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平成29年(2017年)7月5日(水) / 南から北から / 日医ニュース

お父さんのお茶碗、お母さんのお箸

 留学生をホームステイさせた時、当然お台所仕事も手伝ってもらう。彼らは「なぜ?」「どうして?」を連発する。私達が何らの疑いも持たず、子どもの時から当然だと思っているものも、違った目で見ると不思議なことがたくさんあるようだ。
 その一つは、めいめいが自分専用の箸や茶碗を持っていることである。ナイフやフォークは皆共用で、誰々専用はない。例外は赤ちゃん専用のスプーンとお皿である。歯ブラシは自分専用、歯磨きクリームは共用、洗顔用タオルは専用だが、お便所の手拭きは共用である。朝のコーヒーのモーニングカップはめいめい自分用のものがある。どうもこの延長に箸と茶碗があるらしい。
 差別や区別を考えると、お店の丼の縁の模様が、普通のラーメンとチャーシューメンで少し違うのは、お値段が違うので間違えないためだろう。うな重でも松竹梅で値段が違えば器も違ってくる。
 海上自衛隊の艦隊生活では、候補生や曹士の食堂では箸も食器も皆共用である。士官室で食事をするようになると、食器は共用と同じものだが箸とお茶の湯飲みは自分専用のものを使うことができる。
 歯ブラシは毛の硬い・柔らかいで個人の好みがあり、他人の口に入れたものを使いたくないのは理解できる。しかし、箸や茶碗は使う度にきちんと洗っているのに、なぜだろう。
 学食や大衆食堂では、黄色の竹箸が赤い頭をのぞかせて無造作に竹筒に挿してあった。割り箸を出すのはもう少し高級な店であった。今でも料亭などで奇麗な竹の割り箸が出ることがあるが、エコということで塗り箸が多くなった。
 箸と茶碗がなぜ専用かと考えると、これはルーツの一つに箱膳があるかも知れない。
 自分の食器を一つの箱に収めて自分で管理する、食事が終われば奇麗に洗い箱に入れ、裏返して皿茶碗を載せていたふたを閉める。流しに行き茶碗を洗うのを省略し、白湯(さゆ)をたっぷり入れた茶碗で箸の先を、1枚残したたくあんでこすり、ついでに茶碗の内側もこすり、お湯をお椀に移し、お皿もたくあんでこすり洗いして、最後にお湯とたくあんを頂いておしまい。
 清潔とは言い難いがエコは確かである。この箱膳の自分専用の流れが、茶碗と箸は専用に繋(つな)がっているのかも知れない。

(一部省略)

山形県 山形市医師会たより 第568号より

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