知見に触れる良い機会とし、参加者相互の活発な議論と研鑽(けんさん)の場にして欲しい」とあいさつし、その成果に期待を寄せた。
続いて、「警察活動に協力する医師としての経験から」と題して特別講演を行った大木實福岡県医師会監事/福岡県警察医会長は、携帯用のレントゲン撮影機も用いながら、これまでに5296体の検案に携わってきたことを報告。警察には常々、医療事故調査制度の仕組みに対する理解とともに、医療行為の結果を見ただけでミスと判断しないことなどを求めているとした。
その上で、「警察活動の中には医師にしかできないことがある。死体検案は、法医学者に全てを任せるのではなく、現場で生きた患者を診てきた我々医師がその延長で行うべきである」と強調し、医師の積極的な関与を求めた。
その後は、市川朝洋常任理事が進行を務め、一般公募で選ばれた①高齢者の浴槽内死亡に関する解剖所見および発見時姿勢からの検討②埼玉県における警察活動に対する協力について③大規模テロ災害時の死体検案と身元確認体制について④殺人事件のAiと解剖及び熊本地震の検案活動⑤超高齢・多死社会における警察医の地域への関わり方の一考察~検案事例統計からアプローチする医療行政への働きかけについて―の5題の講演が行われ、今村副会長の総括により、 大会は終了となった。