平成28年度第3回都道府県医師会長協議会が1月17日、日医会館大講堂で開催された。 当日は、7県医師会から「高齢運転者に対する認知症診断検査」「在宅医療専門診療所の現状と課題」「新たな専門医の仕組み」など、直近の課題に関する質問並びに要望が出され、担当役員からそれぞれ回答を行った。 |
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会長あいさつ
今村定臣常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした横倉義武会長は、「財政が逼迫(ひっぱく)し、人的・物的資源も限られる中で、増大する医療・介護需要にいかに応え続けていくかが、わが国の総力を挙げて取り組んでいかなければならない課題である」とした上で、「その解決のためには、まず医療・介護の実態を可視化し、課題を広く国民と共有していくとともに、社会保障制度の拡充を図り、健康寿命の延伸につながる施策を推進していくことが重要になる」と指摘。
また、その取り組みの核になるものが「かかりつけ医」であるとして、今年も引き続き、かかりつけ医の普及と定着に努めるとともに、かかりつけ医機能の更なる評価を求めていく意向を示した。
2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に関しては、①財源抑制による給付範囲の縮小は、国民皆保険を崩壊させる大きな要因になること②医療機関の費用構造を見ると、人件費の割合は2000年度に50・2%だったものが、2012年度には46・4%まで低下していること―などを政府与党等に対して強く訴えていきながら、国民が安心して医療や介護を受けられるよう、必要な財源の確保に努めていくとした。
また、併せて、「国民皆保険を堅持し、持続可能な社会保障を実現するために、我々医療側からもコスト意識をもった処方を『診療ガイドライン』に掲載する等の取り組みを推進していくとともに、国民に対しても、安心して医療や介護を受けるためには何が必要か、そのコストを示しながら、広く理解と同意を得ていきたい」と述べた。
その上で、横倉会長は、医師会の強みは、郡市区等医師会、都道府県医師会並びに日医による縦の連携と、全国をカバーする横の広がりにあると強調。「その強みを活かしつつ、引き続きわが国の医療が進むべき道筋を示しながら、医療を取り巻く多くの課題の解決に努めていく」として、都道府県医師会の更なる支援を求めた。
協 議
(1)高齢運転者に対する認知症診断検査の医療費について
山口県医師会からの道路交通法改正に伴う、高齢運転者に対する認知症の診断費用についての質問には、鈴木邦彦常任理事が回答した。
高齢者が警察で行う簡易の認知機能検査の結果、認知症の疑いがあるとする「第一分類」になると、各都道府県公安委員会から本人宛てに「臨時適性検査通知書」もしくは「診断書提出命令書」が出されるが、臨時適性検査については費用が公費負担となることを説明。一方、そうでない「かかりつけ医」や専門医の診察については、診断書の作成料を除いて、通常の保険診療と同様の扱いであるとし、日医としては、診断書作成に関する参考資料を、3月1日に開催予定の都道府県医師会介護保険担当理事連絡協議会までに示す予定であるとした。
その上で、同常任理事は、「かかりつけ医が対応できるのは、長年診療してこれまでの心身の状況や認知症の症状を把握している患者の場合である」として、初診や、かかりつけ医として診察している患者であっても認知症の診断が難しい場合は、都道府県警察が作成する専門医のリストを基に紹介状を書くか、都道府県警察に相談するよう患者に助言することを求めた。
また、費用を自賠責保険や任意の自動車保険で負担する提案に対しては、「自賠責保険は自動車保有者に強制加入を求めている公的な性格の強い保険であり、保険料を負担していない高齢免許取得者や高齢者に限定して活用することは、被害者救済という自賠責保険の制度趣旨からも難しい」との見解を述べた。
(2)「成育基本法」の早期制定に向けて
「成育基本法」の早期制定に向けた、日医の対応を問う鹿児島県医師会からの質問には、温泉川梅代常任理事が回答した。
同常任理事は、成育基本法成立に向けた経過表等の資料を基に、①昨年9月に、日医、産婦人科医会、小児科医会の三者で、成育基本法の早期成立に向けた意見広告を全国紙に掲載し、国民に対する周知を図ったこと②同11月に開催された「成育基本法成立に向けての議員連盟役員会」において、自見はなこ参議院議員が事務局次長に就任するとともに、事務局長の羽生田俊参議院議員より現状についての説明が行われ、成育基本法の早期成立に向けて意見の一致が確認されたこと③自ら議員連盟の方々を訪問し、説明を行ってきたこと―等、これまでの活動を報告。今後も、羽生田・自見両参議院議員と協力し、法案の早期成立に向けて努力していくとした。
成育基本法の国会への上程が遅れていることについては、現在、自民党の重要議案が多く上程が困難な状況であると説明。一方で、マスコミ、厚生労働省等への理解は広がっているとして、引き続き、小児科医会、産婦人科医会と協力し、議員連盟の方々へのロビー活動とマスコミ等を通じた国民への周知を行っていくとするとともに、各都道府県医師会に対しては、地元の国会議員への働き掛けを求めた。
(3)転院搬送における救急車の適正利用について
転院搬送における救急車の適正利用の推進に関して、都道府県知事宛てに平成28年3月31日付で発出された消防庁、厚労省連名による通知に対して、日医の見解を問う長野県医師会の質問には、松本吉郎常任理事が回答した。
同常任理事は、まず、本通知の作成に当たって争点となったのは、「緊急性の乏しいとされる転院搬送」にどのような規制をかけるかにあったと説明。日医としては、「緊急性があるか否かは医師が判断するものである」と強く主張し、「急性期の治療が終了した傷病者についても、転院搬送要請元の医療機関の医師が、他の医療機関で専門医療または『相当の医療』を要すると判断した場合は、転院搬送の条件を満たすと書き込ませた」と述べた。
「転院搬送要請元の医療機関から、医師や看護師が同乗すること」についても、地域医療の確保の観点から強く問題視し、通知の別紙に示されたガイドラインにおいて、「緊急性や専門医療等の必要性があった場合でも、要請元の医師等が同乗できず、救急隊のみで搬送する場合は、患者や家族に説明して了承を得ることを、地域メディカルコントロール協議会等で検討して合意の上でルール化しておくことが望ましい」とされていることを紹介。画一的に、医師等の同乗が義務付けられたわけではないとした。
その上で、同常任理事は、各地域でどのようにしてルールがつくられ、緊急性や専門性があって、かつ、医師等が同乗できない場合であっても転院搬送が円滑に行われているかについて改めて検証を要請する意向を表明。今後も病院救急車の活用を始め、地域医療、地域包括ケアを守る視点に立って、より適切な患者の搬送体制を推進していきたいとした。
(4)いわゆる、「終末期医療、決定プロセスガイドライン」及び「尊厳死法制化」に関して
岡山県医師会からは、2012年に「尊厳死法制化を考える議員連盟」が公表した法律案及びがん治療に携わる現場の医師の考え方に対して、日医の見解を問う質問が出された。
羽鳥裕常任理事は、議員連盟が作成した法律案について、ヒアリング等を通じてその内容の問題点を指摘してきたとした上で、尊厳死の法制化については、①法制化を考える前のステップとして、終末期医療の自己決定権などを国民に啓発していく中で、事前指示書の普及などを図っていくことが重要である②日医としては、個別性の高い終末期医療を法制化することに対して、より慎重であるべきであり、現状では、公的ガイドラインに従うことで、現場の医師が免責を受けられることが望ましいという立場を取っている―ことなどを説明。今後は、諸外国の状況等も十分検討し、国民的な議論を喚起しつつ、わが国の社会・文化に合った終末期医療のあり方を継続的に考えていくことが必要になるとした。
現場の医師の考え方に関しては、まず、「終末期医療はがんで余命期間がある程度予測できる場合と、高齢者で認知症が進み、終末期を迎えた場合とその決定プロセスは大きく変えるべき」との考えには、「当然である」と回答。緩和ケアは早い時期から行うべきとの意見に対しても、「異論はない」とした。
また、「終末期医療は医師と患者の阿吽(あうん)の呼吸が肝要」との意見には、「患者本人の意思を尊重し、患者にとって何が最善なのかという観点から、その尊厳やQOLをより重視した医療を行うことが、まずは肝要」とした。
(5)在宅医療専門の診療所の現状と課題について
静岡県医師会からの在宅医療専門の診療所の現状と課題に関する質問には、松本純一常任理事が回答した。
同常任理事は、日医ではこれまで、「かかりつけ医の外来診療の延長に在宅医療があるべき」との考え方の下に、診療報酬改定の度に不適切事例への対応を行ってきたが、超高齢社会を迎え、ますます在宅医療の必要性が高まる中、かかりつけ医だけで在宅医療に対応することが難しい状況となっていることから、「一定要件を課した上で、かかりつけ医を後方支援する在宅医療専門の診療所を容認することとした」とその経緯を改めて説明。
「地域医師会から協力の同意を得る」という要件を設けたにもかかわらず、「地域内に協力医療機関を2カ所以上確保する」というもう一つの要件により申請を行い、地域医療にも協力的ではない診療所が出てきていることについては、「まさに我々が懸念していた事態が実際に生じてしまった。こういった診療所が増え、地域医療を乱すようなことがないよう、次期改定では厳しく対処したい」として、他の地域からの情報提供を求めた。
また、そもそも保険医療機関の指定を受けるためには、外来応需の体制を確保することが求められるが、日曜日1日だけ外来診療を実施しているような診療所については、その体制を確保しているとは言えないとして、厚労省から都道府県知事や保健所設置市長に対して、応需体制等の実態の把握を徹底するよう強く要請したいとの考えを示した。
(6)データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会について
厚労省に設けられた「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」が取りまとめた報告書並びにその内容を踏まえた日医の対応を求める徳島県医師会からの質問には、石川広己常任理事が回答を行った。
同常任理事は、①本検討会は規制改革会議健康・医療ワーキンググループにおいて、「現行の支払基金を前提とした組織・体制の見直しではなく、診療報酬の審査の在り方をゼロベースで見直す」と改革の方向性が示されたことを受けて、昨年4月に立ち上げられ、松原謙二副会長が参画していた②規制改革会議の構成員からは、「支払基金の支部は都道府県ごとに置く必要はなく、集約化・一元化すべき」と抜本的な見直しを強く求められたが、最終的な報告書には、その意見と共に「支部を都道府県に残すべき」「支部に必要な機能がどういったものであるのかを明らかにした上で方向性を決めていくべき」との考えが併記された③今後は2つの改革工程表が、厚労省の関与の上で策定される予定であるが、まずは本年春を目途に工程表について基本方針が取りまとめられる予定である―こと等を説明。
徳島県医師会から指摘のあった「コンピュータチェックを医療機関において行う仕組みの構築」「ビッグデータの活用」については、具体的な検討に当たり、配慮されるよう働き掛けていくとした。
(7)新専門医制度に対する専門医機構の対応について
新たな専門医の仕組みが不完全な仕組みとなることのないよう、日本専門医機構の更なる対応を求める愛知県医師会からの質問には、羽鳥常任理事が回答した。
18の基本領域の決定過程については、「日本専門医機構の理事の中からは基本診療領域を見直すべきとの意見もあったが、関係学会は既に基本診療領域として新プログラム等の準備やシステム整備も行っており、領域自体を根本的に見直すことは現実的には困難であった」とその現状を説明し、理解を求めた。
「専門医」の定義の再考を求める意見に対しては、今後各領域で学会が定める「整備基準」等によって、適切な専門性と質が担保されることになるとの認識を示すとともに、いわゆるサブスペシャリティ領域の専門医については、基本領域の専門医の資格を有することが前提条件となることから、必然的により高い専門性を有することになるとの考えを示した。
医師の偏在解消に関しては、今後とも、各プログラムに係る都道府県協議会との調整等を通じて、医師の地域偏在が助長されることがないよう、日本専門医機構の適切な運営を強力に支援していくとした。
その上で、同常任理事は、「医師の地域偏在の解消は、専門医研修という限定した局面のみで行われるべきものではなく、医学部入学の際の地域枠、あるいは臨床研修制度のあり方を含め、多角的に対応すべき」との考えを示すとともに、日医としても昨年、会内に「医師の団体の在り方検討委員会」を立ち上げたことを報告。
医師の偏在解消に向けて、都道府県を単位とする医師の団体等が大学等や行政と協働・連携して問題解決に当たる仕組みについて議論を深めていくとした。