2年前から犬を飼っている。特に珍しくもないだろうが、私は子どもの頃から犬を飼ったことがなかったため、子犬が家に来るまでは不安で仕方なかった。しかし今ではすっかり犬バカである。かつては自分の娘達が世界で一番可愛い姉妹と思っていたが(親バカ)、今ではこの息子(トイプードル)が世の中で最も賢くて可愛い犬だと思っている。
息子は生後3カ月から散歩を始めた。最初は10分程度であったが、現在は1日2回、朝は約30分、夕方約1時間、平日の夕方以外はほとんど私が散歩に連れて行く。雨の日も雪の日も。息子は散歩が大好きである。トイレも兼ねているので休むわけにもいかない。おかげで近所はほぼ歩き尽くした。
八木山に住んで10年以上になるが、恥ずかしい話、犬の散歩をするまでは近所のことはほとんど知らなかった。ところが今ではどこにどんな家があって、どんな車が停めてあって、どんな犬がいて、とか、○○ちゃん(子どもたちの友人)の家がここで、○○先生(医師会会員)の邸宅がこちらで、などかなり知っている。
犬を連れていれば不審者に間違われることもない。子どもや若い女性が向こうから寄って来てくれることもある。もちろん近所にも犬を飼っている家はそれなりにあって、散歩で会えば話をするようになり、顔見知りも増えてきた。
犬を飼うのが初めてだったこともあり、犬に関する本などもかなり読んだ。最初は飼育やしつけに関するものであったが、今では犬そのものを科学的に研究した本を読むのも楽しい。
イヌがオオカミから進化(分化?)したことは間違いないようだが、現在のイヌの多種多様性をみると本当の意味での「純血種」はもはや存在しない。
また、いつからあのようにヒトの動きや表情を鋭く読み取る能力を持つようになったのか、それがヒトと生きることによって徐々に備わっていった能力なのか、それともその能力を何らかの理由で持ったもの達だけが生き残ったのか、そんなことがイヌの研究者の間では論争にまでなっている。
ヒトには想像できないような嗅覚だけでなく、聴覚もヒトより優れていることを知った。一方、視覚については色覚がヒトよりかなり劣り、近くの細かな物はあまりよく見えないが、遠くの動く物には敏感に反応する。確かにうちの息子も皿からこぼれたドッグフードを時々見失っているかと思えば、数十メートル先で風に吹き流されるポリ袋に向かって吠えたりしている。彼らの頭の中ではこの世界がどのようにイメージされているのであろうか。彼らにもヒトと同じ感情があるのだろうか。可愛さのあまり、ついついヒトと同じように考えているのだろうと思いたくなってしまうが、本当のところはまだ科学的に解明されてはいない。
私は犬バカになった。親バカも楽しかったが、犬バカも楽しい。愛犬家という響きのいい言葉もあるが、「私は愛妻家です」となかなか言えないのと同じように「私は愛犬家です」とは、どうも言いにくいので、私は犬バカでいい。
(一部省略)
宮城県 仙台市医師会報 No.607より