横倉義武会長は5月10日、今村聡副会長と共に、自民党本部で開かれた自民党「財政再建に関する特命委員会」(委員長:岸田文雄政務調査会長)に出席し、社会保障と経済に関する日医の提言内容を説明。国民の生命と健康を守る立場から、引き続き日本歯科医師会、日本薬剤師会と協力して活動していく考えを示した。 |
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今回のヒアリングは、経済財政の現状について広く意見を聞くことを目的として行われたもので、三師会の他、経団連、連合等7団体が出席した。
横倉会長は、まず、「社会保障と経済は表裏一体の関係にあることから、財政再建と社会保障の充実は一体となって進めていかなくてはならない」と基本的な考えを述べた上で、国民医療費と介護費の実績と過去の推計値を比較した図を示しながら、「厳しい抑制策と日本健康会議での取り組みなど医療側の努力により、2015年度の国民医療費の実績値は2011年の予測より約3兆円下回っている」とした。
次に、(1)健康寿命の延伸、(2)薬剤の適正処方に関するガイドライン、(3)保険料の上限撤廃、(4)被用者保険の保険料率を協会けんぽ(10%)に合わせて引き上げ、(5)国民負担率の引き上げ、(6)税制・日本医療研究開発機構(AMED)の補助金・官民ファンド活用によるイノベーションの促進、(7)企業の内部留保(406・2兆円)を給与に還元、(8)従来から国と協力して取り組んでいる施策(後発医薬品の使用促進、終末期医療、生活習慣病対策、たばこ税の増税)―の8項目で構成されている「財政再建に向けた日本医師会からの提言」について説明。
横倉会長は、同提言を踏まえた大きな方向性として、「社会保障の堅持のためには、『予防・健康づくり』に力点を置き、健康寿命の延伸に努めることが重要であり、その結果として、医療費・介護費の伸びの抑制や税収増による社会保障財源の確保も期待できる」と強調。
また、「406兆円を超える企業の内部留保の一部を給与に還元することと併せて働き方改革を進め、一億総活躍社会を実現することにより、社会保障が充実し、需要の創出・雇用拡大や地方創生、経済成長につながり、更に賃金を上昇させるといった経済の好循環を生み出し、国民不安も解消していく」と主張した。
更に、過度な社会保障財源抑制施策への懸念事項として、①医療保険の給付率を自動的に調整する仕組み、いわゆる医療版マクロ経済スライドの導入②高齢者の医療の確保に関する法律第14条の診療報酬の特例活用③かかりつけ医普及の観点からの診療報酬上の対応や外来時の定額負担についての検討―の3点を示し、①については、わが国はヨーロッパ諸国に比べて国民負担率が低いことから、「仮に経済成長ができなかった場合には、患者負担ではなく社会全体の負担率を調整することでカバーすべき」とするとともに、「医療は現物給付であり、その時々の社会経済情勢を踏まえつつ、診療報酬、保険料、公費、患者負担について、総合的に不断の見直しを行うことで対応すべきである」と述べた。
②については、「都道府県ごとの診療報酬の設定は、県境における患者の動きに変化をもたらし、それに伴う医療従事者の移動によって地域における偏在が加速することで医療の質の低下を招く恐れがある」との懸念を示し、介護保険では既に地域別の報酬体系によって、大都市に人材が集中するなどの問題が出ていることを指摘した。
③では、かかりつけ医普及の制度的裏付けは始まったばかりであり、受診時定額負担が導入されれば、かかりつけ医の普及に水を差すことになることから、「わが国の特徴であるフリーアクセスはしっかりと守っていかなくてはならない」と強調。
一方で、大病院と中小病院・診療所の外来の機能分化の観点から、大病院への直接受診の是正は必要とした。
続いて意見を述べた堀憲朗日歯会長は、口腔と全身の健康はリンクしており、健康寿命の延伸のためには歯科医療が重要になると指摘。また、「医療版マクロ経済スライドの導入及び地域別の診療報酬の設定には反対である」と述べた。
山本信夫日薬会長も、医療版マクロ経済スライドの導入及び地域別の診療報酬の設定に反対する立場を示した上で、かかりつけ薬剤師・薬局の普及を推進していきたいとした。
その後行われた質疑応答では、今後の改革の方向性や日医の終末期医療等に対する認識についての質問が出され、横倉会長が、日医が作成したパンフレット『終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える』を紹介した他、医療や社会保障制度などの改革については、「急激な制度変更による医療費の抑制政策をとれば、以前、後期高齢者医療制度導入の時に見られたような国民の反感を買い、ひいては政権交代をもたらす危惧がある。医療制度は少しずつ変えていくことによって財政と医療のバランスをとっていくことが重要」との見解を示した。