平成29年度都道府県医師会医事紛争担当理事連絡協議会が昨年12月7日、日医会館小講堂で開催された。
市川朝洋常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長は、都道府県医師会の日医医賠責保険制度の円滑な運用と事故防止、医療安全に対するさまざまな取り組みにより来年度から医賠責保険料を改定し、若手勤務医の会費を大幅に引き下げることが可能になったとして謝意を表明。その上で、「医賠責保険制度は不幸にして医療事故が発生した際の『安心の支柱』であり、会員が安心して医療が行えるよう引き続き努力していく」と述べた。
続いて、市川常任理事から、日医医賠責保険制度の運営に関する経過及び医賠責保険料の改定について報告が行われた。
次に、「医療事故紛争防止のための患者さん対応」について、まず、樋口俊寛愛知県医師会理事が、県の委託事業として実施する愛知県医師会医療安全支援センター(苦情相談センター)の活動と医事紛争防止へ向けた取り組みを紹介し、最近10年間の相談実績と具体事例について概説した。
相談件数は増加傾向にある一方、専門委員(医師)が対応する事例件数が大幅に減少している現状を示すとともに、相談窓口に看護師、医療ソーシャルワーカーを常勤で配置したことで、対応ノウハウの蓄積やしっかりと対応できる体制ができたとして、相談員の常勤配置が医事紛争防止につながっているとの見解を示した。
また、医事紛争防止に向けた対応については、「後医の発言・診断」「医事紛争発生後の病院・医師の対応」等が医事紛争の主な要因であると指摘し、(1)前医の診療内容に対して一方的に批判しない、不用意な発言を控える、(2)患者・家族の苦情に対して、初期対応を丁寧にする、(3)当事者である医師等が苦情内容を真摯(しんし)に受け止め、再発防止に生かす―ことが求められると述べた。
橋本雄幸東京都医師会理事は、医療機関に対する患者やその家族等からのクレーム(過剰・不適切要求行為)対応により医療業務が阻害される問題が少なくないことから、都医師会が会員支援として、平成28年10月~平成29年9月の1年間試行的に実施した、病院でのトラブルに対応した実績のある警察OBを活用した医療業務阻害対応支援について紹介した。
具体的には、(1)警察OBが24時間対応する相談窓口に何度でも電話相談が可能、(2)状況に応じて、警察OBが個別訪問し、現場支援(実費負担有)も行う―等のサービスを提供するもので、相談件数は63件(うち現場対応3件)あったことを報告。
また、その内容は、「不当な処方・要求」「診療内容へのクレーム」「予約トラブル」などであり、医療機関からの評価は、「不測の事態時の後ろ盾として安心できる」「親身・的確なアドバイスで心強かった」など91%が「とても良いと思う」との回答であったとした。
その上で、同理事は「診療所、クリニックからの相談が圧倒的に多いことから、スタッフが少なく、他にも相談することができない先生にとっては有用なサービスなのではないか」と述べた。
続いて、手塚一男日医参与/弁護士が「医療紛争に関する文書と裁判所への提出義務」と題して、日医医賠責保険に関する各種文書の法律的な位置づけについて講演した。
民事訴訟では除外事由(①内部文書性②不利益性③特段の事情)を除いて一般的には文書提出義務があるとした上で、医療紛争に関する文書は「外部に開示することが予定されていない(内部文書性)」「開示することで所持者の側に看過しがたい不利益が生じる(不利益性)」などの理由から、文書提出命令に応じなくてもよいとした最高裁判所の判例を紹介。「今後も訴訟の過程で文書提出命令が出る可能性は否定できないが、審査会の回答を含めて日医付託事例関連書類の提出義務はない」との見解を示した。
その他、事務局からは、最近の付託事例として特徴的な高齢者医療に関する医療紛争の具体的な事例の紹介があった。
長寿化に伴い、特に85歳以上の超高齢者で介護施設等入所者の医療紛争において、「すぐに医療機関に連れて行かなかった」「高次医療機関への転送が遅れた」などの理由から、責任を問われるケースが増加していることを報告。その背景には、施設や医療機関に対する過度な期待があり、このような事例は今後も増加することが予想されるとした上で、施設協力医が医療紛争に巻き込まれないためにも、病状(健康状態)、治療方針、投薬、容体急変時の対応・方針などについて、施設入所者(患者)だけでなく、家族への十分な説明と理解を得ておくことが重要になるとした。
質疑応答では、参加者からの多数の質問・要望等に、それぞれ回答が行われた。
出席者は123名。また、テレビ会議システムにより12の県医師会に中継を行った。