「子育て支援フォーラムin神奈川」が7月29日、日医、SBI子ども希望財団、神奈川県医師会の共催により、横浜市内で開催された。
フォーラムは、高井昌彦神奈川県医理事の司会で開会。冒頭あいさつで横倉義武会長(温泉川梅代常任理事代読)は、「児童相談所の児童虐待の相談対応件数が年々増加し、昨年度は初めて10万件を上回ったが、虐待の実態は把握し切れていないのが実情だ」とした上で、「虐待の根底にある社会的な要因に目を向け、社会全体で強い危機感を持つことが求められている」とした。
続いて、あいさつした菊岡正和神奈川県医会長は、「本フォーラムでさまざまな取り組みが広く共有され、全ての子ども達の健やかな成長を支えるための支援につながることを心から願っている」と述べた。
引き続き行われた基調講演(座長:温泉川常任理事)では、衞藤隆東京大学名誉教授が、「日本の子ども―『子育ち』の今とこれからを考える―」と題して講演。子どもの社会背景や学校保健統計調査に見る児童・生徒の健康状態とその推移について説明した上で、そこから見えてくる課題として、特に自然体験の不足を挙げ、全ての大人がその重要性を認識し早急に取り組んでいくことが求められるとした。
更に、若者の自殺について、秋田県や東京都の予防への取り組みを紹介し、自殺を個人ではなく地域社会の問題として捉え、その対策に取り組むことが肝要との考えを示した。
また、今後は、出生から乳幼児期、学童期、思春期、青年期、それぞれの過程を考慮した支援策が必要であると指摘した。
その後のシンポジウム(座長:武内鉄夫神奈川県医副会長、高井昌彦同県医理事)では、まず、「児童精神科医療の現場からみた児童虐待」と題して、新井卓神奈川県立こども医療センター児童思春期精神科部長が講演した。
氏は、自身が勤務する児童思春期病棟の統計結果から、発達障害の子どもは虐待被害を受けやすいとの認識を示すとともに、発達特性を持つ子どもの評価は非常に難しく、親子関係のこじれも生じやすいが、多くの人に意見を聞き、相談をしていくことが何より大切だと強調した。
「ゼロ歳児からの虐待防止~虐待による乳幼児頭部外傷を予防する~」をテーマに講演した山田不二子医療法人社団三彦会山田内科胃腸科クリニック副院長/認定特定非営利活動法人チャイルドファーストジャパン(CFJ)理事長は、「乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome)」は、結果の重篤性を知らないがために、虐待のリスク要因を有さない人も加害者になり得るが、予防可能な虐待であるとした上で、その予防について神奈川県の取り組みを交えて解説。母親だけでなく父親にも予防プログラムを提供することが大事であり、また第1子のみでなく全ての乳幼児の養育者を対象とすることが重要だとした。
奥山眞紀子国立成育医療研究センターこころの診療部長は、「妊娠期からの虐待予防~虐待死ゼロを目指して~」をテーマに講演し、虐待死亡事例の検証により、望まない妊娠の多さ等、妊娠期の問題がクローズアップされたと説明。妊娠期・周産期からの虐待予防は、胎児虐待を見逃さない方法等、さまざまな対策が必要であり、ソーシャルワーカーの役割も重要であること、更に、子どもは胎児期から社会で育てるという意識が必要であること等を指摘した。
「今日の子ども家庭と新たな社会的養育の現状・課題」について講演した加賀美尤祥社会福祉法人山梨立正光生園理事長/山梨県立大学人間福祉学部特任教授は、保護を必要としている子どもが増加しているにもかかわらず、児童福祉施設等の受け入れは限界の状況であることを報告。
その上で、社会的養護サービスを社会的子育て支援システムの一環として統合し、保護から養育へ、全ての子ども家庭を視野に入れた新たな社会的子育てシステムの構築が必要だとした。
なお、日医では今年度、同フォーラムを茨城県、山口県、他1カ所の3カ所で行う予定としている。