第5回日医・米国研究製薬工業協会(PhRMA)共催シンポジウムが11月9日、「超高齢社会における緩和ケアのあり方」をテーマとして都内で開催された。
冒頭、あいさつに立った横倉義武会長は、超高齢社会を迎えたわが国において、人が人生の最期に向かっていく時間を、いかに人間らしく、尊厳を守りながら過ごしていけるのか、全ての医療者が真摯(しんし)に向き合うべき重要な問題であると指摘した。その上で、「『日本医師会綱領』が掲げる理念である、人間の尊厳が生涯にわたって大切にされる社会の実現を目指していくことが、これまで以上に重要になる」との考えを示すとともに、「今後、さまざまな角度から、より一層の取り組みを進めていく」として、更なる理解と協力を求めた。
また、本年10月に第68代世界医師会長に就任したことにも触れ、「実際の臨床現場での取り組みや終末期医療における緩和ケア、海外の緩和ケアの提供体制と最新事例など、本日のシンポジウムでの意見を参考にしながら、今後、世界医師会長としても、諸外国、地域の医療課題に取り組んでいきたい」と抱負を述べた。
引き続き、4題の基調講演が行われた。
まず、小川朝生国立がん研究センター先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野長が、「日本のがん緩和ケアへの取り組み」について講演。日本の緩和ケアのベースとなっている「がん対策推進基本計画」の概要を解説するとともに、自身も監修者としてその発行に携わった『がん緩和ケアガイドブック』(本年7月発行)を紹介した。
更に、緩和ケアの取り組みを、(1)基本的緩和ケア(全ての医療従事者が実施)、(2)専門的緩和ケア(複雑な問題に対応するために専門家が多職種で対応)、(3)診断時からの緩和ケア(がんの精査・告知の時点から提供されることが求められるアプローチ)―の三つに分け、その現状と課題について解説し、「高齢者のがん治療の意思決定において、どのような支援が望まれるかが喫緊の課題である」とした。
田村和夫福岡大学医学部総合医学研究センター教授は、「がんと診断された時からの緩和ケア~がんを標的とした治療と支持・緩和医療の統合を目指して~」と題して講演を行った。
がん患者の治療には、がんと診断された時からの治療と支持・緩和医療科の連携・統合が重要となってくると指摘。がん死亡者数の約85%が65歳以上であるとのデータを紹介するとともに、「がんは高齢者の慢性の疾病であると言える。まさに、がん治療と緩和医療の連携の真価が最も問われるのが高齢者医療である」と述べた。
続いて、日医会内の生命倫理懇談会委員でもある清水哲郎岩手保健医療大学長が、「エンドオブライフ・ケアに至る包括的治療における緩和ケアとACP~高齢者ケアにおける意思決定支援の視点から~」について講演。
エンドオブライフ・ケアは、その時期を医学的判断のみならず、本人の人生に関する選択等により相対的に決められるものであり、医学的な終末期が必ずしも該当するわけではないなどと説明した。
また、高齢者ケアにおけるACP(advance care planning)は、「終活(=死に備える活動)ではなく、老活(=老いを生きるための活動)」として行われるべきであると指摘するとともに、意思決定プロセス・意思決定支援の面では、直近の治療選択や今後のケアプラン、ACPを含めた包括的ケアという考え方で見ることがふさわしいとした。
パム・トラクセル米国がん協会がん行動ネットワーク アライアンス構築/慈善事業担当部門 上級バイスプレジデントは、「米国における緩和ケアの現状」として、三度の卵巣がんを経験した女性の実例を紹介しながら、米国での緩和ケアの実情と取り組みについて報告した。
また、米国がん協会等が行ったアンケートでは、多くの人が緩和ケアを望んでいることや、緩和ケアは医療費の削減にも寄与することに言及し、これらの問題を解決するために、(1)緩和ケアを本当に必要とする人数の特定、(2)24時間年中無休の医療の対応、(3)疼痛と症状の管理、(4)ケアにおける優先事項、(5)介護する家族へのサポート―の重要性を訴えた。
その後、道永麻里常任理事がモデレーターとなり、演者4名によるパネルディスカッションが行われ、「緩和ケアの位置づけ(定義)」「がんと診断された時からの緩和ケア」等について活発な質疑応答があり、シンポジウムは終了となった。