平成29年度母子保健講習会が2月18日、日医会館大講堂で開催された。
温泉川梅代常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(中川俊男副会長代読)は、国において、「子ども・子育て支援新制度」(平成27年4月)の施行や、安倍内閣の掲げた「新・三本の矢」(同年9月)の一つに「夢をつむぐ子育て支援」が盛り込まれるなど、少子化対策が進められていることを挙げ、日医としても、妊娠期から子育て期にわたり切れ目なく支援を受けられる体制整備に向け、積極的に政策提言を行っていくとした。
続いて、五十嵐隆国立成育医療研究センター理事長/日医母子保健検討委員会委員長を座長として、基調講演2題が行われた。
「子育て世代包括支援センターの目指すもの」について講演した北澤潤厚生労働省子ども家庭局母子保健課長は、地域のつながりの希薄化等によって子育てが孤立化し、負担感も増していることを指摘。妊娠期から子育て期にわたり切れ目なく支援する「子育て世代包括支援センター」を平成32年度末までに全国展開することを目指しているとした他、同センターでは、全ての妊産婦、乳幼児と保護者を対象に、保健師、助産師、看護師、ソーシャルワーカーなど多職種が支援台帳を用いて情報共有しつつ、継続的に関わっていることを説明した。
「周産期メンタルヘルス支援を目指して」と題して講演した岡野禎治三重大学保健管理センター/大学院医学系研究科教授は、妊産婦の自殺事例と精神既往歴との相関をデータで示した上で、「重症のうつ病」「産褥精神病」「双極性障害」は産後の再発率が高いと強調。妊娠期からこれらの既往歴を把握し、精神科と連携する重要性を訴えるとともに、産後におけるうつ病の包括的なスクリーニングには、(1)過去一カ月の間に、気分が落ち込んだり、元気がなくて、あるいは絶望的になって、しばしば悩まされたことがあるか(抑うつ気分)、(2)過去一カ月の間に、物事をすることに興味あるいは楽しみをほとんどなくして、しばしば悩まされたことがあるか(興味や喜びの喪失)―の二つの質問が有用であると述べた。
引き続き、「多職種連携による子育て支援を目指して」(座長:福田稠熊本県医師会長/日医母子保健検討委員会副委員長)をテーマに講演三題が行われた。
講演「米国の小児の健診体制(Bright Futures)と本邦への応用の検討」では阪下和美氏(国立成育医療研究センター総合診療部総合診療科)が、米国小児科学会が作成したガイドライン「Bright Futures」を紹介し、出生から21歳まで月齢・年齢ごとに確認すべきポイントなどが示されており、かかりつけ医が継続的に保健指導を行う指標となっていることを説明。次回指導までに起きうるリスクに対してもアドバイスできるものであり、日本で思春期世代への保健指導に応用する際には、地域の医療者が学校・学校医・スクールカウンセラーと連携しつつ、予防的に介入していくことが必要になるとの考えを示した。
「周産期のメンタルヘルス~多職種連携の現状と課題~」と題して講演した相良洋子日本産婦人科医会常務理事/さがらレディスクリニック院長は、東京都における周産期の自殺件数として、2005年から10年間の異常死89例のうち63例が自殺であることを報告。心理社会的支援が必要な妊産婦の存在が広く認識されてきたことから、同医会では、産科医療機関でメンタルヘルスの支援が必要な妊産婦のスクリーニングとケアを行う取り組みを進めているとし、「行政や精神科など多職種の連携で早期介入し、長期に支援していく体制づくりが課題である」と述べた。
「発達障害幼児の支援―健診での気づきとその後の対応―」について講演した小枝達也国立成育医療研究センターこころの診療部長は、「発達に問題がある子どもは叱られることが多いため自信がなくなり、学童期後半から学校不適応、思春期以降に社会への不適応を引き起こす」として、発達障害の早期発見のためにも、就学前の5歳で健診を行うことが有効であると提唱した。
また、5歳児健診は、社会性発達や行動統制力が弱い子どもに気づき、子育て相談・心理発達相談・教育相談へつなげることで、育児支援と就学に向けた心構えを喚起する場にもなると強調した。
当日の出席者は205名であった。